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困難きわまる連立交渉
イスラエルでは、11月1日の総選挙で、リクードのネタニヤフ氏が、右派政党とユダヤ教政党の支持を受け、国会120議席中、64議席という余裕の過半数を確保した。
ヘルツォグ大統領は、ネタニヤフ氏に連立立ち上げの指名を行った。ネタニヤフ氏は、期限の28日を使いきらないうちに連立を立ち上げ、首相に復帰するとの楽観視もあった。
ところが、いざ交渉が始まると、支持政党たちがそれぞれの主義主張が通るような閣僚のポジションを文字通り、全く遠慮なく要求するようになった。しかし、それらの要求は、たとえば、強硬右派のスモルトリッチ氏が防衛相を要求するなど、国内世論や、ネタニヤフ氏にとっても受け入れられるものではなかった。
このため、ネタニヤフ氏は、それに近い、新しい役職を創設するなどして、それを割り振る形で、右派政党とユダヤ教政党それぞれとの連立交渉を行っている。
しかし、政府に新しい部署やその責任者を置くとなると、法的なバックアップがいる。また、今回は特に、ユダヤ教シャス政党のアリエ・デリ党首を大臣にするためには、逮捕歴がある政治家でも大臣に復帰できると明記する法案も作らなければならない。
このため、リクードは、これらに関する法案を国会に提出。非常に論議をかもしている4件が、昨日、予備審議にかけられたが、国会過半数を確保しているので、なんなく通過した。*法律になるには、合計3回通過が必要
このように、イスラエルの政府は、今、史上最も多様な政府から、史上最も強硬な右派、かつユダヤ教政党の言うことが通る政府に、変わりつつある。
こうなると、市民の日常生活や、海外からのユダヤ人の帰還にも影響が出てくると予想され、国内からは、市民からだけでなく、リクード党内からも懸念と反発が噴き出している。同盟国アメリカも懸念を表明する事態になっている。
このため、ネタニヤフ氏は、28日間の期限内に新政権を立ち上げることができず、12月9日、ヘルツォグ大統領に期間の延長を申請し出た。
延長期間は、通常なら2週間与えられるが、大統領は10日間しか与えなかった。大統領は、右派に傾きすぎる政府に懸念を表明しており、この形での連立立ち上げに厳しい態度をとったということである。
www.timesofisrael.com/herzog-grants-netanyahu-10-more-days-to-form-a-government/
とはいえ、対抗馬であるラピード首相の陣営は、支持政党が少なく、ネタニヤフ氏に代わって政権を立ち上げることは不可能である。また、もう一度総選挙をやりなおしても、同じ結果になることは明白だ。イスラエルの政治は、これまでにないほどに分裂、混乱状態にある。
ではどうなるのかだが・・・まだどんでん返しが全くないとはいえ、最終的にはネタニヤフ氏が、ゴリ押しに、なんとかするのだろう、いや、それしかないというところだろうか。
実際、13日、国会では、国会議長を選ぶ決議が行われ、前のラピード陣営のミッキー・レビ議長が退陣し、リクードのヤアリブ・レビン氏が新たに暫定議長に決まった。国会で、ネタニヤフ氏の意見が通りやすい形である。
これについても、ネタニヤフ陣営が、国会で過半数なので、当然の結果といえるだろう。
www.timesofisrael.com/yariv-levin-elected-temporary-knesset-speaker-will-facilitate-crucial-bills/
物議:極右・右派政権・ユダヤ教政党との交渉の内容
上記のように、右派政党もユダヤ教政党も、かなり強引にネタニヤフ氏に要求をつきつけている。
特に極右のオズマ・ヤフディ党と宗教シオニスト党は、リクードに勝利をもたらした一因であったことに加えて、首相は、刑事訴訟の対象にはならないという法案にも合意している。
ネタニヤフ氏が首相になり、この法案が国会で通れば、まずは、汚職で刑事訴訟中のネタニヤフ氏が追求を免れる可能性が出てくる。ネタニヤフ氏は、今、右派政党をお返しをしないといけない弱みの時にある。これがイスラエルにとって大変危険との指摘も出ている。
また、重要な閣僚のポジションは、リクードの議員たちにも振り分けないといけない。リクードからはすでに不満の声も出ている。ネタニヤフ氏は、閣僚を前半後半でローテーションする案を出すなど、苦心しているようである。
以下は、リクード意外の極右、ユダヤ教政党との交渉の様子。
1)極右・オズマ・ヤフディ党(イタマル・ベン・グビール氏):国家安全保障相(警察を管轄下)も権限拡大で大ブーイング中
今回最も問題視されているのは、極右政党のオズマ・ヤフディ党(ベン・グビール氏・46)である。極右というのは、最終的には、神殿の丘、西岸地区もイスラエルのものであるとの考えを持ち、パレスチナ人の存在を認めないという極端なイデオロギーを持つということである。
このため、これまでは支持率も低かったが、前のベネット&ラピード首相による左派統一政権の間に、右派の特に若年層の支持を集めるようになっている。そこで今回、ネタニヤフ氏は、極右のオズマ・ヤフディ党と、右派宗教シオニスト党(スモトリッチ氏)を合体させ、2党の得票数を加算することで議席数を増やすことを考えた。それにより、ネタニヤフ陣営の議席数を増やすという作戦であった。
選挙の結果は、予想以上にベン・グビール氏の党が票を獲得したことから、彼らを含む宗教シオニスト党は、リクード、未来がある党(ラピード首相政党)に次いで3番目の政党となった。
ところが、選挙後まもなく、オズマ・ヤフディ党は、宗教シオニスト党からの独立を発表した。ベン・グビール氏は、党首として、政権内のポジションを要求できる形となった。いわばネタニヤフ氏の勝利の鍵を握っていた存在でもあったので、今はネタニヤフ氏に大胆に要求をつきつけている。
グビール氏は、警察を管轄下に置く公安相のポジションを要求した。しかし、グビール氏は、ユダヤ人過激派で知られるカハネ派と関連があり、アラブ人へのヘイト発言で、自身も何度か警察に検挙されたこともある人物。そのグビール氏を警察のトップを任せることには、国内からも反が発噴き出した。
そこで、ネタニヤフ氏は、グビール氏に、既存の公安省ではなく、国家安全保障相という新たなポジションを作って、これを提示した。これは公安庁と同様に、イスラエルの警察を管轄下に置く省庁だが、国家という位置付けなので、権威はさらに上がっており、警察署長を部下に置く形になることが明らかになってきた。これにより、警察が政治と独立した立場を維持できない可能性も指摘されている。
実際、グビール氏は、すでに、警察官(国境警備隊含む)の実弾を使うことへの制限緩和することや、神殿の丘へのユダヤ人の入場に関することにも言及しており、シャブタイ現警察所長は、グビール氏にこれほどの権限を与えるこの法案に懸念を表明している。
この新しい国家安全保障相という新しい役職を定める法案が、この13日の予備審議を通ると、各方面から断続的にグビール氏にこれほどの権威を与えるべきでないという声が続いている。反発は、現在のバーレブ公安庁長官、前警察長官ロニ・アルシェイヒ氏からも出ている。アルシェイヒ氏は、「私なら警察長官をやめている」とまで言った。
2)宗教シオニスト党(ベツァルエル・スモトリッチ氏):経済相と西岸地区建設担当相(新しい省庁)で懸念噴出
スモルトリッチ氏(42)は、当初、防衛省のポジションを要求した。しかし、明らかに右派であることと、スモルトリッチ氏の従軍期間がわずか14ヶ月しかなかったことなどから、大反発が各方面から出た。このため、ネタニヤフ氏は、防衛省ではなく、経済相に指名すると発表している。
宗教シオニストであるスモトリッチ氏は、トーラー(聖書)の神に従っていれば、経済は安定するといった発言をしているが、今のイスラエルに発展をもたらしたのは、世俗的なスタートアップの人々でもあるので、スモトリッチ氏の概念に反発する声もある。
また、防衛省の中に、新しく西岸地区建設政策担当という新しい省庁を設立し、その官僚にスモルトリッチ氏を配置するとの動きになっている。この役職は、西岸地区入植地に関することは、治安問題も含めてすべてを担う省庁になるという。
その治安問題だが、先に国家安全保障の大臣として警察を傘下におくベン・グビール氏は、西岸地区の入植地は、イスラエル国内との考え方から警察が担当すると言っている。しかしIDFと協力する場面も出てきた場合は、スモトリッチ氏が出てくることになり、防衛省の本筋ではない動きになる可能性が指摘されている。
ガンツ防衛相は、実質的には、国防省が2つになるようなものだと懸念を表明した。これについては、国会の法律専門家も、イスラエル軍管轄するのは、防衛省のみであるべきだとの考えを発表した。
3)ユダヤ教政党シャス党(アリエ・デリ氏):内務相と保健省、2年後経済相?、副首相
ユダヤ教シャス党のアリエ・デリ氏(63)には、内務相と保健相、2年後に経済相という計画で合意に至った。とはいえ、デリ氏は、今年、脱税で有罪判決となり、執行猶予になっている。その人物が閣僚に戻るためには、基本法を変えなければならない。
そのための予備審議が今週、可決されたため、デリ氏が閣僚に戻る可能性が出てきている。この他ネタニヤフ氏は統一トーラー党などのユダヤ教政党とも交渉、合意に至っており、新政権はユダヤ教色の濃い政権になるとみられている。
石のひとりごと
いやはや、一体何がどうなっているのか、だいたいを理解するのに丸一日半はかかってしまった。まだ理解しきれていないところもあるだろう。本当にチェスのような世界である。さらには、実際にどんな政府が立ち上がるのかも、まだわからないといったほうがよいだろう。
ネタニヤフ氏は、本当にしたたかなので、相手を満足させて、あとでそれは実現しないといったこともめずらしくない。利用されてあとで捨てられる政治家もいる。
今回も、極右政党のために、新しい部署を作るなど今までになかったようなことをしているが、あまりにも多くの人の反対が出ているところを見ると、ネタニヤフ氏自身も本気なのかどうか、疑問にみえてこないでもない。。これらの新部署が実際にどう動いていくのかは、蓋をあけてみないとわからないだろう。
自分が首相に返り咲くために、協力してくれた極右やユダヤ教政党には、報いを与えないわけにはいかないだろうが、政治の天才ネタニヤフ氏は、おそらくその上をいっており、計算ずくのことであり、決して彼らにふりまわされているのではないだろうとも思う。
いずれにしても主の計画だけがなるということである。イスラエルにとってベストな政府になるように祈る。
人の心には多くの計画がある。しかし、主のはかりごとだけがなる。(箴言19:21)