1)UNRWA(国連パレスチナ難民救済機関)支援金完全停止
トランプ大統領は、今年1月、UNRWAへの支援金6500万ドルの削減を断行したが、続いて8月31日、UNRWAへの支援金3億ドルを差し止めると発表した。これにより、アメリカのUNRWAへの支援金は完全に停止することとなった。
トランプ大統領は、UNRWAは、パレスチナ難民への支援を68年という長きにわたって延々と続けていると指摘。当初の難民の子孫まで難民と認めることで、自立を促すより、むしろ依存させていると主張する。
また、UNRWAへの支援金の一部がテロ組織に流用されていることからも、UNRWAは解散し、パレスチナ難民の支援は、他の難民と同様、国連難民支援機関に任せるべきであると主張している。これはイスラエルが訴え続けてきたことでもあった。
さらにトランプ大統領は、15日、テロ関連で子供を失ったイスラエル人とパレスチナ人双方の親たち協賛のプログラムへの支援を含む、西岸地区・ガザ地区への様々なプログラムへの支援金2億ドルをカットすると発表した。
これにより、子供達の教育や医療に関する支援もカットされることになる。ただし、これについては来年以降に実施される予定である。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5350946,00.html
これに先立ち、アメリカ政府は、2016年の時点で、パレスチナ自治政府が、テロリストへの手当支給をやめるまで、パレスチナへの支援金を差し止める法律を制定。テルアビブでのテロで殺害されたアメリカ人、テイラーフォースさんの名からテイラーフォース法と名付けた。
しかし、アメリカやイスラエルから見ればテロリストであっても、パレスチナ人にとっては、”英雄”である。彼らへの手当を止めることはできていない。上記テロ事件の犯人、カリルの家族にも今後、月1400シェケル(約390ドル)が支給される予定になっているという。
フリードマン駐イスラエル米大使は、「これまで、パレスチナ人に100億ドルも支援してきたが、アメリカ人の血税が、テロリストの手当や、イスラエルを憎むよう教える教育に使われてきた。残念に思う。」と語っている。
www.timesofisrael.com/pa-hasnt-yet-paid-family-of-terrorist-who-killed-fuld-but-theyll-be-eligible/
こうしたアメリカの圧力に対し、パレスチナ自治政府は、妥協するどころか、態度を硬化させている。
アメリカやイスラエルからみれば、テロリストだが、パレスチナ人からすれば、敵と戦った”英雄”である。手当を停止することはできない。また昨年、アメリカはエルサレムはイスラエルの首都と認め、今年5月には実際に米大使館をエルサレムへ移動させた。
これはパレスチナ自治政府の東エルサレムをパレスチナの首都とするという主張を、不可能にしたも同然である。
こうしたことから、パレスチナ自治政府は、イスラエルはいうまでもなく、アメリカとも直接の交渉を遮断。イスラエルの入植活動について、国際法廷に訴える手続きを進めているところである。
2)ワシントンのPLO事務所閉鎖
アメリカは、10日、パレスチナ自治政府が、イスラエルとの和平交渉だけでなく、アメリカとの交渉も遮断しているという理由から、ワシントンのPLO(パレスチナ解放機構・パレスチナ自治政府を運営するファタハを含む団体)事務所を閉鎖した。
アメリカは昨年11月に、もしイスラエルとの直接交渉に入ることを拒否するならワシントンのPLO事務所を閉鎖すると予告していたという。
これは、パレスチナ自治政府が、イスラエルとの直接の交渉を拒否すると同時に、国際法廷にイスラエルを訴える準備を進めているからである。アメリカは、これを和平を妨害するものとみている。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5347205,00.html
<影響を受けるのはガザ地区:拡大するデモ>
UNRWAの支援を受けることのできるパレスチナ人は、様々な地域を総合して500万人とされ、実際に支援を受けているのはこのうち300万人だという。
しかしガザ地区では、人口の80%が、UNRWAの支援対象者になっていることから、UNRWAで働くパレスチナ人も1万3000人に上っている。
アメリカの支援金が停止した後、ヨーロッパやアラブ諸国がカバーしようとしたが追いつかず、UNRWAは、ガザと西岸地区で働く250人を解雇し、500人をパートタイムに格下げすると発表した。
これを受けて、18日、ガザではUNRWA事務所付近で、5000人によるデモが発生した。
www.timesofisrael.com/thousands-protest-un-job-cuts-in-gaza-as-border-violence-escalates/
19日(イスラエルではヨム・キプール)には、国境で、数百人が、イスラエル軍に火炎瓶を投げるなどして、衝突し、そのどさくさに紛れて、約10人ほどのパレスチナ人グループが2つ、計20人ほどが、イスラエル領内に武器を持って侵入した。
20人は、イスラエル領内で、落書きするなどしたが、最終的にはガザへ戻ったとのこと。アル・ジャジーラによると、この日のデモでパレスチナ人2人が死亡した。
www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/252185
<ハマス、イスラエル、パレスチナ自治政府>
ガザでは、3月から続く金曜ごと、イスラエルとの国境での暴力的なデモが今もなお続いており、イスラエルの銃弾に倒れたパレスチナ人は173人(アル・ジャジーラ)にのぼる。一方、イスラエル兵の中からも死者が出ている。
こうしたことから、イスラエルは国境の閉鎖をさらに強固にせざるをえなくなり、ガザへの物資の搬入や貿易も削減されている。
これに加えて、パレスチナ自治政府が、ハマスにガザの支配権を自治政府に戻すよう、様々なガザへの送金を停止して、圧力をかけているため、ガザ市民の生活は、かなり前からもはや人間が生きられる状態にない上に、さらに締め上げが来ているといえる。
ハマスは、アメリカの経済しめつけの影響で、ガザでのデモが拡大することが、イスラエルへの圧力になり、現在、エジプトが仲介して進められている間接的なイスラエルとの停戦交渉に有利になるのではないかと考えている。
しかし、イスラエルが包囲網をそうかんたんに解放するはずもなく、パレスチナ自治政府も、ガザの支配権を奪回してパレスチナ人の統一を図ろうとして、この交渉を妨害する動きに出ているという。
ハマスとイスラエルの間接交渉は、もはや決裂との見方が優勢である。
<今後どうなるのか>
イスラエルもハマスも、基本的に戦争はしたくないと考えている。このため、何かのきっかけで、戦争が勃発する可能性は常にあるが、今のままの状況が今後も続いていく可能性が高い。
しかし、ガザ地区では、牢獄のような生活で、仕事もなく、若者が将来に夢をみることがまったくできない状況にある。そこへ食べ物や教育など基本的ニーズを補っていた国連の支援まで切られるとなると、ガザ内部のイスラエルやアメリカへの憎しみはさらに高まっていくだろう。
悪化する市民生活とは反比例的に、ガザのハマスは、イランの支援を受けて多数のミサイルを保有するようになっており、イスラエルを攻撃する準備があると豪語している。最も危険なことは、ハマスに失うものが何一つなくなったときである。追い詰められた市民の民意だとして、イスラエルを攻撃してくる可能性がある。
イスラエルは、ガザ市民の生活改善が鍵になるとみて、国境を開けたり閉じたりして、アメとムチを交互に使うと共に、様々な支援策を模索しているが、どれもまだ着手できない状況である。非常に微妙な状況といえる。