目次
神殿の丘から始まる紛争:いつものパターン
過越が始まった先週4月15日。神殿の丘でのパレスチナ人とイスラエル治安部隊との衝突で100人以上が負傷し、400人が逮捕されてから7日が経過した。
今日は、ユダヤ人たちにとっては過越の最終日であると同時に、イスラム教徒は金曜日の祈りの日でもあり、また暴力的な紛争になるのではと、警戒体制が続けられている。
先週、パレスチナ人たちは、ハラム・アッシャリフ(神殿の丘)のアルアクサモスクに立て篭もり、治安部隊に石や火炎瓶まで投げつけてきたため、治安部隊がモスク内部に入り、これを取り締まることとなった。
イスラム以外が土足で、特にアルモスクに入ることはタブー中のタブーである。パレスチナ組織だけでなく、イスラム界に不穏が広がり、ヨルダンや湾岸諸国もイスラエルを厳しく非難することとなった。以下は先週4月15日の様子。
イスラエル政府は、事態の悪化を防ぐため、ユダヤ教徒が神殿の丘へ上がることを禁じたが、それでも、これに反発する右派ユダヤ教勢力から、少人数ではあるが、神殿の丘へ上がる者が出てくる。信仰の自由を掲げるイスラエルは、これをとことん禁じることもまたできないわけである。
以下は、イスラエル人ユーチューバー、ハナニヤ・ナフタリさんが、神殿の丘へ上がった時の記録(アップは4月19日)静かに終了している36分間
また今年は、この週に、右派がフラッグマーチ(イスラエルの旗をふりかざして旧市街、特にイスラム地区のダマスカス門から入場する)が予定されていた他、西岸地区で政府命令で撤去された入植地に向かって、大勢がマーチするという計画もあった。危険な時に、挑発的な動きととられてもしかたはない動きである。
イスラエル政府は、右派たちと交渉を続けたが、マーチを全面的に止めることはできなかった。最終的には、ダマスカス門に近づかない経路にすることや、最も問題視されている議員ベン・グブール氏が旧市街に入ることを禁じる形で、マーチが許可された。
しかし、こうなると、たとえ、ヨルダン他湾岸諸国など、イスラエルとの関係回復を望んでいる国々も黙っていることはできず、過激派を泳がしているとして、ますますイスラエルを非難する声明が出されることとなった。
するとガザのハマスやイスラム聖戦が、正義を得たとばかりに、イスラエルにロケット弾を撃ち込んできた。イスラエルが反撃の空爆を行うと、再びガザからロケット弾が撃ち込まれて、2回目は、負傷者なかったものの、家屋に被害が発生。当然、イスラエルはまた反撃を行っている。すると世界は、「イスラエルがガザへ2回空爆」とばかりに伝えるわけである。
*ガザからの攻撃を迎撃ミサイルが撃墜する様子
More footage of Iron Dome interceptions over Sderot pic.twitter.com/MP1RcxbScJ
— Emanuel (Mannie) Fabian (@manniefabian) April 20, 2022
*ガザへのイスラエルからの反撃
قصف عنيف وسط قطاع غزة #غزه_تقاوم #غزة_تحت_القصف pic.twitter.com/x6Yy1vbtVi
— حسن اصليح | Hassan (@hassaneslayeh) April 20, 2022
ベネット首相は、ハマスに口実を与えないようにするため、ラマダンが終わる5月2日までは、イスラム教徒以外が、神殿の丘に入ることを禁止すると発表した。
これほど長く、イスラム教徒以外の入場が禁じられるのは初めてととのこと。また過越最終日の今日からの終末の間、西岸地区とガザの国境をすべて閉鎖している。
今日の金曜日がどうなるかだが、パレスチナ人たちが、落ち着いてくれればと思う。
ベネット首相がCNNのインタビューで説明
もののみごとに、毎回同じパターンである。いったいどうやったらこれを抑えることができるのか。ベネット首相は、はじめからイスラエルをつりあげようとするCNNのインタビューに応答している。イスラエルの立場をわかってもらうためである。
ベネット首相は、イスラエルは、中東で信仰の自由を保障する唯一の国であり、そのためにあらゆることをしている。神殿の丘に関しては、「現状維持」(管理者はヨルダンのイスラム教ワクフであり、治安維持はイスラエルというバランスの中での運営)の約束を守ると主張した。
イスラエルの治安部隊が土足でアルアクサモスクに入ったではないかと問い詰められると、今回は、ハマスなどに雇われたとみられるパレスチナ人の若者が、アルアクサモスクから暴力的な行為をしかけてきたことが最初であり、他の8万人のイスラム教徒を守るためには、厳しい対処をしなければならなかったと反論。
ベネット首相は、人々を守るための緊急治安問題の際は、政治よりもそちらが優先するというのが、私の方針だと述べた。
実際のところ、パレスチナ人の若者たちは、モスク内部に土足で入っていたのであるし、いわば教会の中に人を殺すための大きな石や火炎瓶を持ち込んでいたのである。それは、モスクへの冒涜とはならないということなのだろうか。CNNは、最終的には、話をイスラエルの「占領」が問題というところに入っていったのであった。誰が悪いのかという話になると、これはもう答えが出ない問題なのである。
インタビューでは、意地のわるい質問にも、ベネット首相は落ち着いて最後まで聞いていた。これはイスラエル人には非常に珍しいことである。逆にベネット首相が、「あなたの言っていることは、真実でない。」と言うと、CNNの方は話も聞かずにベネット首相に発言もさせないという場面もあった。
本質はどこにある?:紛争に油注ぐ?ロシア
この難しい問題への対処として、ベネット首相は、パレスチナ人たちの生活の質を向上させることを目標に、イスラエル国内での労働ビザを、西岸地区だけでなくガザ住民にも多く発給したり、西岸地区でも、一般のパレスチナ人に仕事を提供できるように力を入れていると主張した。これは、かなりイスラエル的な発想かもしれない。
実際のところ、それで生活が改善したパレスチナ人も多いとベネット首相。そのせいかどうかはわからないが、ハマスは、今はイスラエルとの戦闘を好まないとして水面下ではエジプトに仲介を頼んだという情報もあった。しかし、アラブの世界は、メンツの世界でもあるのか、ハマスは、表向きには、パレスチナ人たちに「立ち上がってイスラエルと戦え」と呼びかけるなどしている。
要は恥も外聞もなく、正味の話、何が一番、市民の日常を守ることができるのかで考えるのが、イスラエルなのだが、特にイスラム社会はそうはいいかないということが課題なのだろう。価値観が違うと、どこまでいっても理解できず、ゆずりあうこともできないということなのだろう。
こうした中、今西側諸国から疎外されているロシアが、パレスチナ人の支援に回り始めていることはお伝えした通りである。プーチン大統領は、パレスチナ自治政府のアッバス議長に、ロシアが背後についていると励ます電話をかけた。
また、パレスチナのメディアによると、ロシアのラブロフ外相が、ハマス指導者イシュマエル・ハニエに電話をかけ、ロシアはパレスチナ人の側についていると伝えたとのこと。ハニエがそれに感謝を述べている。
ロシアの後ろ盾が今後、パレスチナ問題にどんな影響を及ぼしてくるのか、注目される。
www.timesofisrael.com/hamas-calls-for-palestinian-mobilization-ahead-of-fridays-al-aqsa-prayers/