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イランで拘束されているアメリカ人5人釈放へ
アメリカは、10日、イランとの交渉で、イランに拘束されているアメリカ人5人を釈放することで合意したと発表。その見返りとして、韓国で凍結されているイランの資産、約60億ドルを、カタールを経由して、イランに引き渡すとしている。
この資金は、韓国がイランから石油を購入する目的で準備したが、その後にトランプ大統領がイランへの経済制裁を発表し、支払えないまま留め置かれていた資金である。アメリカは、この資金が食糧や薬剤になると主張しているが、イランの武器となって、ウクライナやイスラエルを攻撃する資金になる可能性も指摘されている。
アメリカ人5人はすでに、刑務所から自宅軟禁の状態にまで釈放されており、アメリカ本土にまで帰る日もあるとブリンケン米国務長官は語っている。しかし、その日程は、アメリカからの送金の日程もあわせて、まだ明らかにはなっていない。
イランが核濃縮を60%まで低下すると発表
世界を驚かせたのは、この翌日のイランの動きであった。イランは、今85%にまで到達しているウランの濃縮を、60%にまで下げると発表したのである。
世界のメディアは、いっせいに、アメリカが、イランと核問題も合わせて、アメリカ人釈放問題を交渉したのではないかと報じた。
問題は、ウランの濃縮を低下させることは、良いことのように聞こえるかもしれないが、別の言い方をすれば、60%まではよいと許可したということでもある。
これは最初に、アメリカとEU諸国のJCPOAが交渉していた3.67%までという約束よりは、はるかに高いものである。
イスラエルのネタニヤフ首相は、イランの遠心分離機の削減をしていないので、イランは濃縮をすぐにも再開できるとして、今回のアメリカとイランとの合意を批判した。
また、今回、アメリカ人を釈放するという交渉で、これほどの資金を得たイランが、別の武器を入手する可能性もある。
これに味をしめて、アメリカ人やその他の国の人々を誘拐する可能性も出てくる。
しかし、一方で、ウランを85%から60%まで落とせたことは評価できるという見方や、60億ドルが、イランにとって、それほど大きな支援額にはならないという分析もある。
*イランとの欧米の核交渉:JCPOA(共同包括行動計画)
アメリカは、2015年、オバマ大統領の時から、ヨーロッパ諸国と共に、イランの核兵器問題での合意を目指した。それがJCPOAである。しかし、その後大統領に就任した、トランプ大統領は、アメリカをこのプログラムから離脱させ、逆にイランに厳しい経済制裁を開始した。これにより、イランとの交渉は座礁にのりあげた。
その後も、交渉を続けられたが、イランとの合意にいたらず、今年2月の時点で、イランはウランの濃縮を84%(90%で核兵器)にまで上げていることが発覚。
これまでになく危険な状態と指摘されていた。
石のひとりごと
バイデン大統領は、らちがあかないイランとの交渉を、再開させるために、人質交換ということで、イランとの単独交渉に臨んだのかもしれない。その結果が、ウラン濃縮60%までの低下ということなのだろう。
確かに3.67%からは、比べ物にならないのではあるが、もはや、そこまで戻ることは不可能である。現状の中では、最悪の中での最善であったかもしれないという見方もある。
しかし、今、アメリカと交渉中のサウジアラビアが、平和利用とはいえ、アメリカに核濃縮を黙認してもらうようになった場合、果たしてイランが黙っているだろうか。
外交とは、本当に先の先、その先の先、その先の先まで読む知恵が必要なようである。