イスラエルのコーヘン外相ウクライナ訪問:ゼレンスキー大統領はイスラエルに最新迎撃ミサイル供給要請 2023.2.18

Foreign Minister meets with Ukrainian President Volodymr Zelensky in Kyiv, Ukraine, February 16, 2023. (Shlomi Amsalem/GPO)

ロシアがウクライナへの侵攻を開始してから1年になる2月24日が近づいている。ロシアは、すでに、ウクライナ東部で激しい戦闘を続けているが、今週には、さらに大規模な攻撃をしてくるのではないかとの懸念が世界に広がっている。

こうした中、イスラエルのコーヘン外相が、15日、キーフを訪問。ゼレンスキー大統領を会談した。ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、イスラエルからこれほどの高官がウクライナを訪問するのは初めてであった。

最新の動き:ロシア兵死傷者数20万以上か

NHKニュースによると、ロシア軍は、17日朝、巡航ミサイル36発をウクライナ全土に発射。ウクライナ軍は16発撃墜したが、その他は着弾し、女性一人が死亡、燃料施設が破壊の被害を受けるなどの被害が報告されている。

また、これまでからもロシアは、インフレを標的にして電力を奪うなどの卑怯な作戦を続けていたが、本日のCNNニュースによると、貯水池への工作を進めており、このままだと、100万人が飲料水を失うとの懸念が出ている。ザポリージャ原発の冷却にも影響する可能性があると言う。

www.cnn.co.jp/world/35200225.html

地上での戦闘は、東部でかなり激しい戦闘になっている。しかし、ウクライナ側が優勢なのか、イギリス国防省によると、ロシア軍兵士の死者4〜6万人含む20万人以上が、死傷しているという。

ホワイトハウスによると、このうち死者九千人、死傷者3万人は、ロシア民間軍事会社ワグネルが、最前線に派遣している兵士たちだという。この人々は、受刑者など急ごしらえで徴集した人々で、訓練が十分にできていなかったとみられている。

今週、ウクライナ侵攻から1年になる24日がやってくる。ウクライナ全国に、大規模なミサイル攻撃が行われるのではないかと、ウクライナは警告している。16日に、イスラエルのコーヘン外相が、キーフを訪問したが、その間にも空襲警報が鳴り響いていたとのこと。

NATOのウクライナ軍事支援の現状

NATO(加盟30カ国)は、ロシアに対峙するウクライナへの軍事支援を徐々にレベルアップしているが、まだ戦闘機レベルにはなっていない。しかし、トルコがドローンの配備は行っている。ヨーロッパ各地には、

BBCによると、これに備え、アメリカ(戦車31台)、ドイツ(戦車14台)、イギリス(戦車14台)他、軍用車両も供給されることになっている。ただ、実際に現地にどのぐらい配備されたのかは不明で、2月24日までに間に合わないものも多いとも言われている。

この他では、対戦車砲、アメリカが、ロケット弾M142、砲兵用ロケット弾(射程40-80キロ)も配備している。

さらに、アメリカは、迎撃ミサイルパトリオットを供与すると表明。イギリスとオランダがこれに続くことになっているが、これもいつ準備完了かは不明。現在のところは、旧ソ連製の迎撃ミサイルS300(射程47-150キロ)が250台あるとのこと。

ドローンについては、最近、トルコが、戦闘用ドローンを供与し始めている。しかし、戦闘機の配備は予定には上がっていない。また、NATO軍は、まだウクライナ領地には入らない方針が続けられている。

www.bbc.com/news/world-europe-18023383

イスラエルのコーヘン外相がキーフ訪問:ゼレンスキー大統領と会談

このようにウクライナには、レベルアップした戦闘用の武器が欧米から供給されているのではあるが、戦闘機はまだであり、迎撃ミサイルは、旧式なものがほとんどである。もしロシアが弾道ミサイルを連発してきたら、これを差し止める力はウクライナにはない。

イスラエルは、世界一のレベルを誇る迎撃ミサイルと保有しているので、ウクライナとしてはぜひ供給してもらいたいところだろう。しかし、イスラエルもイランやヒズボラのミサイル攻撃に備えて、それらを供給する余裕はない。

またイスラエルは、ロシアとの関係維持のため、ロシアへの非難も行なっていない。これまでからも、ゼレンスキー大統領含め、ウクライナ側からはイスラエルに対する失望の表明が出ていた。

こうした中15日、イスラエルのコーヘン外相がキーフ入りし、ゼレンスキー大統領と会談した。コーヘン外相は、ポーランドから陸路ウクライナ入りし、まず残虐な殺戮が行われたブチャを慰問。またホロコースト時代にナチスによって3万7000人以上のユダヤ人が殺された峡谷バビヤールを訪問。続いてウクライナのクレバ外相と会談。それから秘密の場所にいるゼレンスキー大統領と会談した。

コーヘン外相は、イスラエルがウクライナの領土保全と主権の維持を支持していると表明した。先に、イスラエルは、イラン国内の軍事用ドローン製造工場を攻撃破壊したが、これらのドローンは、ウクライナ攻撃用としてロシアに供給されるものであったとして、イスラエルもウクライナの治安の維持に協力していると強調している。

こうしたことから、ゼレンスキー大統領とコーヘン外相は、イランを共通の敵として協力していくことで一致したとのこと。しかし、本格的な武器や迎撃ミサイルの供給や、ロシアを非難する声明を出すことはなかった。

一方で、早期空爆警報システムを半年以内にウクライナに届けるとのこと。また、飲料水に関する供給システムも3―4ヶ月以内に届けることを約束。また、イスラエル国内で治療するウクライナ兵の数を増やすことや、ウクライナから労働許可つきで1万5000人(ユダヤ人ではない人々)を受け入れる約束もした。

この1年でイスラエルが行ったウクライナへの支援は、2250万ドル(約30億円)とのことで、できることで支援は続けるということである。コーヘン外相はこの日のうちに、電車でポーランドへ戻った。

www.timesofisrael.com/hosting-fm-cohen-in-kyiv-zelensky-says-iran-is-common-enemy/

この会談について、時期的にも、ロシアに対して、強力な脅迫になった可能性を指摘する見方もある。もしイスラエルが本格的に、ウクライナへ支援を開始すれば、ロシアにとっては、ゲームチェンジになる可能性があるからである。しかし、コーヘン外相とゼレンスキー大統領との会談について、公表されているのは、上記の限りである。

ゼレンスキー大統領がイスラエルに最新迎撃ミサイル供給要請:ミュンヘン安全保障理事会にて

コーヘン外相訪問の翌日の16日、ミュンヘン安全保証会議(毎年定例・中国含む100カ国・今年ロシアは招待されず)にオンラインで出席したゼレンスキー大統領は、ロシアをゴリアテに見立てて、これを倒すには、イスラエルのダビデのスリング(石投げの縄)が必要だと語った。

ダビデのスリングとは、イスラエルが誇る最新式の迎撃ミサイルである。その迎撃範囲は、40-300キロ圏内にまで拡大できる。現在、アメリカが供給した迎撃ミサイルの射程は150キロまでなので、倍の威力があることになる。

しかしTimes of Israelによると、ゼレンスキー大統領は、この発言のあとは、それ以上は言及せず、この会議に出席していた、欧米など100カ国の代表たちに、迅速な武器支援を要請したにとどめたとのこと。イスラエルへの期待はあるが、その立場への理解もあるのか。もしくはその他に何かあるのか。。

実際、イラン情勢は緊迫度をましており、先週、イスラエル船籍のタンカーがイランによる攻撃を受けていたことが明らかとなった。ネタニヤフ首相は、イランとの対立において、サウジアラビアとの協力に乗り出しているようである。近く報告予定。

www.timesofisrael.com/likening-russia-to-goliath-zelensky-says-ukraine-needs-davids-sling-from-israel/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。