チグリス・ユーフラテス川の下流のよくこえた地域は、人類最初の文明メソポタミア文明が栄えた地で、聖書に出てくるエデンの園もこの川周辺だと考えられている。アブラハムが生まれ育ったウルは、ユーフラテス川に面する町である。
このユーフラテス川は、国境ができた現代においては、トルコからシリア、イラクからペルシャ湾へと3カ国をまたいで流れ、各国の人々の生活をささえる大川となっている。特に、イラクでは、漁業、川からの水に依存する農業と、まさにチグリス・ユーフラテス川は、国のライフラインである。
ところが、この地域は干ばつが珍しくない上、近年では、上流にあたるトルコが電力確保のため、ユーフラテス川に少なくとも7箇所(シリア領内含む)にダムを建設したため、下流のイラク周辺で、深刻な水不足に陥るようになった。
特に2009年、イラクでは2年にわたる干ばつが発生。この時は、水量が半分になるともいわれ、イラクでは漁師が引越しを余儀なくされた他、NYTの記事によると、農業も必要な水量の95%を失う事態になった。
この時、イラクの要請で、トルコがダムの水を放出し、農業に必要量な水量60%にまで回復させたとのこと。しかし、イラク自体の水の管理もかなり悪いらしく、上流のトルコやシリアは、その点も指摘するようになっている。
www.nytimes.com/2009/07/14/world/middleeast/14euphrates.html
そういうわけで、今年もまた、干ばつとトルコのダムによって5月から急に水量が激減し、シリア、イラクでも水量は50%にまで下がっているとのこと。イラクの農夫たちは、井戸を掘って水を確保しようとしているが、そのためのコストをカバーできないという。
以下はイラクのデイル・エゾール(米軍駐留)地域のユーフラテス川(7月22日)
これに伴い、イラクでは電気の供給が、1日10時間から6時間、さらには4時間(朝6−8時と、午後10時から夜中12時まで)となっている。このため、市民は、工場で作られた氷を購入しなければならず、以下の映像では100人もの人々が殺到している。
observers.france24.com/en/20200811-syria-along-euphrates-villagers-accuse-turkey-starting-water-war
<ユーフラテス川付近に駐留するアメリカ軍>
ユーフラテス川にそった町、デイル・エゾールには、アメリカ軍とその支援を受けているSDF(シリア民主軍)が駐留している。その北、イラク北部では、トルコが、クルド人勢力への攻撃を続けており、デイル・エゾールでも衝突が散発している。
トランプ大統領は、一時、この地域の米軍を撤退させるといっていたが、そうなると一気にトルコ、またイランが攻めこんできて、地域の力関係が大きく変わってしまう可能性も否定できないことから、イスラエルはじめ、中東諸国がこれに大反対。米軍は今も駐留を続けて、大きな紛争を押しとどめている形である。
<黙示録に登場するユーフラテス川>
黙示録16章には、最後の戦いハルマゲドンの戦いの前に、ユーフラテス川がかれて、その東側から、王たちがイスラエルの方へと攻め入る道を備えると描かれている。(黙示録16:12−16)
まだ今すぐというわけではないが、アメリカの政権交代(11月)やコロナ危機による経済の大打撃を考えると、米軍が、今後いつまでこの地域で駐留を続けられるかわからない。もし撤退した場合、その東側の王(トルコ、ロシア、イラン、中国など)が、ユーフラテス川の西の方角、つまりイスラエルの方へ進軍するための妨害がなくなり、進軍への道が開けるということになる。
同時に物理的にも、大きなユーフラテス川の水が干上がれば、進軍はさらにたやすくなる。いまや、軍事的、地学的両方で、ユーフラテス川が干上がる可能性が出てきて、ハルマゲドンの戦いの舞台や条件が整い始めているようである。