トランプ大統領の中東和平政策 2017.5.8

トランプ大統領が、イスラエルとパレスチナの中東和平問題解決に乗り出している。まずは、アメリカが仲介または、きっかけ作り役となり、2014年に頓挫して以来になる両者の対話を再開したい考えである。

トランプ大統領は、イスラエル、パレスチナ双方が納得する案であれば、2国家案(国を2つに分ける)でも1国家案でもどちらでもよいと発言しており、2国家案に固執したこれまでの大統領の考えとは異なった立場を明らかにしている。

しかし、実際にトランプ大統領がどのような将来像をもって和平を目指すのか、具体的なことはまだ明らかではない。

なお、1月20日の大統領就任の時点では、義理の息子で、現在、大統領上級顧問のジェレッド・クシュナー氏(ユダヤ人・36歳)が、中東政策の担当となっている。

www.jpost.com/American-Politics/Jared-Kushner-will-broker-Middle-East-peace-at-the-White-House-says-Trump-478554

<トランプ大統領:アッバス議長会談>

3日、トランプ大統領は、ホワイトハウスにて、パレスチナ自治政府のアッバス議長と会談した。

アッバス議長は、昔からの変わらぬ方針、①エルサレムをパレスチナの首都とし、②1967年の軍事ラインを国境線にしてパレスチナ国家を設立する(神殿の丘を含む東エルサレムがパレスチナになる)という主張をトランプ大統領に伝えた。

結局のところ、この2点は、まさにイスラエルが受け入れられない究極の2点である。要するに狭い路地で対面した車2台が、どちらもが後ろにも引けず、かといってゆずり合う隙間もなく、ただにらみあったままになっているという状況なのである。

この会談において、トランプ大統領は、アッバス議長に、イスラエルへの敵意を緩和するため、イスラエルの刑務所にいるテロリストの家族への経済支援を停止することや、イスラエルへの憎しみを増長するような発信をやめるように要請したと伝えられている。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4957090,00.html

この会談について、アラブ系メディアのアル・ジャジーラは、具体性のまったくない、ただ「無駄」としかいいようのない訪問と、かなり手厳しく伝えた。

www.aljazeera.com/indepth/features/2017/05/trump-abbas-meeting-exercise-futility-170505124344776.html

<トランプ大統領のエルサレム訪問予定>

アッバス議長との会談の後の5日、トランプ大統領は、正式にエルサレムを今月22日、23日と一泊2日で訪問するという予定を発表した。

エルサレムに滞在中には、ネタニヤフ首相に会う他、ベツレヘムでアッバス議長にも会う方向で、調整が進められている。

エルサレムでの宿泊はキング・デービット・ホテル。同伴者やセキュリティ関係者、マスコミも世界中から来る。トランプ大統領がホテルから移動するたびに、道路が封鎖され、エルサレムは相当な混乱となる。

この翌日が、エルサレム統一50周年記念日で、様々なイベントの他、若い右派シオニストたちが市内から旧市街までをパレードする日になっている。治安部隊にとっては、悪夢のような3日間になりそうである。

イスラエル政府は、ホワイトハウスに対し、訪問を6月に延期するよう要請したが、トランプ大統領が、これを拒否したと伝えられている。その背景には、時期的な重要性が考えられる。

トランプ大統領は、アメリカ国家祈りの日*であった5日に、「自由は政府が与えるものではなく、神が与えるものだ。信教の自由を保障する。」と語る中で、エルサレム訪問を公式に発表した。

日程は、5月19日にアメリカを出て、イスラムのメッカがあるサウジアラビア(20−21日)、次にエルサレムがあるイスラエル(22−23日)、続いてキリスト教のバチカンがあるローマ(24日)を訪問するという、3宗教を等しく回る予定である。

またこの直後の25日には、ブリュッセルでNATO首脳会議にあわせて、EUのトゥスク大統領と、ユンケル欧州委員長 に会うことになっている。その翌日26日からは、イタリア、シシリー島でのG7に出席する。

なかなか忙しそうだが、これでトランプ政権の外交方針がだいたい見えてくるのではないかと思われる。

www.jiji.com/jc/article?k=2017050500735&g=int

<そもそも・・ヨルダン・オプション>

イスラエルとパレスチナの問題が、どこにも解決がないかのような事態になっているが、そもそも、パレスチナ人の国はすでにあるではないか、というのが、昔からある、”ヨルダン・オプション”である。

オスマントルコが崩壊したのちのイギリス委任統治の時代、1917年から1922年(トランスヨルダン設立)までは、今のイスラエルだけでなく、ヨルダンを含めた地域全体が「パレスチナ地方」と呼ばれていた。

それを1922年に分割してイスラエルとヨルダンにしたのだが、ヨルダンの国民は今も70%以上がパレスチナ人であり、今の王妃ラーニアもクエート生まれではあるが、パレスチナ人である。

いわば、この最初の2国家分割案の時に、イスラエルはユダヤ人の国、ヨルダンがパレスチナ人の国、ということで落着してもよかったわけである。

ところが、1960年代にアラファト議長率いるPLOが登場する。1993年のオスロ合意の時には、このアラファト議長率いるPLOが、正式にパレスチナ人の代表となり、第二のパレスチナ人の国ともいえる国を立ち上げることになった。

その新しいパレスチナになる予定の国も2007年に、西岸地区のファタハと、ガザ地区のハマスが分裂した。今では、ガザという第三のパレスチナ人の国ともいえるものができはじめた。問題は徐々に複雑化をたどっているというのが現状である。

今になって、そもそもの話を出してももう、まったく意味はないのだが、今になってこの理論を再度持ち出した記者は、「パレスチナ人の国を論じるなら、イスラエルだけが、そのために領土を差し出すのではなく、ヨルダンにもその一端をになう責任があるのではないか。」と訴えている。

理論的にはまったくその通りといえるかもしれない。しかし、そうはならないというのは、イスラエルにはエルサレムがあるからである。

結局のところ、パレスチナ問題の究極の到達目標地点は、「エルサレムからユダヤ人を追放する」という一点につきるというイスラエルの指摘は、残念ながら正しいといえるだろう。

さてトランプ大統領、これにどう介入するのだろうか。。。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4957389,00.html

*アメリカの国家祈りの日

アメリカでは、1775年に初代の議会が、国家をあげて神の前にへりくだりって悔い改め、祈る日を設けた。1863年には、リンカーンが、国のために断食の祈りを呼びかけている。

1952年、トルーマン大統領が、毎年恒例の国家行事とし、1988年、レーガン大統領が、5月第一木曜を、国家祈りの日に定めた。

www.nationaldayofprayer.org

しかし、アメリカでは、年々リベラル化がすすみ、同性愛者の結婚式を拒否する教会は、法廷に訴えられ、宗教法人としての税金控除の特権を剥奪されるなどして、破産する教会や、神学校が相次いでいる。

今年の国家祈りの日、トランプ大統領は、教会の発言力を強化する、牧師のメッセージも監視されることはないと語り、いわゆる”ジョンソン・アメンドメント”(政教分離のため、政治に口出しする教会は税金控除を剥奪されるなどの法案)を破棄するとの方針を語った。

一見、よいことのようにもみえるが、アメリカの有力な福音派メディア、クリスチャニティ・トゥデイは、ジョンソン・アメンドメントの廃止だけでは、政治的な発言に関することだけであり、ほとんど意味がないとして、落胆の反応をしている。

www.christianitytoday.com/ct/2017/may-web-only/trump-religious-liberty-order-johnson-amendment-ndop-prayer.html

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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