ノーベル経済学賞に在米イスラエル人ジョシュア・アングリスト博士 2021.10.13

労働・教育・経済学:基盤にイスラエルの教育システム

経済学でノーベル賞を受賞した3人の経済学者のうち1人は、アメリカに在住するイスラエル人、ジョシュア・アングリスト博士(61)であった。受賞した研究は、最低賃金引き上げの影響や、教育と経済の関係の分析など、労働経済学の分野で、政策立案に貢献したとしてノーベル賞受賞となった。

3人が行った分析は、研究者が意図的に被験者を集めるのではなく、実社会に自然に生じた原因と結果を分析するもので、自然実験と呼ばれている分野でる。

一つは、最低賃金を上げると、その分、雇用は減ると考えられている点について、3人が自然実験という手法でみると、最低賃金をあげても雇用は減っていなかった。こうなると、たとえば、移民が流入して最低賃金の労働者が増えても雇用は減らないということになる。

またアングリスト博士は、教育期間の長さで、生涯の所得が増えるのかどうかの研究も行っていた。結果、教育期間が長いほど、卒業後の収入が増えることを確かめている。

www.nikkei.com/article/DGKKZO76534440R11C21A0EP0000/

アングリスト博士の、教育に関する研究においては、イスラエルの教育システムが土台にあったという。イスラエルでは、クラスの最大人数は、12世紀のユダヤ教賢者マイモニデス(モシェ・ベン・マイモン)のタルムードからの教えに基づいて、40人までとなっている。

この40人は厳守されており、41人になれば、クラスを2つに分けている。12世紀からずっと今も、このルールを破っていない。この同じ条件が基盤となり、教育機関の長さによるその後の人生を比較するという研究が可能であったということである。

素人にはわかりにくい点もあるが、ワクチンといい、社会経済学といい、イスラエルという国が世界の実験台になっているということである。この国は、まさに人類のサンプルのような国で、人類を代表して、神の前に立っているということをあらためて思わされる。

www.timesofisrael.com/maimonides-in-the-classroom-the-research-that-led-angrist-to-the-nobel/

名のある大学がその後の人生の収入を増やすか

アングリストさんは、アメリカのオハイオ州で生まれ育った。オーベリン大学で経済学を学んだ後、イスラエルへ移住。ヘブライ大学でも学んでいたが、その途中で退学し、従軍、1982年から1985年までパラシュート部隊に配属された。(レバノン戦争時代)

その後再びアメリカに戻ってプリンストン大学でマスターと博士号を取得。ハーバード大学で、副教授を勤めた。1991年から1996年まではヘブライ大の教授となった。その後は再びアメリカに戻り、MIT教授を勤めながら研究を続け、今回の受賞となった。

世界一の大学オンパレードである。アングリスト博士は、「人々は名のある高校や大学に入ることが、人生で成功する鍵だというが、そうではないときもある。名のある大学に入るような者が、人生で成功するのは、その人そのものに、そういう大学に入る能力があったからである。そういう人はいずれにしても成功するだろう。」と語った。

イスラエルにとどまらなかった理由:頭脳流出はイスラエルにも?

アングリスト博士の人生を見ると、イスラエルへの移住を決意していたことは明らかである。しかし、結局アメリカへ帰ってしまったのは、イスラエルの学術への認識に同意できなかったからだと語る。

2006年になぜイスラエルと出ていくのかについてインタビューされた際、アングリスト博士は、イスラエルでは、市場で収益を生み出すコンピューターサイエンスや経済学の研究者と、その反対である文学者の報酬が同じだという点を指摘した。アメリカでは、ハイテクや、経済学の研究には、それに応じた予算や報酬が定められているという。

www.jpost.com/israel-news/nobel-prize-winner-angrist-left-israel-because-of-his-low-salary-comment-681672

この点でいえば、日本も国が研究費を十分に出さないので、頭脳が海外に流れることに警鐘が鳴らされている。今回ノーベル物理学賞を受賞した真鍋聡郎博士も、日本人ではあるが、アメリカの大学での研究であった。

真鍋博士は、1997年にいったん帰国して科学技術庁の研究部門の長官に就任したが、2001年に再び渡米した。役所の縦割りに阻まれ、他の研究期間との共同研究ができなかったたとのこと。アメリカが世界一の国でありつづけるのは、こうした分野にも出費を惜しまないからかもしれない。

news.yahoo.co.jp/articles/4f0b67e626764d89de06efe52ba49f492c00f896?page=3

石堂ゆみ

石堂ゆみ

ジャーナリスト、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて18年。学校・企業・教会などで講演して15年になります。