ガザと停戦で静けさ戻る:その結果の本質は?2023.5.15

治安情勢を検討するネタニヤフ首相 GPO

イスラム聖戦と停戦:13日22時から平穏入り

イスラエルとイスラム聖戦は、エジプトの仲介で、13日22時に停戦に入ることで合意となった。

今回も、停戦発動時間の約15分前に、ガザから、イスラエル中部、テルアビブに近いリションレチオン、とホロンに向けて、ロケット弾が発射された。イスラエル側に被害はなかったが、イスラエルは、イスラム聖戦ロケット弾2基を破壊する反撃を実施した。

この時、イスラエルのNSC(National Security Council国家治安議会)ツァヒ・ハネグビ議長は、ガザに対し「静けさには静けさが原則だ。(攻撃してくれば反撃。何もしなければ、こちらも何もしないということ)」と投げかけた。

それから、8時間以上たった14日朝(日本時間14日午後)も、ガザからの攻撃はなく、平穏が続いていたことから、ネタニヤフ首相は、停戦が維持できている判断し、仲介者のエジプトに感謝を表明した。

またイスラム聖戦も、「イスラエルにこれ以上の暗殺を諦めさせた」との“勝利宣言”を出し、エジプトに仲介を感謝したことから、とりあえずの停戦にはいたったものと思われる。しかし、イスラエルとイスラム聖戦の間に合意に至ったというような取り決めはなかったらしく、ともかく静けさが戻ったというだけのことのようである。

それでも、5日間の戦闘は終焉を迎えたとして、イスラエルは、14日午後には、ガザとの国境移動を再開。ガザへの物資搬入や、労働者の出入りが再開された。(写真:Mayan Lazarovich, MOD Spokesperson’s Office)

ガザから40キロ圏内住民も段階的に帰宅が許され、子供たちの学校への登校や屋外コンサート(テルアビブで4万人コンサートの後、禁止となった)も再開となった。

イスラエルメディアの転換は早い。その報道から1日経った今日はもはや、ガザとの戦闘のニュースはほどんと消え去っている。。

イスラエル側の成果と被害

①イスラム聖戦トップ指導者3人暗殺

今回の5日間続いた戦闘は、イスラエル軍が、ガザのイスラム聖戦に奇襲をかけ、わずか20秒の公的で、3人のトップ指導者を暗殺したことから、始まった。さらなるピンポイント攻撃により、さらに3人を暗殺し、計6人の指導者を暗殺した。死亡した戦闘員も含めると、イスラム聖戦は18人を失った。

②イスラム聖戦のロケット弾50%消費

また反撃攻撃の繰り返しで、イスラエルが破壊したイスラム聖戦の拠点(ロケット発射地点含む)は371箇所に上った。もの5日間にイスラム聖戦は、1234発ものロケット弾(所有の50%との予想)を消費した。

5日間の戦闘で、ガザから発射されたロケット弾は合計1234発だった。このうち、221発は、イスラエルに届かず、ガザ領内に落下。イスラエルに到達した976発のうち、危険と判断された373発が迎撃ミサイルが、成功率91%で撃墜。それ以外は、ほとんどが空き地などに落下した。

③戦闘中犠牲は死者2人(1人はガザのパレスチナ人):迎撃ミサイル迎撃率91%

直撃を受けたサラさん夫妻のアパート

イスラエル側の被害は、迎撃し損ねたロケット弾により、レホボトでイスラエル人女性(80)インガ・アブラミヤンさんが1人死亡した。事故での負傷で、大きな損傷を負って車椅子状態の夫の介護をしていた女性だった。

サイレンで逃げようとして夫の準備をしていたときに、部屋が直撃を受け、壁が崩れて、インガさんが死亡したのであった。夫は無事だが、これから妻なしにどう生きるのかという状態になっている。写真は、みごとに夫妻の部屋だけが直撃を受けた様子。

イスラエル人の負傷者は、少なくとも69人で、27人が、ロケット弾の破片など、直接の被害で負傷していた。このうち1人が重傷で、4人が中等度とされている。あとは、逃げる際に転ぶなどしての負傷であった。

なお、イスラエル側では、死者がもう1人あったが、なんと、ガザからイスラエルのショケダの農場に働きに来ていたパレスチナ人のアブダラ・アブ・ジャバ(34)さんであった。(事項に詳細)イスラエル政府は、イスラエルの国民保険教会から、ジャバさんの家族に保険金を支払うことを決めている。

④サイレン妨害を試みるサイバー攻撃を阻止

もう一点、Times of Israelによると、この5日間の戦闘に先立つ5月初頭、アノニマス・スーダンとよばれるグループと、アサ・ムーサと呼ばれるハッカー集団が、イスラエル国内で、市民に流されるサイレンや、迎撃ミサイルの発射を妨害、混乱させる攻撃をおこなっていた。その動きから背後にイランが関わっていたとみられている。

イスラエルはこれらのほとんどを防御していたとのこと。

www.timesofisrael.com/slapdash-attempt-to-hack-rocket-sirens-may-be-cause-for-serious-alarm-about-iran/

全体的にみれば、先制攻撃をしたイスラエルは、最小限の被害で、イスラム聖戦に大打撃を与えたとみられている。

⑤ハマスが参入しなかった

また、今回、イスラエルにとっての大きな成果は、ハマスがついに出てこなかったという点だと言われている。一致しようとしていたパレスチナ組織の間の不審、不一致。さらには、ガザ市民の間でも、「ハマスは何をしているのだ」と言った不満の声も上がっており、ハマスのこれからの求心力も注目される。

しかし、トップ指導者3人が失われたにもかかわらず、5日間も戦闘が続いた背景には、イスラム聖戦がレバノンから指示を受けていたとの情報もあり、逆に危機感を示唆する分析もある。いずれにしても、今の停戦は、永続するものではなく、イスラエル軍はすでに次の戦闘に備えているとの情報もある。

石のひとりごと

今回9日の戦闘の直前の7日から21日まで、世界中のクリスチャン1億人とも見られる人々がイスラエルのために祈りはじめたと伝えられていた。

イスラエルの国自体が、イスラム聖戦よりはるかに強いのではあるが、その人々の祈りもまた用いられていると実感させられた5日間であった。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。