ブリンケン米国務長官イスラエル入り:アラブ4カ国との歴史的外相サミット開催へ

ベネット首相・ブリンケン米国務長官が共同記者会見

27日、バイデン大統領とポーランドを訪問していた、ブリンケン米国務長官がイスラエルに到着。28日には、ネゲブ砂漠、スデ・ボケルでのイスラエルとアラブ4カ国との外相サミットに参加する。

アブラハム合意の国々(UAE、バーレーン、モロッコ)とエジプトは、アメリカがイランとの核合意において、イランへの譲歩案をすすめていることに反発しており、アメリカ依存からの脱出を目指している様相にある。

こうした中、ブリンケン国務長官が、実際にこのサミットに参加するわけなので、サミットでどんな結果になってくるのか、注目されるところである。

それにしても、かつて、「イスラエルとは和平せず、承認せず、交渉しない。(3ノー)」と言っていたアラブ諸国が、そのイスラエルに集まって、さらにはそこにアメリカの国務長官が参加する形で、サミットを行うなど、前世紀にはまったく想像もできなかったことが起ころうとしている。今、イランという共通の敵を前に、それぞれが自己防衛にあせっているということである。

ブリンケン国務長官は、27日、サミットに先立ってイスラエルに到着し、ベネット首相を2者会談を行った。その後の共同記者会見で、両首脳は、あらためて、友好関係を強調し、アメリカがイスラエルの治安維持にコミットしていることに変わりはないと繰り返した。

いずれにせよ、表向きはそうである。しかし、イスラエルも中東の国々も、アメリカが実質どのぐらいの助けになるのかというところを、するどく読み解こうとするだろう。

ベネット首相とブリンケン国務長官の共同記者会見

以下は、ブリンケン国務長官と、ベネット首相の共同記者会見の内容のまとめ。

1)べゲブ・サミットについて

ベネット首相は、中東の関係がアブラハム合意によって、よい方向に変化していると述べ、さらに合意する国を歓迎すると述べた。また。このサミットに先立ち、フーシ派(イラン傀儡)が、サウジアラビアを攻撃したことに言及。中東で、多くの国がイランを警戒していることを知ってほしいと述べた。

ブリンケン国務長官は、イスラエルのアブラハム合意の拡大努力を歓迎し、ホストとして、サミットを開催するイスラエルに感謝を表明。イランが核保有になるべきではないという基本方針に変わりはないと強調した。また、フーシ派が行なっているサウジアラビアやUAEへの攻撃について、イランがもたらす危険な行為には対抗していくと述べた。

*イラン傀儡フーシ派がサウジアラビア油田攻撃について

3月25日、イエメンの反政府組織でイランの支援を受けているフーシ派が、サウジアラビアのジェダにあるサウジアラムコの油田施設を攻撃。大きな黒煙が上がった。のちにフーシ派は、攻撃を行ったことを認めた。

ジェダでは、27日から、F1グランプリが行われることになっており、世界にもこの攻撃は明らかとなった形である。なお、F1グランプリは、そのまま開催されるとのこと。

ベネット首相は、この攻撃を非難するとともに、これが逆に、イスラエルと湾岸諸国との一致を後押しすると述べた。イスラエルとアメリカの目標は、サウジアラビアが、アブラハム合意に加わることを目標としている。

サウジアラビアは、今の所、イスラエルの旅客機が上空を飛行することを許可するなどの協力はしているが、パレスチナとの和平交渉が改善するまでは、アブラハム合意に入ることはないという態度を続けている。

www.jpost.com/breaking-news/article-702404

2)パレスチナ問題について

イスラエルとパレスチナの間では、まだ和平交渉は頓挫したままである。対話がないまま、両者の憎しみは増大している。こうした中、イスラエルとアラブ諸国とのサミットが、イスラエルで行われるのだが、味方であるはずのアラブ諸国がこれに応じていることに対し、パレスチナ自治政府は、深い落胆を表明している。

これに対し、ベネット首相は、ガザとの関係改善に向けて、イスラエルが新たに2万人に労働ビザを出すこと、また検問所の改善のために、4000万ドル(約1億6000万)を計上したと、パレスチナ人との関係改善に向けた努力をアピールした。

ブリンケン国務長官は、今回、パレスチナ自治政府のアッバス議長を訪問する他、数々のパレスチナ支援団体にも会うことになっている。こうしたパレスチナ側への支援によって、関係改善をはかり、頓挫しているイスラエルとパレスチナの対話の再開をめざすと述べた。

和平交渉を目指すのとは正反対のように聞こえるが、アメリカは、イスラエルへの迎撃ミサイル(アイアンドーム)の増設を支援することになっている。ベネット首相は、アメリカが、迎撃ミサイル(アイアンドーム)配備に協力し、継続してイスラエルの治安維持にコミットしていることに感謝を表明している。

3)ウクライナ問題について

ベネット首相は、イスラエルはできる限りの停戦への努力と人道支援をしているとし、ウクライナ国内に派遣した医療チームによる野戦病院では、開設からすでに500人以上を治療したと報告。続けて、要請に応じる形で支援を続けると述べた。

ブリンケン国務長官は、ウクライナ人の子供たちの半数が難民になっていると述べ、ベネット首相が水面下ですすめているロシアとウクライナ首脳への電話仲介努力はじめ、イスラエルの人道支援、野戦病院にも感謝を述べた。

総じて、ベネット首相は、アメリカとイスラエルの友好関係は強く不変であると宣言した。ブリンケン国務長官も、これに同意を表明した。

www.timesofisrael.com/pm-to-blinken-israel-concerned-by-potential-delisting-of-irgc-as-terror-group/

ネゲブでのサミット参加の外相たち到着とヨルダンでの別サミット

こうした中、27日、サミットに参加するエジプト、UAE、バーレーン、モロッコの外相が到着し、ラピード外相が歓迎に出ている。外相たちは、そのまま、チンの荒野にある開拓地、スデ・ボケルに向かっている。ここは、イスラエルの初代首相ベン・グリオンがしばらく滞在し、開拓に関わった地である。いうまでもなく、イスラエルは万全の警備でこれに対応している。

ヨルダンの参加も期待されていたが、パレスチナ人を刺激しないためか、参加は見送った。ヨルダンのアブドラ国王は、28日、ラマラで、パレスチナ自治政府のアッバス議長と会談し、ラマダン中の治安維持について話し合ったとのこと。

また、数日前になる25日、エジプトのシーシ大統領、UAEのアル・ナヒマン皇太子、イラクのカダヒニ首相が、アカバで会談している。

ヨルダンは、パレスチナ人との関係の手前、イスラエルでの中東サミットに表立って参加はできないが、国として、中東で置いてきぼりになるわけにはいかないということであろう。

www.france24.com/en/live-news/20220325-jordan-king-hosts-uae-egypt-iraq-leaders

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。