ホンダ技研:イスラエルのスタートアップへ参入開始 2016.1.26

悪天候の中、エルサレムでは月曜、クラウドファンディング(ネットを介する個人投資)の会社Ourcrowdによる、グローバル・インベスターサミット(世界投資家サミット)が開かれた。 http://summit.ourcrowd.com

参加したのは、世界50カ国から集まったミリオネア投資家や、スタートアップ会社関係者など3000人で、これまの最高を記録。エルサレムのコンベンションセンターは、文字通り超満員で、立ち見も多数。BDS(イスラエルのボイコット運動)など、見る影もない感じだった。

イベントでは、投資する側に立つ会社のCEOや担当者らの前で、若いイスラエルのスタートアップの会社たちが、開発中の未来の技術をアピールした。ハッカソンも行われた。

今年特に注目されたのが、投資する側として参入した日本のホンダ技研である。ホンダが本格的にイスラエルのスタートアップに参入するのはこれが初めてであったため、特に注目をあびた。

blog.ourcrowd.com/index.php/press-release-honda-opens-door-to-israeli-tech-community/

ホンダからはアメリカのシリコンバレーで研究所を率いるニック・スギモト氏がホンダの将来像を披露。それに役立ちそうなスタートアップ技術を探しているというしくみだ。これに対し、イスラエルからは、3社がそれぞれの技術を紹介した。

スギモト氏によると、ホンダが目標とするのは、コンピューター技術を使って、衝突事故を完全予防するクルマである。車両、ドライバーなど、衝突の原因となる様々な要素を排除する技術開発をすすめている。

そこへイスラエルのスタートアップ会社ボーカル・ズームは、声を認識する技術を披露。車を運転中でもドライバーの声だけに反応して指示を受け、実行する。2018年までに実際に車に搭載する予定となっている。

続いてエンジー社は、車と修理会社を直接連携させることで、車の問題をいち早く発見し修理も格段スムーズになるという技術を披露。アメリカの車両15%に搭載をめざす。

クルマの未来は、やはり自動運転ということになるが、その実現はいつ頃かとの調査では、2020年には実現しているとの結果になっていた。

*マツダ、トヨタ、日産はすでにイスラエルの自動車産業に介入しています。

<急成長の投資会社Ourcrowd> http://blog.ourcrowd.com

Ourcrowdはエルサレムに拠点を置く投資会社で、ネットを通じて世界の個人投資家とイスラエルのスタートアップ(技術開発会社)をつなぐ役割を果たす会社である。

2012年にCEOのジョン・メドヴェッド氏がたちあげ、1年後の2013年にはすでに2000万ドル(約24億円)をスタートアップ26社に投資している。

この場合、投資というのは、単に投資家が儲かるだけでなく、イスラエルのユニークな発想や技術開発が実現し、世に広がって行くことを意味する。

たとえば、アイアンドーム(ミサイル迎撃システム)は、イスラエルのスタートアップmPrest社だが、Ourcrowd とGE Venchersという投資会社を通じて、1社で集めた記録としては最大となる2000万ドル(約24億円)の投資を記録している。

アイアンドームは、イスラエルを守っただけでなく、今世界各国でも購入する国々が増えて来て莫大な利益ももたらしているとことろである。このように、Ourcrowd社が、投資家に紹介するスタートアップ社は、ほとんどが好成績をあげているため、投資家らの注目度も高い。

www.jpost.com/Business-and-Innovation/Tech/Iron-Dome-software-company-mPrest-raises-20-million-442736

現在、Ourcrowdに登録している投資家は約1万人で、イスラエルのスタートアップ93社へ投資し、若いイスラエル人ミリオネアを育成し続けている。

とはいえ、まだだれもが投資できるわけではない。Ourcrowd で投資できるのは、最低1万ドル(約120万円)からで、資産が家以外で100万ドル(1億2000万円)、年収が20万ドル(2400万円)以上の投資家に限られる。厳しい審査があるのだ。

実際には、白人ばかりのボーイズクラブの様相である。しかし、同社では、将来的には、投資をもっと開かれたものにしたいと考えているという。

www.jpost.com/Business-and-Innovation/OurCrowd-draws-3000-to-Jerusalem-Global-Investor-Summit-442769

イベント会場では、「どうしたらミリオンダラー会社を作れるか」というフォーラムが行われた。

「それぞれの人々や文化をとらえることが重要。また、成功のためには人がすべて。まずは、雇用している人々との信頼、家族のような関係。それから顧客の話をどれだけ親身に聞けるかというのが、成功の秘訣。」これがイスラエル人ミリオネアたちからのメッセージだった。

個人的には、「頭で考え始めたら、すぐに着手せよ。」というのが、心に響いた。

<おもしろスタートアップ>

いろいろな技術が披露されたが、その中でも反響があったものから2つほど紹介する。

1)ネットショッピングが変わる!?

この技術とは、たとえば、ソファセットをネットで買うとする。開発したデバイスで、ソファを置こうとする場所を撮影すると、そのソファが正確な大きさも含めて、そこに置かれたときの写真となってあらわれる。

買う前に部屋がどうなるか、大きさも含めて確認することができる。

2)スマホが探し物をみつける!?

モバイル関連のスタートアップで、探し物をみつけてくれるというもの。たとえば鍵を前もって登録しておくと、どこに置いたか忘れた時に、スマホが察知し、その場所へ案内してくれる。

この会社では、この技術を応用し、家事をコンピューターにさせる仕組みをめざしている。たとえば、家の中の掃除など、声で指示するだけで掃除機が勝手にそれを行うなど。だんだんSFの世界に近づいているような感じである。

<イスラエルとアジア>

イスラエルのスタートアップに今最も注目しているのがアジアである。アジアといっても特に中国とインドをさす。

中国とインドは、そうとうハングリーに新しい技術を取り入れている。昨年夏のガザとの戦争中、欧米のビジネスマンは、危険だといって来なかったが、中国だけは、全然気にせずイスラエルにやってきてビジネスを行っていた。

イスラエルのビジネスマンよると、中国は、新しい技術をさっさと取り入れるので、今イスラエルは特に、中国に注目しているという。日本は、慎重なので中国ほどオープンではない。話がまとまるまでに時間がかかると言っていた。

しかし、一方で、東芝と長年の取引を継続しているEZChip社の創設者CEOのエリ・フラクター氏は、「日本は、慎重で、まずは関係作りをじっくりして、信頼を勝ち得ていかなければならないが、いったん話がまとまると、誠実で長続きする。すばらしいパートナーだ。」と言っていた。

<サイバーテック2016> www.cybertechisrael.com

上記カンファレンスの翌日からは毎年恒例のサイバーテック2016が、テルアビブで始まった。上記Ourcrowdにおいても今最も注目されている分野がサイバーセキュリティである。

こちらも世界の国々から、政府系も含めて投資家や、投資をつのる会社などから1万人が参加。250の会社(うち100がスタートアップ会社)が、それぞれ開発中の技術をブースをならべて披露。世界の投資家らとの商談が進む。

今年も毎年のように、ネタニヤフ首相が来て、直接の挨拶も述べた。

<世界の発明王:イスラエル>

イスラエルは、世界トップのスタートアップ国といわれる。これはひらたくいえば、「発明王国」ということである。発明と言っても研究所で、貧しく発明をしている、そういう発明ではない。

世界のニーズをいち早くキャッチし、発案し、投資を募ってそれを完成する。それが終わったらその技術をミリオンドラーで売って、また次のスタートアップを始める。

いつも成功するとは限らない。しかし、イスラエルでは、研究者も投資家も「失敗」はないと考えている。失敗は成功へのステップであると考える。ある投資家はイスラエルの文化はたんに「失敗」が赦されるだけではない。「大失敗」がゆるされるところだと言っていた。

またイスラエルでは、まだティーンエイジャーのうちから才能のあるものは、軍隊のサイバー部隊で、実戦に立たされる。こうした若者は、20代前半ですでに経験を積んだ開発研究者になっているという。こういう環境はイスラエルにしかない。

しかし、以前、誰かが言っていた一言がしっくりくる。「イスラエルって、究極のなまけものですね。」ー つまり、より少ない材料、短い時間で、かつ、できるだけ働かずに、いかに最大の結果を出すかということばかりを考えているということである。

昨年から、日本も政府をあげて、イスラエルからのサイバーセキュリティの技術に投資を始めているが、これは日本にとって非常によいことであると期待する。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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