コロナ死者8月だけで100人強:医療体制強化へ 2021.8.12

イスラエル軍とMDA(救急隊)によるPCR検査上

イスラエルのデルタ株による感染状況は悪化を続けている。政府は、病床数の確保をはかって最悪の事態に備えつつ、ワクチン未接種への圧力をかけると共に、接種者への3回目接種をすすめて、今回も逃げ切れるかどうか、瀬戸際の様相である。

しかし、対策の一つとして検査、検査をすすめていることもあり、新たな感染者数は増加の一途である。知人たちからは、子供が陽性になり家族で家庭内隔離しているとか、近くのキブツ全体が隔離になったとかの情報もあり、問題がずいぶん身近になってきた感じである。

医療専門家が訴え:9月10日までに入院者数は4800人まで増加すると警鐘

イスラエルでは、デルタ株になって以来、感染者数、重症者数、死者数がすべて急速悪化を続けている。10日の感染者は、5755人(9日は6349人)と6000人前後まで増え、過去半年の最悪値を更新している。陽性率(PCR検査14万2207人中)は、今月初頭は2.96%であったものが4.65%まで上昇した。

重症者は、6月中19人までに減っていたところ、8月に入ってから毎日12-18人増え、現在405人。このうち87人が瀕死状態にあり、62人が人工呼吸器に依存している。中等の人も含め、入院している人は694人である。

死者は、10日だけで11人。8月に入ってから死亡した人は100人を超えた。これは、7月中の死亡者数の2倍、6月の10倍にあたる。

www.timesofisrael.com/serious-covid-patients-hit-400-as-nearly-6000-cases-diagnosed-tuesday/

この状況を受け、医療専門家たちは10日、このペースでいくと、9月10日までに、入院を要する患者が4800人、この半数の2400人が重症者になるとの厳しい予測データをベネット首相に提出した。専門家たちによると、現状で重症者のケアは800人が限界とのこと。

ベネット政権は、ロックダウンについての可能性は否定しないまでも、疲弊する経済を考えると、もはや4回目のロックダウンという選択肢はありえないとして、ウイズコロナ、社会活動は止めないという基本方針は、今の所はまだ変わっていない。

しかしさすがに、ベネット首相の相棒とも言えるヤミナ党シャキード内務相からは、「一人の命は全てではないか」との反論が出た。しかし、特にリーバーマン経済相は、コロナは風邪の一種と考える派のようで、今回はむしろ、シャキード内務相の方に批判が殺到したもようである。

www.timesofisrael.com/health-officials-predict-thousands-of-seriously-ill-covid-patients-within-month/

とはいえ、無策のまま、ウイズコロナと言い続けているわけではない。ベネット首相は、数日おきにコロナ閣議を開催し、作戦を練り、対策を更新し続けている。最終的な対策は以下の通り。

医療体制強化に25億シェケル投入:コロナ病床と医療従事者増強

ベネット首相は、これ以後も重症者が急増する見通しを受け、医療体制強化に25億シェケル(800億円)を投入すると発表した。その内訳は、コロナ病床を770床増やし、新たに医師・看護師800人を雇用する。

高齢者医療施設の病床を1000床増やして、そこで医療に従事する人600人を雇用する。また、HMO(日本でいえば保健所だが診断、治療も行う)の管理下での自宅療養者が悪化した場合に受け入れる病床を1400床増やす。

医療スタッフのサポートとして、その他の医療従事者と医学生3000人の訓練を早急に行なっていく他、イスラエル軍も協力する。これにより、第3波の際の重症者数の倍にあたる2400人の重症者を診ることが可能になると見込むとしている。

www.jpost.com/israel-news/israel-hits-400-serious-covid-cases-ahead-of-corona-cabinet-meeting-676412

しかし、実際にこれだけの医療従事者を一気に調達することは不可能である。ベネット首相とホロビッツ保健相が合意したところによると、10日おきに、医師100人、看護師500人、救命救急士200人を、需要に応じて配置していくとのこと。

しかし、病院関係者は、対策を歓迎するとしながらも、実際の人材はどこから来るのかとか、今から訓練しても即戦力にはなりえないといった声も出ている。

イスラエル医療連盟責任者のツィオン・ハガイ教授は、実際には、これらの対策は、遅すぎであり、不十分で、今すでに逼迫する現場を補助するだけで、ますます増えていく患者数に対応する次元にはないと述べた。また、「人命と経済を同じレベルで考えるべきではない。」と政府を批判している。

www.jpost.com/israel-news/israel-hits-400-serious-covid-cases-ahead-of-corona-cabinet-meeting-676412

新たな感染予防対策:3歳以上からグリーンパス

数日前に対策が更新されたばかりだが、10日、また新たな対策が発表された。レストランや、プールや図書館など、買い物以外の場所では、すべてグリーンパスを提示しなければならないが、8月16日以降は、その義務を課される年齢を3歳まで下げるという。

言い換えれば、3歳の子供でもPCRを受け、陰性を証明しなければならないということである。政府は3歳から12歳までの検査料は公費でまかなうが、12歳以上はみな実費になる。このためか、ティーンエイジャーたちのワクチン接種希望者が増えているとのこと。

www.jpost.com/israel-news/israel-hits-400-serious-covid-cases-ahead-of-corona-cabinet-meeting-676412

子供たちの検査については、超正統派の子供たちの新学期が始まることを受け、国の規定通り、約1000人の子供達全員が、血清抗体検査を受けた。地域はブネイ・ブラックなど過去に感染が深刻であった地域が多いせいか、子供たち(3-12歳)の約21%が、すでに感染して抗体を持っていることがわかった。

この子供たちは、自然にワクチンを済ませた形であるため、グリーンカードが発行され、万が一クラスメートの中でコロナ陽性が出たとしても、登校を続けることができる。

www.timesofisrael.com/serological-tests-of-children-in-haredi-cities-shows-20-recovered-from-covid/

IDFの感染対策拠点を視察するベネット首相とコハビ参謀総長Amos Ben-Gershom (GPO)

大規模な検査や、クラスター追跡などでは、イスラエル軍が活躍している。イスラエルではコロナとの戦いも戦争との位置付けになっているのである。

10日、ベネット首相は、この戦いでも活躍するイスラエル軍の国内治安感染予防基地(大規模PCR検査、クラスター対策など)を、コハビ参謀総長とともに視察した。

ワクチン接種者と未接種者の違いは

イスラエルは高いワクチン接種率で知られる。70歳以上は概ね90%以上、40歳以上で80%以上、20歳以上で70%以上、16-19歳で、68%、12-15歳で26%となっている。

重症化している人は、ワクチン接種完了者の中からも出ているが、やはり、ワクチンをしていない高齢者が多いことが特徴的となっている。

保健省のデータによると、60歳以上ワクチンを2回完了していた人10万人あたりの感染と重症化率は16.6%であった。これに対し、ワクチンをしていない60歳以上の感染と重症化率は98.9%であった。ワクチンをしていない人の重症化率は6倍ということである。

60歳以下については、重症化する人はまだ少ないが、接種者と未接種者の間には、やはり差が出ている。重症化した人は、ワクチン接種完了者10万人あたり0.5人だが、未接種者では1.6人であった。年齢にかかわらず、ワクチンのデルタ株に対する感染予防能力はかなり低くなっているものの、重症化を防ぐ能力はあるということである。

www.timesofisrael.com/among-older-israelis-serious-covid-rate-six-times-higher-if-unvaccinated/

ところで、イスラエルでは、まだワクチンの接種を受けていない人が110万人いるとされるが、この3分の1にあたる40万人以上はアラブ系市民である。

特に深刻なのが若年層で、まだ31万5000人ほどした接種を終えていない。日本と同様、若年層が感染を拡大し、自らも重症になるケースが懸念されている。Times of Israelによると、現在、コロナで入院している人の約半分は55歳以下のアラブ系市民だという。

一方で、全体でみると、アラブ系市民の感染はユダヤ系市民よりは少なくない。重症者のうち、アラブ系市民の割合は11%で、感染赤信号地域が51地区ある中、アラブ人地域は3箇所に過ぎないのである。

この傾向は、今の日本とよく似ているかもしれない。アラブ系市民の間では、検査の数が少ないので、感染者数が少なく出るという点。また感染者数は少ないが、感染するのはまだワクチンを受けていない若年層が多い。したがって重症化するのも若年層ということである。

これに対し、全世代にワクチン接種が進んできたイスラエルのユダヤ系市民の間では、早期にワクチン接種を終えた高齢者の間で、再び感染と重症化が拡大していおり、ワクチンのブースター3回目が必要になっているということである。

ブレークスルー感染と3回目ブースター接種について:NewYorkTimesより

ワクチン接種をしていても感染するとは、残念きわまりないが、ワクチン2回完了しているのに感染し、重症化せずに回復した人は、十分に抗体を持つようになり、3回目のワクチンを、自然に受けたか、それ以上の効果がある可能性があるという。

イスラエルでは高齢者と40歳以上で免疫異常のある人々に、3回目のワクチンをすすめている。これを一般の40歳以上にも拡大するみこみとなっている。

static.nytimes.com/email-content/CB_sample.html

石のひとりごと

命か経済か。ネタニヤフ政権の時代は、命を最優先したのであった。しかし、経済はぎりぎりまで落ちた。今は、命を大事にしながらも、もはや経済を犠牲にするということも限界に来ているわけである。

一つの希望はイギリスが、すべての感染予防対策を撤廃したにもかかわらず、感染者数は減っているという点である。しかし、コロナについては、それぞれの国で状況も条件も、また文化的背景や考え方も違っているために、対策やその進め方にも違いが出ている。

他国のやり方を参考にはできない。日本で言うなら、各都道府県ですら、同じにはできないのである。先行きはまだまだ明るいとは言い難い。

思い出すのは、はるかにもっと厳しく、先が全く見えないホロコーストの暗闇の中にいたユダヤ人たちの中に、「これもやがて終わる」と言いながら、今できる現実の戦いを戦った人々がいたことである。

この時代のユダヤ人たちが持っていたのは根拠なき楽観ではなかった。先に希望があるからこそ、目の前にあるそれぞれの現実の戦いを必死で戦ったということである。それは今のイスラエル政府の様子からもうかがえる。

聖書につぎのような言葉が書いてある。イスラエルが破滅を迎える直前のことばであった。

わたしはあなたがたのために立てている計画をよく知っているからだ。―主の御告げーそれはわざわいではなくて、平安を与える計画であり、あなたがたに将来と希望を与えるためのものだ。あなたがたがわたしを呼び求めて歩き、わたしに祈るなら、わたしはあなたがたに聞こう。(エレミヤ29:11-12)

まだ先は見えないが、この神を信じる者として、この神に希望をおきつつ、科学者たちが必死に研究してくれていることにも耳を傾け、わかっている限りの準備や、社会のために、自分にできる戦いはしていこうと思う。

そうして、この厳しい時代にこそ、この聖書の神を呼ぶことができるよう、この神との和解(福音)を受け取る人々に出会えることを祈るばかりである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。