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11年ぶりにイスラエルで高位高官と会談:アッバス議長
28日夜、ローシュ・ハアインのガンツ防衛相の自宅に、パレスチナ自治政府のアッバス議長が訪問、会談を行っていたことがわかった。
アッバス議長とガンツ防衛相は、この7月に電話で初会談したあと、8月にガンツ防衛相がラマラにて、アッバス議長と会談している。しかし、アッバス議長自身が、イスラエル領内に来て、イスラエルの防衛相レベルの高官と会うのは2010年以来である。
会談の目的は、今違いの衝突が激化している中、どう協力して治安の維持をはかっていくかを話し合うためである。パレスチナ自治政府は、汚職などで人々の信頼を失っており、その分、ハマスが西岸地区にまで進出しはじめている。アッバス議長とイスラエルは、いわば、同じ敵を抱えている形のような感じである。
会談には、アッバス議長顧問で、自治政府のイスラエルとの関係調整担当のフセイン・アル・シーカー氏、情報部のマジェッド・ファラージ長官が同行していた。一方、イスラエルからは、COGAT(IDFにおけるイスラエルとパレスチナの実務系コーディネーター部門)のガサン・アリアン氏が同席していた。
ガンツ防衛相がツイッターに投稿したところによると、両陣営は、民間レベルの経済対策、またイスラエル人、パレスチナ人双方がテロや暴力から守られるようにするための、治安維持に向けた協力についても話し合ったとのこと。
自治政府は今、非常な経済危機にあり、その点もまた、ハマスの進出を許している原因になっているとして、イスラエルは、5億シェケル(約190億円)の借款を決めた。また、西岸地区とガザ地区に住む市民たちの入国許可を出して、市民の経済活性化とともに、市民の心情に訴える方策も行なっている。
www.timesofisrael.com/gantz-pa-president-abbas-meet-at-defense-ministers-home-in-rosh-haayin/
ベネット首相は、今はまだ和平交渉の時期ではないとして、自身は、パレスチナ自治政府との交渉を始めることはないと明言している。しかし、一方で、ガンツ防衛相がすすめているような、民間、実質レベルでの協調はありうるとの立場を示している。
今回のイスラエルからのオファー
今回、話し合いの結果、ガンツ防衛相がパレスチナ側に提示した内容は以下の通りである。*具体的な数字はメディアによって若干違っている
1)5億シェケル(約190億円)の借款
2)ステータスのないパレスチナ人にIDを提供
西岸地区とガザ地区のパレスチナ人で正式なIDがない人や、正式な許可なく住んでいる外国人(主にはパレスチナ人と結婚して地域に住んでいる人)9500人に法的なID書類を出す。これについては、夏にも行われているが、実現には時間がかかっている場合がある。また、ステータスが、ガザ在住から西岸地区在住になった人もいたとのこと。
3)様々な分野でイスラエルに入国するビザを提供
①人道的な理解からのイスラエルへの入国ビザ、②パレスチナ高官にはVIPとして、イスラエルへの出入りができるビザ、③新たに1100人のビジネス関係者に、イスラエルへの経済パスを発行する。
また、経済的な支援のために、西岸地区からヨルダンへ物資を搬送の際に課される諸費を軽減するなどの経済的な申し出も行ったとのこと。
www.timesofisrael.com/after-gantz-abbas-meeting-israel-to-loan-nis-100-million-to-pa/
今回は、冷え切っているパレスチナ自治政府との関係回復の一歩というのが大きな目標だったと思われる。会談に始めに、ガンツ防衛相の息子が挨拶した他、アッバス議長は土産を持参。ガンツ防衛相は土産にイスラエル産のオリーブオイルを渡したとのことであった。
パレスチナ側よりの要請:右派閣僚からは歓迎と不満も
アッバス議長は、ガンツ防衛相に対し、西岸地区における暴力は止めるとしながらも、神殿の丘に関する、「現状維持」の原則が守られない場合、暴力のエスカレートを止める自信はないとの警告していたことがわかった。
5月のガザとの戦闘の際、ハマスは、イスラエルがエルサレムの神殿の丘を取りにくるので、それを防ぐために戦うということを旗印にして人気を上げたのであった。確かに、イスラエルは、今、じわじわと、神殿の丘でユダヤ人が祈ることを容認するなどの動きに出はじめている。ハマスはこうしたイスラエルの動きを利用するだろう。
また、自治政府のアル・シーカー氏は、イスラエル人入植者のパレスチナ人への暴力に言及。政治的なバランスが必要だと述べた。イスラエル軍は、今、西岸地区でハマスの摘発を行なっており、その際には実弾を使うことも許可している。そうした状況を緩和してほしいとの要請も出したとのこと。
こうしたパレスチナ人の反応は、ベネット政権の、一部の右派閣僚たちにとっては穏やかに受け取れるものではない。右派で知られるエルキン住宅庁は、「イスラエル市民を殺し、イスラエル兵を刑務所に送る者に給料を払っているような人物を、自宅に招くなどありえない。」と述べた。
またエルキン住宅相は、イスラエルが毎月自治政府に支払っている諸費用はテロリストに支払われていると指摘した。これに対し、ガンツ防衛相は、「これは和平交渉ではない。エルキン氏もそれはよくわかっているはずだ。」と返した。
ガンツ防衛相の動きについては、多数の閣僚、また、ヘルツォグ大統領からも、パレスチナ人との関係改善にむけての動きであると歓迎のコメントが出されている。また、在イスラエルのアメリカ大使である、トム・ニデス氏もこれを高く評価するとのコメントを出した。
石のひとりごと
パレスチナ人のテロと入植地のユダヤ人たちとの憎しみと暴力がエスカレートする中、政府のこうした動きは、パレスチナ人たちの憎しみで燃え上がっている頭に水をかけることになるだろうか。
これまでの流れからすると、そんなに甘くはないだろう。。と思ってしまう。しかし、一方で、これだけのことをしようとしている中で、ハマスが攻撃する口実は、減らせるかもしれない。ハマスは、すでに、この会談を非難する声明を出している。
しかし、エルキン住宅相が言うように、パレスチナ自治政府は、長年多くのイスラエル人の血を流してきた敵である。ガンツ防衛相も元イスラエル軍参謀総長として、そんなことは、言われなくてもよくわかっているはずだ。
それがその敵の首領を、自宅に招いた上に、息子を紹介したという。なんとも、戦国武将を思い出すような光景である。その器の大きさがこれからの関係を変えていくことのなればと思う。
それにしても、テロと暴力が頻発し、ベネット首相が和平交渉はしないと断言する中で、ガンツ防衛相が実務的な協力をすすめるとは、今までになかったやり方である。
和平交渉ありきではなく、まず、実質的に協力した方がよいという結果がパレスチナ人にも明らかになってきたら、その時初めて、和平交渉も可能になるかもしれない。
しかし・・・これは想像に過ぎないが、イスラエルとパレスチナの間に本当によい協力関係ができれば、将来的に西岸地区もイスラエルが支配するところとなり、パレスチナ人もイスラエル市民になるということも可能になってくることもあるだろうか。。?いわゆる1国2民族の考え方である。
しかし、その場合は、イスラエルはユダヤ人の国とて方的にも定義づけなければならないが、それはすでに終わっているところである。・・・想像はどんどん進むが、そこは、何十手も先を読んでいるイスラエルである。どこまで読んで今の動きに出ているかは素人にはわからない。
いずれにしても、今のイスラエルと自治政府の試みが、真に良い実を結んでいくように。これを破壊してしまうようなテロ事件や、極右ユダヤ人グループによる暴力など突発的な衝突が発生しないようにと祈る。