イスラエル軍との衝突でパレスチナ人9人死亡(1月だけで31人):ガザとの応酬始まる 2023.1.27

An ambulance drives past an Israeli military vehicle as smoke rises from objects set on fire by Palestinian demonstrators, in the ocupied-West Bank city of Jenin, on January 26, 2023. - An Israeli raid on the West Bank's Jenin refugee camp today killed four Palestinians including an elderly woman, Palestinian officials said, also accusing the army of using tear gas inside a hospital.Israel's army declined to comment when asked by AFP about the health minister's tear gas allegation. (Photo by Zain Jaafar / AFP)

26日朝、西岸地区で最も危険になっているジェニンの難民キャンプで、イスラエル治安部隊とパレスチナ人の衝突が発生。パレスチナ人9人(市民1人含む)が死亡。20人が負傷(4人重傷)した。近年の両者の衝突の中で最悪の事態となった。

www.timesofisrael.com/palestinian-killed-in-clashes-between-gunmen-and-idf-soldiers-in-jenin/

その後、ハマスが反撃を宣言。26日深夜3時過ぎに、ガザからロケット弾が少なくとも3発、アシュケロンなど南部地域に撃ち込まれた。迎撃ミサイルが撃墜して、イスラエルに被害はなかったが、イスラエル軍は、ガザのロケット弾製造地とみられる地点への報復空爆を実施した。今のところ、死傷者の報告はない。

www.timesofisrael.com/fresh-rocket-alarms-blare-as-israeli-jets-bomb-gaza-in-retaliatory-strike/

ジェニンでの衝突でパレスチナ人9人死亡

ジェニンに突撃したイスラエル治安部隊(軍とシンベト(国内治安諜報機関)によると、近々、かなり危険なイスラム聖戦テロ部隊が、大規模なテロを実行するとの情報があったため、その摘発に向かったとのこと。軍は、もしこの日突入しなかったら、すぐにもテロが起こっていた可能性があると主張している。

イスラエル治安部隊に対し、イスラム聖戦は、銃撃と爆発物で反撃したことを認めている。以下はジェニンに入るイスラエル軍と、投石で反撃するパレスチナ人たちの様子。(IDF)衝突は3時間ほど続いたが、イスラエル側に死傷者は出なかった。

以下はイスラエル警察の映像

以下は死亡したパレスチナ人。左上がマグダ・オベイドさん(61)家族によると、自宅2階で流れ弾にあたったもようである。アッバス議長は、9人を今後3日間は、9人のために喪に服すと発表した。

昨年、パレスチナ人のテロで死亡したイスラエル人は31人に上った。しかし、パレスチナ自治政府が弱体化し、テロリスト摘発お手上げと表明したため、イスラエル軍が、ほぼ毎夜の如くに西岸地区に入って摘発をせざるを得なくなっていた。

西岸地区では、イスラエル軍との衝突の際や、イスラエル軍兵士や国境警備隊員にナイフをもって向かってきて、逆に射殺されるケースも増加し、昨年は逮捕者が2500人、死亡は171人、今年1月に入ってからだけで、20人のパレスチナ人が死亡する事態になっていた。今回のジェニンで死亡した9人を含め、1月ひと月たらずで死亡したパレスチナ人が30人にのぼったことになる。(26日エルサレム北部で別の事件で1人死亡含む)

ガザからロケット弾・イスラエルも報復空爆

ジェニンでの衝突を受けて、ガザのハマスが、復讐を宣言。26日深夜すぎ、ロケット弾2発がイスラエル南部アシュケロン周辺に向かって発射された。迎撃ミサイルが撃墜してイスラエルに被害はなかった。

しかし、イスラエル軍は、ただちにガザのミサイル発射地点への空爆を行った。イスラエル軍はエスカレートに備えているとのこと。

www.timesofisrael.com/rocket-sirens-sound-in-south-hours-after-deadly-west-bank-raid/

国連安保理が緊急会議開催へ:UAE、フランス、中国が要請

パレスチナ自治政府のアッバス議長は、イスラエルとの治安維持協力を停止し、国連安全保障理事会開催と、国際刑事裁判所に訴えると発表した。ただし、これらは今にはじまったことではない。

しかし、UAE(アラブ首長国連邦)と、フランス、中国が、国連安保理開催を要請し、27日に非公開で行われることになった。安保理は、最近、極右政治家で国家治安維持相に就任したベン・グビール氏が、タブーである神殿の丘へ上がって以来、2回目になる。この時安保理は、イスラエルへの非難を表明しており、今回も厳しい決議が出ることは容易に予想される。

29日からのアメリカのブリンケン国務長官中東訪問に影

こうした中、イスラエルと同盟関係にあるアメリカのブリンケン米国務長官が、29日から、イスラエル、西岸地区、エジプトを訪問する予定になっている。その直前のこの事態は、いわば最悪のタイミングといえる。アメリカの中東担当トップにあたるバーバラ・リーフ氏は、特にジェニンでの死亡者の中に、民間人が1人含まれていたことに遺憾を表明している。

www.ynetnews.com/article/b1u3shx2s

なお、この直前の24日、ネタニヤフ首相が、ヨルダンのアブダラ2世国王を電撃訪問していた。ネタニヤフ首相がヨルダンを訪問するのは、2018年以来のことである。何が話し合われたのかは不明。

www.timesofisrael.com/netanyahu-and-abdullah-meet-in-jordan-signaling-they-want-to-move-past-tensions/

石のひとりごと:ネタニヤフ首相には有利?

これはまた空想にすぎないが、ネタニヤフ首相が首相に就任してすぐに、パレスチナ人と危機的な状況に陥るのは、これが初めてではない。政権が危機的にある中、これを統一できるとすれば、共通の敵がいるという点でしかないのだが、それが実際に発生してしまうということがこれまでにもあったのである。

今、司法制度改革に反発する10万人の市民が反政府デモを行い、また政権内でも防衛省と西岸地区担当が衝突していたので、ひょっとして。。。と実は懸念していたが、それが現実のものになってしまった形にもみえる。

無論、ネタニヤフ首相が仕組んだわけでないだろう。しかし、左派で反ネタニヤフ首相のハアレツ紙も、このパレスチナ人との衝突が、ネタニヤフ氏に有利に働くのではないかとの見解を述べていた。

www.haaretz.com/israel-news/2023-01-26/ty-article/.premium/netanyahu-didnt-orchestrate-the-jenin-raid-but-he-may-still-benefit-from-it/00000185-ef82-d21e-ade5-efc7832c0000

しかし、9人のパレスチナ人たちが死亡したことは決して小さいことではない。ちょうど国際ホロコースト記念日のその日に発生したこの事件が、国際社会にどう響くのか。。イスラエルへの非難はまぬかれないだろう。ユダヤ人たちのサバイバルの苦悩は、今もまだ続いているということである。

だれも戦争はしたくないはずなのに、なぜ人間はこうなってしまうのか・・・愛する息子たちを亡くしたパレスチナ人の家族たちを覚えてとりなしを。また、徴兵義務でパレスチナでの極度の緊張の中で戦わされている若いイスラエル人たちを覚えていただければと思う。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。