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13日国会前に反政府デモ9万人以上: 法案国会審議は来週へ
ネタニヤフ首相は、司法制度改革のスタートとなる2項目についての審議を、13日、憲法・法・司法委員会で開始すると発表していた。
このため13日は朝から、この法案、また現政権に反対する市民たちが、全国から、エルサレムの国会周辺に集まり、その数はどんどん増えて、9万人以上にまでふくれあがった。エルサレムに到着する電車やその駅は、全国から集まる市民で、満員となった。国会周辺が封鎖となったこともあり、通勤にかなりの支障が出たとのこと。
こうした中、憲法・法・司法委員会では、改革案2点(昨日記事参照)についての採択が予定通り行われた。委員会では、冒頭から、野党委員らが、「国を滅ぼす法案」「我々に国は一つしかない」などと非難を叫んでいたが、途中で、改正推進派と、反対派がつかみあいの論争になり、14人が退場させられた。
最終的に行われた採択は、2回とも賛成9、反対7と賛成が上回ったことから、憲法・法・司法委員会(シムハ・ロズマン委員長)はこれを可決とした。同日にもこ国会で採択され、3回可決となれば、この法案は、正式な法律として通ることになる。
最初の2項目というが、この2項目で十分、行政が司法を支配する性質のものであるため、国会外のラリーの群衆は大きく声を上げた。
今の強硬右派政権には、ユダヤ教政党ががっつり組み込まれてはいるのだが、エルサレムでのデモには、ユダヤ教ラビたちを含む75人の正統派とされる宗教的指導者たちも含まれていた。75人は、ヘルツォグ大統領が提示した妥協案5項目を支持すると表明している。
また続いて経済界、銀行家などからも懸念の表明が相次いでいる。また政治家の中からも、「イスラエルで司法改革が必要であることは認めるが、レビン法相の案には同意できない。これでは、ポーランドやトルコのように民主主的に選ばれたても、そのトップには独裁の可能性が出てくる。」といった懸念も出ている。
ラピード筆頭野党は、国会議員たち、特にリクード内部でも、民主主義支持派で、この法案に疑問を持っていると考えられる議員、たとえば、ニール・バルカット前エルサレム市長など)に向けて、この法案に賛成しないよう呼びかけた。ガンツ前防衛相は、「これは改革などではない。クーデターだ。」と強い言葉で警告を発した。
チャンネル12の世論調査では、62%がこの法案を停止、または延期することを望むと答えていた。このままいけば、現政権に対する暴力、言い換え場本物のクーデターになってしまう可能性を懸念する専門家もいる。
www.israelnationalnews.com/news/367374?utm_source=dlvr.it&utm_medium=facebook
こうした中、大規模な市民からの反対を受けている、憲法・法・司法委員会のロズマン委員長と、西岸地区担当で宗教シオニストとして問題視されている一人、スモルトリッチは、フェイスブック上で約1時間の公開討論を行った。
訴えたいことは、今上がっている司法改革は、イスラエルの民主主義をおびやかすものではないちいった内容である。何千もの人が参加し、投稿は5万件だったとのこと。反対派よりは、全然少ない。ロズマン氏は、司法改革の流れを撤回するつもりはないと強気姿勢を続けている。
最終的に、国会での審議は、13日当日中ではなく、20日来週月曜ににまで延期とされた。
www.timesofisrael.com/75-israeli-orthodox-leaders-call-for-dialogue-on-judicial-overhaul/
ヘルツォグ大統領の仲介試み:ラピード筆頭野党代表とロズマン憲法・法・司法委員長
ヘルツォグ大統領は、この問題で、右派賛成派と左派反対派の対立が、国が分裂すると警告し、この司法改革に関する法案の審議をいったん保留とし、妥協案5項目を提示するとともに、両者に話し合う場を提供すると発表していた。
これを受けて、憲法・法・司法委員会のロズマン委員長は、反対派代表と目される、ラピード筆頭野党に、話し合いを申し入れた。しかし、ラピード氏は、これを拒否した。
憲法・法・司法委員会が、すでに通過した2項目に続いて、次に項目に関する審議と採択を続行する動きにあったからである。ラピード氏は、委員会をいったん停止させることが先だと返答した。
ラピード氏は、「もしほんとうに妥協する用意があるなら、大統領が言うように、まずは、その動きを止めるべきである。またその内容についても、メディアを通じてではなく、我々に直接、提示すべきだ。」と語った。
憲法・法・司法委員会が、来週にも審議するのは、最高裁の指示で、罷免したアリエ・デリ氏を、閣僚に戻すかどうかという点である。言い換えれば、政府が決めたことを最高裁が却下しても、政府はそれをひっくり返す権限を行使できるという法案の審議ということである。
これを続行する中で、反対派のラピード氏との交渉にのぞむというのは、確かに問題だろう。しかし、実際のところ、今の国会は、ネタニヤフ政権は過半数を占めているので、政権内のだれかが裏切らない限り、これらの法案は通ってしまう可能性が高い。
現在、大統領が、大統領官邸において、ラピード氏と、ロズマン氏、またガンツ氏それぞれと個別に、大統領が提案した妥協案に話し合い、仲介を試みている。
石のひとりごと:右派対左派?神対人間の知恵?
ラピード氏が表に出てきたことで、この論争が右派対左派という構図に見え始めている。これは、イスラエルでは、右派、大雑把にいえば、聖書を重んじる宗教シオニズムと、左派、人間の知恵を重んじる世俗派の対立、いわばエルサレム対、テルアビブという構図である。
聖書を重んじる中で、イスラエルでも東エルサレムや西岸地区に進出しようとし、またイスラエルは、ユダヤの国という明確なアイデンティティそれれを妨害する最高裁の動きを止めるというのが、右派であり、今のネタニヤフ政権である。
一方、これに反対するのは、左派であり、イスラエルの発展を実質的に支えて、今も彼らの経済活動によってイスラエルが立ち続けているといっても過言ではない、左派、世俗派たちである。その筆頭にラピード前政権首相が出てきたことで、ますます右派VS左派、宗教派VS世俗派、エルサレムVSテルアビブ、もっというなら、神の知恵VS人間の知恵の様相になってきた感がある。
言うまでもなく、世界は後者を支持するのであり、イスラエルが前者になればなるほど、イスラエルを非難することになっていくだろう。
しかし、ここで不思議なのは、ネタニヤフ首相自身の様子や発言がほとんど出ていないと言う点である。もしかしたら、したたかに様子をもみ極めようとしているのか、どうなのか。。
誤解なきよう。筆者がネタニヤフ政権側を支持しているというわけではない。この改革案については、確かに、多くの危険な可能性があるし、イスラエルに益にならない側面をもたらす可能性が高い。ただその構図についての解説ということである。これからどうなっていくのか、注視したい。