アラブ首長国連邦(UAE)のイスラエル大使館開所式:ラピード外相が初の正式訪問 2021.6.30

UAEで記者会見するラピード外相 Shlomi Amsalem/GPO)

湾岸アラブ諸国に初のイスラエル大使館

29日、ラピード外相が、イスラエル外相という高官レベルとしては初めて、湾岸アラブ諸国の一つアラブ首長国連邦(UAE)を訪問。

アブダビで、イスラエル大使館の開所式を行った。大使館は、アブダビのエチアド・タワー20階の一室である。初代イスラエル大使は、エイタン・ネア氏。

開所式では、現地のユダヤ教正統派ハバッド派のラビ・レビ・ダクマンが、ラピード外相とともに、大使館入り口の柱にメズザを設置した。

*メズザ
メズザは、小さな20センチぐらいまでの棒状のもので、ユダヤ人の家屋の入り口の柱に斜めに設置されている。中には、羊皮紙に聖書の申命記6:4、11:13-21を書き記したものが入っている。聖書の命令であり、ユダヤ人の守るべき613の律法の一つ。

聞きなさい。イスラエル。主は私たちの神。主はただひとりである。(申命記6:4)

ユダヤ人の家屋、アパートなどほぼ全ての家にはメズザがつけられている。多くのユダヤ人は、入室する時、これに軽く触れ、口に手を当ててキスとし、神を思い出すということである。

世俗派としての旗印で、正統派たちの従軍問題でも衝突もあったラピード外相が、黒服のラビたちとともにいる様子はなんとなく違和感もあるが、これはイスラエルとしては、あたりまえの正式な習慣ということである。

UAEからは、ザヤード・アル・ナフヤン外相、在イスラエルUAE大使館のモハンマド・アル・カジャ大使も出席した。テープカットは、ラピード外相と、UAEのノウラ・アル・カアビ文化相。

ラピード外相は、これを歴史的と呼び、「今日、私たちは戦争ではなく、平和を選びました。紛争ではなく、協力の道です。過去の悪い記憶ではなく、未来の子供たちのための道を選ぶのです。」と述べた。

また、ラピード外相は、イスラエルの存在が中東からなくなることはないと強調。中東の国々に対し、平和構築のため、UAEに続くよう、呼びかけた。

今のところ、UAEにつづくのは、バーレーンである。29日、バーレーンの国王は、イスラエルへのバーレーン大使として、カリド・アル・ジャラフマ氏を正式に任命すると発表した。

www.timesofisrael.com/lapid-inaugurates-uae-embassy-on-1st-official-visit-thanks-netanyahu-and-trump/

なお、UAEからイスラエルへの大使館は、アル・カジャ大使が、3月1日にすでに就任し、開所式も終わっている。

www.timesofisrael.com/a-shared-mission-israel-officially-receives-first-ever-uae-ambassador/

イスラエル大使館・裏事情とネタニヤフ前首相への感謝

UAEでは、現在、新型コロナの感染が拡大中(新規感染1日2000人)で、イスラエル政府は、UAEへの渡航を禁止している。ラピード外相は、その中で、今回の開所式に踏み切った形である。

就任早々、ラピード外相が、開所式に踏み切ったのは、イラン問題が緊張している中、中東ではじまったアブラハム合意をさらに安定させ、これに加わる国が起こされていく必要があるというのが、新政権での大きな優先度になっているとみられる。

実は、アブダビのイスラエル大使館の開所式は、今年1月には、場所も大使も決まっていたのであった。しかし、選挙問題や、コロナ問題など、様々な事情で、延期に延期が続いていたのであった。

大きな延期の原因の一つは、UAEがイスラエルとの国交正常化で合意する際、トランプ前大統領とネタニヤフ首相が、裏で、UAEに中東国としては初めてとなる最新式戦闘機F35を販売する約束を交わしていたことである。

これについて、ガンツ防衛相は、他のアラブ諸国にもF35が出回ってしまうと懸念を表明し、ガンツ防衛相がアメリカにいくなどして、改めての交渉が行われるという、ごたごたもあった。

その後コロナ問題が本格化し、新政府も決まらなかったことから、大使館開所は延期が続いたということである。

しかし、各社メディアは、これまで、延期がつづいたのは、ネタニヤフ首相によるとの見方もある。

アブラハム合意 2020年8月

アブラハム合意を可能にしたのは、ネタニヤフ前首相であった。その後、ネタニヤフ前首相は、どの政府高官にもUAEへの訪問をさせないようにして、この記念すべき開所式には、自分が出ていくよう計画していた可能性も指摘もされている。

今、皮肉にも、ラピード外相が、その栄光ある役割を担うことになり、ネタニヤフ前首相は、さぞ悔しい思いをしているだろうとも書かれている。

しかし、ネタニヤフ前首相の働きがなければ、この合意はありえなかった。

開所式の演説において、ラピード外相は、アブラハム合意のために働き、実現させたネタニヤフ前首相への感謝を表明した。トランプ前大統領、バイデン現大統領にも謝辞を述べている。

アブラハム合意においては、トランプ前大統領と、ネタニヤフ前首相の名が、歴史に残されていくだろう。

www.jpost.com/israel-news/in-lapids-visit-to-the-uae-the-symbols-are-consequential-analysis-672381

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。