司法制度改革反対デモ11週目も30万人:暴力エスカレート 2023.3.20

Protesters gather during a rally against the government's controversial judicial overhaul bill in Tel Aviv on March 18, 2023. (Photo by JACK GUEZ / AFP)

司法制度改革反対デモ・毎週30万人規模:警察との暴力エスカレート

Tel Aviv, Israel, Saturday, March 18, 2023. (AP Photo/Tsafrir Abayov)

1月から始まった「オーバホール(乗り越え)法案」と呼ばれる司法制度改革案。イスラエルの民主主義が危ういとして、毎週、安息日明けの夜に、テルアビブを中心に全国で大規模なデモが行われている。この週末で11回目(2ヶ月半)となった。

このままでは、国が分裂するとして、野党側は、与党が、改革にむけた法案への動きを一時停止することを条件に交渉すると言ったが、与党側はこれを受けいれず、今も法案作りを急いでいる。今に至るまで、交渉は、まだ一回も行われていない。

こうした中、デモへの参加人数は、時間経過とともに増え続け、先週末とこの週末では、それぞれ30万人(メディアによっては50万人)を超えている。最もデモが盛んなのは、テルアビブでは、毎週、16-17万人が参加。町の中心を走るアヤロン・ハイウエイを一時的ではあるが、封鎖する事態になっている。

また、デモは、週末に加えて、国会で司法制度改革関連法案が議論される平日にも、エルサレムの国会周辺で大規模に行われるようになっている。今週も、木曜日に大規模なデモが予定されている。

平日のデモについては、反ネタニヤフ首相の動きになり、先週までに、イタリアやドイツに外交訪問したネタニヤフ首相の出国を妨害しようと、ベングリオン空港までの道中やその入り口を閉鎖する事態にまでなった。

こうした中でも、与党はあくまでも司法制度改革案を推し進めており、国会審議一回目を通過した法案はすでに2項目。今週、汚職で一度逮捕された経験を持つ政治家アリエ・デリ氏(ユダヤ教正当シャス党首)のような人物でも、閣僚になれるという法案についても、第一回目を通過させている。(法律になるには3回可決が必要)

連立政権と警察・軍との対立も深刻・複雑

警察は、できれば市民に危害は加えたくないと考えているが、連立政権(つまり司法改革推進派)で警察を管轄する極右正当のベン・グビル氏は、デモ隊は、“クーデター”だとして、暴動発生時の断固とした態度をとるようにとの指示を出している。警察も態度を決めかねて、グビル氏とトップ警察長官らとの間でどろどろの対決になっている。

www.timesofisrael.com/high-court-bars-ben-gvir-from-issuing-orders-to-police-on-protest-tactics/

実際には、週を重ねるごとに、警察が放水銃や、威嚇用手榴弾を使ったり、デモ参加者と警察が掴み合いとなり、暴力の度合いがエスカレートしている。逮捕者も多数出ている。

www.timesofisrael.com/hundreds-of-thousands-rally-against-overhaul-rise-in-violence-against-protesters/

特に、今週末には、安息日にベン・グビル氏が、滞在していたベイト・シェメシュに近いクファル・ウリヤのモシャブで、祈りに出かけたシナゴーグを、100人ほどのデモ隊が取り囲み、反対を訴える事態になった。

すると町の住民たちが、静かな安息日を邪魔したと、逆にデモ隊に向かって「死ね」と叫んだ者もいたとのこと。グビル氏は、「シナゴーグですることではない」とコメントしている。

www.haaretz.com/israel-news/2023-03-18/ty-article/.premium/protesters-local-residents-clash-near-synagogue-visited-by-israels-ben-gvir/00000186-f3b3-dd8e-a7d7-f7ff8e9e0000

また、さらに大きな問題は、軍隊への影響である。戦争の際には招集を受けて従軍する予備役兵たちが、この改革案に反対しており、招集に応じない動きにでていることはすでにお伝えした通りである。

しかしその後、軍情報部、特殊作戦部隊といったエリート部隊の予備役将校ら450人、サイバー部隊200人を含む将校たちを含む予備役兵たちが、招集に応じないとするボイコットを開始した。

警察と同様、政権とイスラエル軍トップの間でも、どろどろの対決になってはいる。

しかし、さすがに、今、パレスチナ人やイランとの対立がエスカレートしていることもあり、ギャラント防衛相、ハレヴィ参謀総からは、「国の防衛という最重要事項を背負っている予備役兵が招集をボイコットというのは、赤線を超える。」として、これに反対する意見を出している。

野党側で、この改革に反対しているガンツ元防衛相・参謀総長も、予備役兵は何があっても招集には応じるべきだとの考えを表明している。

www.timesofisrael.com/hundreds-of-elite-idf-reservists-stop-showing-up-for-duty-over-judicial-overhaul/

ヘルツォグ大統領の仲介こころみ:与党は完全拒否

ヘルツォグ大統領は、このままでは、国が分裂すると訴え、9日、仲介案を出して、両陣営に交渉を呼びかけた。野党は不服ながらもそこからの交渉を受け入れたが、与党はこれを拒否した。

ヘルツォグ大統領は、これにこりず、15日、最高裁裁判官選出に関する仲介案を出した。しかし、与党はこれも速攻拒否した。

www.haaretz.com/israel-news/2023-03-19/ty-article/.premium/herzogs-outline-is-a-nudge-for-the-ultra-orthodox-to-split-netanyahus-coalition/00000186-fa5e-df62-adfe-fbfe77750000

バイデン米大統領が電話:民主主義では幅広い合意が必要

このゴタゴタの中、ネタニヤフ首相は、イタリアやドイツへの外交訪問を実施したのだが、当然ながら、ドイツのショルツ首相は、イスラエルの民主主義への懸念を表明している。

またネタニヤフ首相は、就任してからまだバイデン大統領からの招聘がなく、まだ直接の会談が実現していない。そうした中、バイデン大統領がネタニヤフ首相に電話をかけ、30分ほど会話した。

バイデン大統領は、両国の関係は、違いに民主国家であるということに基づいているということ、また民主主義は幅広い合意に基づくべきだと語ったとのこと。

なお、両首脳は、この問題だけでなく、イラン情勢やパレスチナ問題などについても話し合っている。

www.ynetnews.com/category/3083

ネタニヤフ首相をめぐるイスラエル人のジレンマ

世論調査によると、政権与党が進める司法制度改革については反対意見の方が多い。

しかしながら、防衛上の緊急事態において、憲法に払拭する可能性があるような指示が出た場合、警察や軍、シンベトといった治安部隊は、その時の政権側(今ならネタニヤフ首相)に従うべきか、憲法を重視して最高裁に従うべきか、となると意見が別れるようである。

この問題が浮上したのは、最近、イスラエル軍の中で、スモトリッチ西岸地区担当が、不用意にもフワラ(西岸地区でテロ事件があったパレスチナ人地区)は一掃すべきだ」との問題発言をして以来である。

軍はこれに従えば、この町に住むパレスチナ人を一掃する(殺すか追い出すか)ことになるが、当然ながらこれは違法行為である。

政府の指示に従えば、憲法の視点で違法になると判断される可能性がある。政府に従うべきか、最高裁の判断に従うべきなのか。今回は当然ながら、軍は、スモトリッチ氏の発言(後で失言と認めた)には従わないという道を選んだ。しかし、これは大きな論議を呼ぶこととなった。

この一件をもって、行政が司法の上になり、行政のいうことが全て通ってしまうことに危機感が広がり、司法制度改革に反対する予備役兵たちが増えたということである。

ところが、チャンネル12の調査では、治安部隊は常に最高裁に従うべきと答えた人は40%、政府側と答えた人は40%。わからないが20%と、政権側と答えた人と、最高裁側と答えた人はとんとんという結果であった。

さらに、現時点に限っていえば、本当に治安上の緊急事態になった場合、与党ネタニヤフ政権に従うべきと答えた人は43%で、野党ラピード氏側、つまりは最高裁の権限を維持する側に従うべきと答えた人は39%と、若干ながら、政権側に軍配があがるという結果だった。

現実をみれば、ネタニヤフ首相の指導者としての力量を認めるしかないという思いと、ネタニヤフ首相に、全権を委ねて独裁のようになっても困る・・という複雑な人々の思いとと現状が今、イスラエルにはあるということである。

イスラエルという国は、世界に先んじて、いろいろな問題を突きつけられる国だが、今も、かなり本質的な問題をつきつけられているようである。

www.timesofisrael.com/public-split-on-whether-to-follow-high-court-or-govt-in-constitutional-crisis-poll/

石堂ゆみ

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。