急変する北部情勢:ロシアによるシリア対空防衛完成か 2018.12.5

11月30日、シリア政府メディアSANAは、ダマスカス南部の町アル・キスワが、イスラエルからのミサイル攻撃を受けたため反撃し、ミサイル4発とイスラエルの戦闘機を撃墜したと発表した。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5417116,00.html

アル・キスワは、イスラエルとの国境からわずか50キロ地点で、イランの軍事拠点があるとみられている。5月にもイスラエルによるとみられる攻撃で、イラン人8人とシリア人7人の計15人が死亡した。

さらに、その半年前にも同じ地域が攻撃されている。したがって、今回もイスラエルによる攻撃であった可能性は高い。しかし、イスラエル軍報道官は、これを否定。戦闘機の撃墜も否定した。

<ロシア:シリアの対空防衛完成か?>

シリアのイスラエル戦闘機を撃墜したという発表が本当なのかどうかは、知る由もないが、ロシアがいよいよシリアに地対空ミサイルS300, S400の配備を完了したのではないかとの見方があり、懸念が広がっている。

www.presstv.com/Detail/2018/12/02/581738/Russia-Syria-air-defense

シリアの地対空攻撃能力がたかまっていることは、9月に、ラタキアでヒズボラへの武器移送を阻止しようとして攻撃しに来たイスラエル軍機の迎撃を試みた時に、あやまってロシア機を撃墜したことからも懸念されていた。

この時、ロシア人乗組員15人が死亡したが、プーチン大統領は、「これは事故であった」と鶴の一声を発し、大きな衝突を避けた。その代わりに、堂々と、シリアにS300の配備を開始したとの声明を出したのであった。

それから2ヶ月。もし、今、ロシアが、シリアにS300の配備を終えたとしたら、今後、イスラエルが、イランからヒズボラへの武器移送を事前に攻撃したり、シリア領内でのイランの軍事行動を察して先手を打ったり、シリアの核兵器開発が疑われる場合の先制攻撃は非常に難しくなる。

ロシアがシリアの地対空防衛を強化するのは、中東でのアメリカの進出を食い止めるためである。これまでのところ、ロシアは、イスラエルについては、まだ協力関係を維持しているようだが、これは、シリアでイランが強くなりすぎないようにするためと考えられている。

<不気味なロシアの進出:ウクライナ危機再び>

シリアで存在感を増し加えているロシアだが、ウクライナでもロシアの進出が、緊張感を増している。

11月25日、黒海に面するオデッサを出て、クリミア半島を回り、アゾブ海に向かっていたウクライナの砲艦2隻と牽引船の計3隻が、アゾブ海への入り口、ケルチ海峡で、ロシア海上保安船と衝突。ロシアは戦闘機やヘリコプターまで動員して、ウクライナ船に発砲し、ウクライナ人3-6人が負傷した。

その後、ウクライナ船3隻と、乗組員24人はロシアに拿捕された。24人はまだロシアに拿捕されたままである。

ロシアは最初、ウクライナ船が、ロシア領海を侵犯したと主張したが、ウクライナは、これはロシアの挑発だと主張した。今、2014年以来のウクライナ危機再来と懸念されている。

time.com/5469395/ukraine-defense-reservists-russia-tension/

*東西冷戦の発火点

ウクライナ砲撃船が向かっていたアゾブ海は、クリミア半島とケルチ海峡に挟まれた湾で、ウクライナ、親ロシア勢力、ロシアの3者がみな湾へのアクセスをもつ、複雑な湾である。問題は、黒海からこの湾に入るには、狭いケルチ海峡を通るしかないということである。

ロシアとウクライナは2003年に、海峡の通過の自由に合意しているが、2014年にロシアが、クリミア半島を併合すると、数年後には、ロシアがケルチ海峡に武力を強化し、通過する船の検問するようになっていた。これにより、アゾブ海に面するウクライナの港は、閑古鳥がなくようになり、経済的な打撃となっていった。

2018年には、ロシア領からケルチ海峡をまたいで、クリミア半島に至る橋が完成し、ロシアはますますこの湾での支配力を高めるようになっていた。

ウクライナは国際社会に、ロシアの動きを訴えたが、西側諸国はこれをとりあげなかった。今回の衝突でも、ウクライナは、ロシアが、アゾブ海を占領し、ウクライナへ侵攻してくる可能性があるとして、武力支援を要請したが、欧米は非難しつつも、これに応じる様子はない。

ウクライナが、単独でロシア軍に立ち向かえるはずもないのだが、ウクライナのポロシェンコ大統領は、予備役の招集と、国境の防衛を強化。東ウクライナとロシアとの国境を武装地帯とし、ロシア人男性(16-40歳)のウクライナへの通過を禁止する措置を発表した。期間は今の所30日間とされる。

ロシアは、これを、「緊張を高めるばかげた行為だ。」と言っている。また、ケルチ海峡の通過をロシアが妨害しているというウクライナの訴えも否定した。

ちょうどこの時、アルゼンチンでG20が行われたが、トランプ大統領は、この問題を西側への挑戦であるとして、予定されていたプーチン大統領との2者首脳会談をキャンセルした。

www.bbc.com/news/world-europe-46340283

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。