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総選挙結果:ネタニヤフ陣営安定過半数
総選挙の最終結果が出た。予想に反して、ネタニヤフ陣営が64議席と、安定した過半数を確保した。来週、ヘルツォグ大統領から連立立ち上げ指名を受け、早ければ、11月中旬にもネタニヤフ政権復帰となる可能性も出てきた。
結果は以下の通り。
ネタニヤフ陣営:青
リクード(32議席)、宗教シオニスト党(14議席)、シャス(11議席)、統一トーラー党(7議席)
ラピード陣営:黒
未来がある党(24議席)、国民統一党(12議席)、イスラエル我が家(6議席)、ラアム党(5議席)、労働党(4議席)*ハダシュ・タル(4議席)黄緑
左派メレツ党とアラブのバラドは、最低得票率3.25%(4議席分)を達成できなかったので、国会入りすることができなかった。この4議席分のうち3議席が、ネタニヤフ陣営に流れて、安定過半数ということになったわけである。
www.jpost.com/israel-elections/live-updates-721259
左派政党、メレツは1992年に党設立以来となる国会からの撤退となる。極右政党を含む圧倒的な右派からなるネタニヤフ陣営を前に、左派政党がいなくなるので、これからのイスラエルの歩みが、右派よりになっていくことは容易に予想できる。
ラピード首相は、最後まで敗北を認めなかったが、今はこれを認めたのか、11月6日からシナイ半島で行われるCOP27(国連気候変動枠組条約締約国会議)への出席を辞退し、代わりにヘルツォグ大統領が出席することとなった。
3日、選挙委員会から最終結果が発表されると、敗北を認め、ネタニヤフ氏を祝福する声明を出し、政権移譲の準備を始めたことを明らかにした。ラピード首相は、中道左派であり、ネタニヤフ氏とは以前にも意見が合わずに決裂した経緯がある。それでもネタニヤフ氏を祝福するのは、イスラエル国民のためだと語っている。
www.timesofisrael.com/conceding-loss-lapid-wishes-netanyahu-luck-for-the-sake-of-the-israeli-people/
ネタニヤフ陣営:まだ連立に加わる右派を引き込むねらいも?
これからの流れは、まず4日に最終結果が正式にヘルツォグ大統領に報告され、大統領は来週、2日ほどかけて全党首と個別に会談を行う。連立に加わるかどうかの意志を確認し、最も過半数になるとみられる党の党首、おそらくはネタニヤフ氏に連立政権立ち上げを任命する。これが来週中になるとみられている。
ネタニヤフ陣営は、すでに連立の約束をとっているユダヤ教政党と、今回大躍進した宗教シオニスト党だけで64議席ある。しかし、さらなる安定のため、大統領からの指名を待たずに、ラピード陣営の政党や右派議員個人に政権側に入るよう、交渉を開始している。つまり、連立政権でのポジションを提示したり、各党の要求をどこまで飲み込めるかの交渉である。
たとえば、ガンツ防衛相がギドン・サル氏と立ち上げた国民統一党(12議席)が、もしこの党がネタニヤフ陣営に寝返った場合、65議席が77議席とさらに強力な連立体制になるわけである。ガンツ氏はすでにその可能性を否定しているが、党員の中からネタニヤフ陣営へ寝返る右派議員もいるかもしれない。
またイスラエル我が家党のリーバーマン氏も右派だが、こちらは右派は右派でも世俗系なので、ユダヤ教政党がいる政権には入らないとみられる。しかし、個人の議員が離脱していく可能性はある。
どんな政権になっていくのか
今回の総選挙の大きな特徴は、極右政党を含む宗教シオニズム党が、大きく支持率を上げたことであった。宗教シオニズムとは、ユダヤ人の国イスラエルが、存続し繁栄していくことは、聖書に基づくことであり、神のみこころであるという考え方である。
近年、イスラエル人が、ユダヤ教に回帰している傾向にある中、緊張するイランや世界情勢、またパレスチナ人との衝突深刻化などで、右寄りになっていることを表している。よくも悪くも、今後予想されることは以下のような点である。
極右のグブール氏は、エルサレムはイスラエルだけのものであり、西岸地区からもパレスチナ人はいるべきではないといった考えの持ち主である。そのグブール氏が、警察を管轄する国内治安相を要求している。
同じく宗教シオニスト党のスモルトリッチ氏は、財務相、法務相を要求。スモルトリッチ氏は、最高裁の権威を変える法案を進めることを表明している。
最高裁が首相を起訴できなくなる法律で、これが成立すると、今汚職で裁判に直面しているネタニヤフ氏が無罪方面ということになる。言い換えれば、政府が最高裁の上に立つという事で、権力の集中、ひいては民主主義の危機との指摘もされている。
また、ユダヤ教政党が政権に復帰し、要望を出せる立場にもどることから、ベネット・ラピード政権がすすめてきた、超正統派の社会参画や、従軍義務への取り組みが逆戻りすると考えられる。貿易拡大のために、コシェル認証(食物規定に合うか合わないかの認証)を正統派ラビでなくても認証許可を出す方針に変わっていたが、これがまた、ラビ職のみに戻ると予想されている。
また女性議員の数が激減するともみられている。
www.timesofisrael.com/a-netanyahu-led-government-would-see-sharp-drop-in-women-in-coalition/
こうした流れを最も懸念するのは、特にアメリカのディアスポラ(イスラエル外に住むユダヤ人)である。イスラエルに移住する資格としてのユダヤ人かどうかの基準がさらに高まっていく可能性がある。これまでからも右派に傾いていくイスラエルと、ディアスポラの関係は悪化が続いていた。ラピード政権で若干、その流れが変わり始めていたところであった。
アメリカのユダヤ人たちは民主的で世俗な人も多い。イスラエルが右に傾いていくづつ、特に若いディアスポラのユダヤ人たちのイスラエル離れが進んでいる。ディアスポラ社会からは、この選挙結果への懸念も出ているとのこと。
世界の反応:懸念・警戒・期待も
世界はやはり、極右のベン・グブール氏の政権入りに懸念を表明している。特にアメリカのバイデン政権は、ネタニヤフ氏とは、関係が最悪に悪かったオバマ政権時代からの閣僚もいる。バイデン大統領は、もしベン・グブール氏が閣僚の地位に入った場合、なんらかのボイコットも考えているもようである。ネタニヤフ氏の復帰は、アメリカとの関係にも一定の影を落としている。
一方で、ネタニヤフ氏は、アブラハム合意を成功させた一人である。プーチン大統領とも話ができる関係にある。ネタニヤフ氏には、懸念はあるものの、期待もある。また、イスラエルが持つ防衛力、IT能力、スタートアップ開発技術力、さらには、地中海の天然ガスを持つイスラエルと敵対することはできないだろう。
最近のラピード政権時代に、国交を回復したトルコだが、エルドアン大統領は政権が変わろうとも、イスラエルとの関係に影響を及ぼすことはないと表明している。
www.timesofisrael.com/israels-allies-may-fret-over-far-right-gains-but-few-can-afford-to-shun-it/
一方、パレスチナ自治政府のシュタイヤ首相は、だれが首相になろうが、コーラかペプシの違いであり、何か変化があるとは思っていないと語った。また、極右が台頭していることについては、「人種差別の国らしい結果」と述べた。アッバス議長は沈黙のままである。
ガザのハマスからの声明はないが、ミサイルがイスラエル南部に4発発射された。1発は迎撃ミサイルが撃墜。あとは空き地に落ちて被害はなかった。いつものように、イスラエル軍が反撃で、ロケット弾工場への空爆を行った。
www.timesofisrael.com/idf-strikes-sites-in-gaza-after-four-rockets-launched-at-south/
石のひとりごと
なんと、ネタニヤフ政権が復帰になりそうである。
数日前に政府プレスオフィスに行ったが、そこのエキスパートは、両陣営とも過半数取れず、最終的には、来年5月に6回目総選挙だろうと言っていた。あまりにも長く首相でい続けているネタニヤフ氏に嫌気をさしている市民は決して少なくないからである。
そのエキスパートを含め、過去4ヶ月の間奮闘したラピード首相が暫定から正規の首相になることを期待していた人も少なくなかったようである。イスラエル人友人の一人は、特にラピード氏が、自分より、イスラエルを優先するのが見えると言っていた。それは、総選挙で敗北が明らかになった直後のネタニヤフ氏祝福にも表れている。
一方で、今回政権を取るとみられる右派陣営は、宗教的な動機からイスラエルを左派に運営させてはならないという信念を持っている。もし今回、選挙で負けていたら、政治的な暴挙など、混乱も懸念されていた。それについては回避できたわけである。
極右を含む右派、特に宗教シオニストが発言力を持ち、ユダヤ教政党も発言力があるということから見えてくるのは、イスラエルが、ユダヤ人の国であるということが鮮明になるということ。よくも悪くも、その背後におられる主との関係が世界に発信されていくということである。
世界はこれに懸念しながらも、今すぐには反発できない現状にある。しかし、将来、イスラエルに、民主主義を掲げる世界が反発して、イスラエルが孤立していく姿もまんざら想像できなくもない。しかし、そうなってもイスラエルは、負けないのというのが、聖書が預言するところである。
福音派クリスチャンの多くは、宗教シオニストが多く、ネタニヤフ氏復帰を祈っていた人も多いだろう。筆者は、個人的には、ラピード首相の誠意を感じたので、ちょっと残念・・。しかし、同時に、ネタニヤフ氏の底なしの執念と根性には、あらためて、感服させられている。
ネタニヤフ氏は、野党転落、汚職裁判と、これ以上はないほどに貶められても諦めなかった。政治はあきらめて大統領になる話もあったが、断った。国会では、はるか年下の後輩、ベネット氏、ラピード氏の背後に座る侮辱もものともしなかった。
ネタニヤフ氏が、首相の座に執着するのは、自分のためではない。自分だけがイスラエルを守り切れるリーダーだと確信してやまないのである。確かにその政治能力は秀でている。今回、宗教シオニスト党のスモルトリッチ氏と、極右のベン・グブール氏を合体させたのはネタニヤフ氏だった。それが今回の勝利につながったわけである。政治の天才とはだれもが認める事実である。
イスラエルをとりまく状況は、厳しい。今ネタニヤフ氏を戻すこともまた、主の計画だったのだろう。しかし、この1年半の間、まだ若いベネット氏、ラピード氏がイスラエルの運営を任されたこと、ネタニヤフ氏が屈辱に耐えたこともまた、主の計画だったと思う。まだ若い2人には将来もあるからである。
いずれにしても、主の目がイスラエルの上にあることは間違いない。