イスラエルではローシュ・ハシャナ(新年)が終わり、安息年が明けた。エルサレムでは、砂嵐はやんだが、日中、34度とまだ暑い日が続いている。
水曜夜には、今年初の雷雨が少しだけあった。いわゆる「はじめの雨」である。農地を休ませる安息年が明け、初めの雨も降って、農業省と農夫たちは、さっそく仕事にとりかかっている。
しかし、同時にエルサレムでは神殿の丘が荒れ模様、南部ではロケット弾と、波乱と緊張の年明けとなっている。
<エルサレムで投石テロ1人死亡、神殿の丘でも衝突>www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4701743,00.html
皮切りは、日曜夜の新年前夜。南部エルサレム地域、アルモン・ハナチーブで、走行中の車に投石テロがあり、男性(64)が負傷。翌日、病院で死亡した。
一方、神殿の丘では、新年1日目から3日続けて、パレスチナ人とイスラエル治安部隊との激しい衝突があった。嘆きの壁に祈りに来て帰る途中のユダヤ人男性に石を投げつけるなどのテロも発生した。
4日目の木曜夜には、エルサレム北部で、バスの投石があり、運転手が軽傷を追った。東エルサレムでもアラブ人地区ラッセル・アムードからバスが投石を受けた。
バスはその後、放火され、炎上するに至っている。運転手はアラブ人だったが、バスから逃げ出し、治安部隊に助けを求めた。幸い、負傷者はなし。
こうした一連の事件の後、イスラム礼拝日の金曜を迎えた。イスラエルは予備役の国境警備隊員を招集して治安の維持をはかる他、神殿の丘周辺に5000人を配備して、治安維持を図った。
幸い、一部で治安部隊に投石があったり、路面電車にペンキ缶が投げつけられるなどの小さな衝突だけで、神殿の丘自体には今のところ、大事には至っていない。
しかし、午後5時、この記事をアルモン・ハナチーブの自宅で書いていると、けたたましい救急車やパトカーが何台も走る音がした。上空には、犯人追跡か、監視をしているヘリコプターがけたたましく舞っている。
何かあったのではと思ったが、案の定、午後5時になって、アルモン・ハナチーブに隣接するパレスチナ地区ジャベル・ムカバで治安部隊を狙った銃撃があり、兵士(25)が一人中等度から重傷となった。続いて手榴弾などで兵士3人も負傷した。
*アルモン・ハナチーブ
アルモン・ハナチーブはエルサレム南部の地域で、東エルサレムのパレスチナ人地区に隣接している。道一つはさんでこちらはユダヤ、あちらはアラブと、非常に密接に入り組んだ地域。
<神殿の丘での紛争と観光客>
神殿の丘では、岩石の他、セメントの塊や、火炎瓶などである。パレスチナ人の若者らは、石やセメントの塊や火炎瓶を、アル・アクサ・モスクの中にためこみ、神殿の丘へ入る人々に石を投げる。(つまり挑発)
これを受けて、イスラエルの治安部隊が出動すると、モスクの中に逃げ込み、そこから石を投げてくる。
治安部隊はモスクの中には絶対に入らない。戸口から威嚇射撃などで沈静化を測り、その間に投石した者たちの逮捕を試みる。しかし、石がそれほどあるわけではないとみえ、衝突は、1時間も続くことはない。
落ち着けば、イスラエル軍は、すみやかに観光客を入れる。何も知らない観光客は、さっき何があったのかを知らないまま、神殿の丘に入ってくるのである。
いわば、これぞ大人の「いたちごっこ」。これが聖なる神殿の建っていた場所、今はイスラムの第二の聖地の現状である。
*実際には3番目だが、パレスチナ人は、メディナとメッカを一つとして数えるため、エルサレムは第二の聖地と言われている。
宗教的にもj暴力のエスカレートを受けて、イスラエルのチーフラビたちは、イスラムの指導者とその他の宗教指導者たちに対し、「皆にとって聖なる場所なのだから、アラブ人の若者たちに、こうした行為をやめさせるよう協力してほしい。」との声明を出した。
www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/200819#.VfxpwqUWnA8
●神殿の丘での紛争ビデオ https://www.youtube.com/watch?v=OzCtzFWJsec&feature=youtu.be
●旧市街で投石を受けるユダヤ人ビデオ https://www.youtube.com/watch?v=vNzExy_Mf3E
<なぜ急に緊張が高まっているのか>
最近、特にパレスチナ人との緊張が高まってきたのは、デュマでパレスチナ人一家がユダヤ人ユース過激派に就寝中に放火され、家族4人のうち、乳児を含む3人が死亡して以来である。
この後から、パレスチナ人によるイスラエル人やバスへの投石、神殿の丘での投石と治安部隊との衝突がさらに増えてきた。
石といっても、小さな小石ではない。直径30センチぐらいあると思われる大きな岩石である。走行中の車にあたれば死亡事故に発展する。相手が未成年であろうが、大人であろうが、立派な殺人である。
イスラエルは、投石テロに関するさらに厳しい処罰や、未成年の場合でも逮捕していることに加え、両親にその責任を問い、罰金を科す案も検討している。
紛争がエスカレートし始めたのを受けて、ヨルダンのアブダラ国王は、「神殿の丘のユダヤ化をすすめるような挑発行為はやめてもらいたい。」とイスラエルを非難した。
アブダラ国王が、”神殿の丘のユダヤ化”と言っているのは、第三神殿の建設をめざしている右派ユダヤ教徒の一派らが、強行に神殿の丘へ入ることを指している。
こうした行為は、イスラエル政府が認める正統派ユダヤ教の方針ではない。しかしながら、パレスチナ人にとっては、ユダヤ人はユダヤ人。
パレスチナ人たちは、「ユダヤ人が、イスラムを追い出し、アルアクサ(神殿の丘)に、神殿を建てに来る。」と言って、特に反発が高まっているのである。
最近では、神殿の丘にユダヤ人が入ると、金切り声で「アラー・アクバル!(アラーこそ神なり)」と叫びながら、スリッパや靴を投げるという女性たちが現れていた。
女性たちは、叫び続けることで空気が緊張し、投石に発展する場合もある。
そのため、イスラエル警察は、男性だけでなく、こうした女性たちも神殿の丘へ入れないようにする方針を固めた。当然、女性たちは、外で金切り声を上げて、結局一目を引く事になっている。
<23日・ヨム・キプール、仮庵の祭りへの懸念>
今年のヨム・キプールh22日夜から23日で、イスラムのイード・アル・アドハ(アブラハムが”イシュマエル”をささげようとした時に神が与えられたた犠牲を祝う)と重なる。
また27日から始まる仮庵の祭りでは、全世界から、観光客が群衆となってやってくる。治安部隊は、数千人単位で治安の維持をはかるとのこと。
<さらに冷え込むパレスチナ自治政府との関係>
こうしたエルサレムでの暴力のエスカレートは、ハマスの他、背後でアッバス議長があおっているのではないかともみられている。
パレスチナ自治政府のアッバス議長は、イスラエルとの交渉決裂以来、イスラエルを完全に無視する形で、国際法廷にイスラエルを訴える準備をすすめ、パレスチナ国家承認にむけて、国連へのアプローチを熱心に続けている。
今回の一連の暴力のエスカレートには、先のユダヤ人過激派の放火テロがあるため、どうしても国際的な非難がイスラエルに集中する。したがって、今は、紛争があるほど、アッバス議長に有利に働くということである。
先週、国連総会は、アッバス議長の要請に基づき、パレスチナの旗を国連本部の万国旗に加えることを承認した。9月30日に総会でアッバス議長がスピーチするのに合わせて、パレスチナの旗を国連本部に掲げる予定になっている。
こと時もスピーチについて、アッバス議長は「国連でのスピーチで、爆弾宣言を用意している。」と言っている。