ユダヤ教超正統派ラビのふりをした?クリスチャン宣教師問題で炎上 2021.5.3

エルサレムの超正統派地域メア・シャリーム *今回の記事とは直接の関係はありません。 出典:Wikipedia

先週、エルサレムでは、ユダヤ教超正統派だと言っていたラビ一家が、実はイエスを信じるメシアニック・ジューであったことが明るみに出て、現地ニュースが取り上げる騒ぎとなった。最初は無名で報じられたが、後に実名と写真がメディアに流れることとなった。

それらによると、エルコーヘンさん一家(夫妻と子供5人(6−13歳))は、5年前にアメリカから移住。超正統派家族として、エルサレムのフレンチヒルに住んでいる。

一家の長であるミハエル・コーヘンさんは、アメリカのイシバで学んだ正式なラビであり、書記として超正統派社会で知られる。割礼を施し、バル・ミツバや結婚式の司式も行うほどのラビである。子供たちは、全員、超正統派の学校と幼稚園に通っていた。

数年前からの宣教師疑い

最初に疑いが持ち上がったのは2011年。ミハエルさんが、モーニングスターテレビで、「エジプトやシリアに宣教に行き、人々が救われて、ユダヤ人に妬みを起こさせよう。」と言ったことがきっかけであった。

調べに対し、ミハエルさんと、妻のアマンダさんは、両親ともにユダヤ人(改宗ユダヤ人ではない)であることから、生まれつきの由緒あるユダヤ人(コーヘン)であると主張していた。

2014年にも、反宣教団体ヤドラヒムからも宣教師ではないのかとの疑いをかけられた。この時は、ユダヤ人でイエスを信じるものであったことは認めたが、すでにユダヤ教に回帰したと答えていた。

しかし、ミハエルさんに2つのフェイスブックがあり、一つが、メシアニック・ジューの宣教師と名乗るものであったことから、摘発につながった。そのFacebookページでは、CMM(Christ`s Mandate for Missions)を経由した献金も募られていたとのこと。

しかし、エルコーヘンさん一家が、超正統派たちに福音宣教を大々的にしていたわけではない。コミュニテイに入って、目立たないように、影響力を伸ばそうとするいわゆる“隠れ”宣教師の形である。強制改宗のような被害も出ていなかったことから、この時も、そのまま、大きなことにはならなかった。

その後、2016年に、妻のアマンダさんが癌と診断された。これを機にアマンダさんは、同じ病を持つ女性たちのサポートグループを持つようになった。アマンダさんは、アウシュビッツのサバイバー家族だと名乗っており、グループの中で宣教活動をしたわけでもなく、亡くなるまで、怪しい動きはなかったとのこと。アマンダさんはすでに死亡している。

今回、再び炎上したのは、子供の一人が、学校でイエスの話をしたことがきっかけとなった。その後の調査で、一家が今も、イエス・キリストを信じていることが明らかとなり、問題が炎上した形である。イスラエルの大手のメディアも報じている。

家族は、今もエルサレムに在住しているが、子供たちは学校(超正統派)に行けなくなっているもようである。

www.timesofisrael.com/shock-in-jerusalem-community-as-rabbi-outed-as-undercover-christian-missionary/

www.jpost.com/israel-news/betrayed-christian-missionary-family-unmasked-in-jerusalem-666566

www.jpost.com/israel-news/haredi-rabbi-accused-of-being-a-covert-messianic-missionary-666517

アマンダさんと生前、懇意にしていた女性は、大きなショックと怒りを表明している。長年、嘘を信じさせられていたとして、今後、ユダヤ人とクリスチャンの間の信頼に大きな傷を残すことになったと、自身のブログに書いている。

blogs.timesofisrael.com/the-real-damage-caused-by-christian-missionaries/

*メシアニック・ジュー

キリスト教は、ユダヤ教が信じる旧約聖書をもとに、イエス・キリスト(ユダヤ人)が罪の贖いをした救い主だと信じている。しかし、ユダヤ人はこれを異端であるとして、受け入れていない。

その後、歴史的にもユダヤ人迫害が、キリスト教会と深い関わりがあったことから、ユダヤ人は、キリスト教を信じた場合、特にそれが同胞ユダヤ人から出たとなると、深い嫌悪感を持つようになる。

また、ユダヤ人は、ユダヤ教を信じるものという点が、アイデンティティに関わる重要な点である。このため、ユダヤ人でイエス・キリストを信じた場合、ユダヤ教から離れたものであるから、通常、ユダヤ人でなくなると考えられている。

イエスを救い主と信じた家族が出た場合、家族は、その者を死んだ者として家から追放するケースもいまだにあるほどである。

こうした事態をもたらす宣教師は、イスラエルでは、特に忌み嫌われるものであり、それがユダヤ教ラビとして活動していたとなると、怒りは想像を絶するということである。

しかし、現在、イスラエルには、メシアニック・ジューという人々は増える傾向にある。以前は、社会的にも見えない存在であったものが、近年では、その存在があることが、社会的にも知られるようになった。イスラエル軍の中にも、メシアニックジューの若者たちが、多く従軍している。

イスラエルは多様な国で、民主国家でもあり、信教の自由が認められている。最近では、メシアニック・ジューのことを知ろうという学校もある。しかし、強制改宗や、支援活動を伴う宣教、未成年への改宗は厳しく禁じられており、刑事問題になる場合もあると聞いている。

こうした中、ヤドラヒムのような、反宣教団体もまた活発に活動するようになっているということである。その後、エルコーヘンさんたちがどうしているかは不明。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。