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パレスチナ人の反政府デモ
先週木曜になるが、パレスチナ自治政府で、自治政府に反発する書き込みを続けてきた活動家ニツァール・バナットさんが逮捕され、治安部隊に殺されたことがわかった。
これをきっかけに、パレスチナ市民による大規模な反アッバス議長デモが、ラマラ、ヘブロンなどで発生した。数日間続いた。
デモは平和的なものであったが、自治政府の治安部隊は、催涙弾を使ってデモ隊を解散させようとした。
また一部は私服姿の覆面状態で市民や、デモを取材していたジャーナリストらに暴力をふるって逮捕し、機材やデータは破壊されたという。
ジャーナリストの中には、治安部隊に携帯を奪われたことから、自分だけでなく、家族の身の安全が脅かされていると訴えている。パレスチナ自治政府からのプレスカードを破棄した者もいる。
また特にデモに参加した女性たちや女性のジャーナリストに対しては、性的な嫌がらせやレイプの脅迫もあったという。
2日(金)、パレスチナ人のジャーナリストたちは、ラマラにある国連事務所の前で、国際的な介入を求めるデモを行った。
www.ynetnews.com/magazine/article/BJN8jQj3d
国連人権保護団体は、パレスチナ自治政府に対して、市民に平和にデモ活動をさせるよう伝えている。
日頃、イスラエルに対して人権無視を非難する同団体が、今回は、パレスチナ自治政府を非難した形である。
www.timesofisrael.com/un-human-rights-chief-urges-palestinian-authority-to-allow-protests/
なお、一般市民による反アッバス議長デモは、この週末にもデモは再開されると言われていたが、再開されなかったもようで、ニュースになっていない。
アッバス議長支持率急低下14%:ハマス急上昇53%
世界は今様変わりが進んでいる。アメリカ、イスラエルと、もうすぐドイツと、世界の指導者が交代する中、パレスチナ人社会にも変化が出てくる可能性があるかもしれない。
中東では、2010年から2021年にかけて、市民たちによるデモ活動で、政権が崩壊するという、いわゆる「アラブの春」が発生した。今のパレスチナ市民の動きが、アラブの春のなりうるのかどうか、イスラエルは、高い警戒をもって注目している。
パレスチナの場合、今、とりあえずは、国際社会にもその存在が認められ、なんとか対話も可能なパレスチナ自治政府が倒れると、次に出てくるのは、国際社会でもテロ組織としてマークされているハマスしかないからである。
実際、5月のハマスとイスラエルとの戦闘の後に行われた調査によると、ハマスの支持率が53%と急上昇し、パレスチナ市民のアッバス議長と自治政府の支持率がわずか14%にまで落ち込んでいた。なぜ、ここまで落ち込んだのか。
1)汚職にうんざりと選挙の再延期にうんざり
アッバス議長は、本来の約束に反して2005年の故アラファト議長死去後から、ずっと議長の座についている。
パレスチナ市民の間では、もはや、アッバス議長(85)とパレスチナ自治政府の腐敗を疑う人はいない。不満は徐々に高まっているのは確かである。
経済も悪く、ワクチンも届いていない。外交もうまく行っておらず、海外からの支援金も滞っている。
アッバス議長は、今年、ようやく総選挙を行うと発表した。この選挙には、ハマスも出馬する予定であった。
いよいよ政権が変わるとして、市民はこの選挙にかなり高い関心を示した。投票に行くと言っている人は90%をこえていた。
しかし、まもなく、アッバス議長は、自身が、ハマスに負ける可能性が見えてくると、選挙を延期すると発表したのであった。選挙の延期は、パレスチナ市民の間で、大きな落胆となった。
2)イスラエルに妥協ないハマスの姿を再認識
これを利用したかのように、ハマスが、我々は東エルサレムとハラムアッシャリフ(神殿の丘)の保護者とばかりに、“勇敢”にもイスラエルと戦う姿を見せた。
ハマスを本当に支持しているかどうかは不明だが、人々の心はいよいよアッバス議長を離れ、これからはハマスしかないと考える人が増えたということであろう。
皮肉にも、アメリカのバイデン政権は、今、とりあえずは公的機関であるパレスチナ自治政府を、交渉の窓口にもどそうとしている。
トランプ前政権は、イスラエルの首都はエルサレムだと宣言し、イスラエルのネタニヤフ前政権も、アッバス議長を切り捨て、ハマスと直接交渉を行った。
このため、アッバス議長とは、少なくとも表向きは断絶状態であった。しかし、ハマスとの交渉は進まず、この方針が功を奏しているとはいえないのが現状である。
このため、バイデン大統領は、パレスチナ自治政府をパレスチナ人の指導者と認識する元の形に、戻そうとしているということである。
しかし、この様子を見ると、もはやアッバス議長をパレスチナ人の代表として扱うことに、無理があるかもしれない。
パレスチナ自治政府はまだ強固?:サリ・ヌセイベ教授(アル・クッズ大学教授)
ヌセイベ教授は、パレスチナのアル・クッズ大学で哲学などを教えている。2005年までは、パレスチナ自治政府のエルサレム代表を務めた。ヌセイベ教授は、このデモが、劇的にパレスチナ自治政府を倒すようなことはないと分析する。
ヌセイベ教授は、パレスチナ自治政府は、ファタハ(PLO)に支えられており、今もその支持が強固であると指摘する。
実際、パレスチナ自治政府関連で生計を立てている人がそうとう多いと記憶しているので、自治政府の転覆を好まない人も少なくないということである。
また、イスラエルはじめ、国際社会が、パレスチナ自治政府を頭とすることで、得られている平穏を維持したいと考えていることも理由にあげている。次にハマスが出てくると、これはなお悪い状況になるといえるからである。
またもっと基本的なところでは、今回のデモが、バナットさん殺害という言論と人権侵害が、問題なのであって、パレスチナ自治政府そのものを否定するものではないという点も指摘する。
人権侵害問題などに関心のある人はデモに出るが、そこに関心のない人は、デモには参加しないとみられる。要は、現政権は気に入らないが、生活はしていかなければならないというのが、パレスチナ市民の現状でもある。
そういうわけで、ヌセイベ教授は、今すぐに自治政府が転覆するということはないが、人々の不満は確かにあるので、長い目でみれば、そういう日がくることもありうるかもしれないと語っている。
しかし、非常に冷静な分析だが、ヌセイベ教授自身が、自治政府に関連する人であるので、実際にどうかはわからないかもしれない。
統計が指し示すところは、アッバス議長の支持率が、わずか14%で、ハマスは53%と半分以上になっているからである。
強気のハマス
実際、この波にのってか、ハマスは、イスラエルへの火炎風船作戦を再開させており、イスラエルもこれに反撃するという形になっている。
イスラエルは、エジプトにおいて、ハマスに囚われたままのイスラエル人2人と、イスラエル兵2人の遺体を取り戻すべく交渉を行っていた。
しかし、結果をだせないまま、代表団は帰国している。イスラエルとハマスの戦闘はもはや時間の問題とも言われている。