2週間で子供2人含む10人がテロの犠牲:強硬右派政権の報復は? 2023.2.13

Amos Ben-Gershom (GPO)

イスラエルでは、わずか2週間の間に、エルサレムで、シナゴーグが襲われて7人が死亡。その後、ラモットのバス停で、幼い子供2人含む3人が、車突っ込みテロで死亡。10人の市民が、パレスチナ人に殺害されたことになる。

今年に入ってからだけで32人の市民が、国内のテロで死亡している。史上最強に右翼と言われるネタニヤフ政権が、過激な報復措置に出始めており、アメリカからも懸念が出るほどになっている。

1)西岸地区違法入植地9ヶ所を合法化へ

Amos Ben-Gershom (GPO)

東エルサレムでは、テロリストの実家が封鎖され、西岸地区では、治安部隊が密輸武器やテロリストの捜索を継続している。その中で、もはやいちいち上げられないほどに、死亡するパレスチナ人が出ている。しかし、要注意は、過激なユダヤ人たちもであった。

こうした中、ラモットのテロ事件の翌日、西岸地区のパレスチナ人地区カラワット・バニ・ハサン近くで、覆面をした一団とパレスチナ人たちが衝突となり、パレスチナ人のミスカル・アブド・アル・ライヤン(27)さんが頭を撃たれて死亡した。

覆面の集団は、近くの違法なユダヤ人入植地、ハヴァット・ヤイールから出て来た過激ユダヤ人の一団であった。入植者側は、ユダヤ人25人がハイキングに行ったところ、パレスチナ人に襲われたので反撃したと言っている。

www.timesofisrael.com/palestinian-man-shot-dead-by-settlers-in-west-bank/

西岸地区前哨地の一つギブアット・ハレルMateh Binyamin Regional Council

この翌日の12日、ネタニヤフ政権は、閣議において、西岸地区の違法な前哨地とされる9ヶ所を、違法から合法入植地とすることで合意したわけである。

現時点では、最高裁が、これを拒否するみられ、実際にこれが実施されるまでには、何ヶ月かはかかるということであるが、しかし、明日から始まる審議で、いわゆるオーバーライド法案(司法が行政のすることを制止できなくなる司法改革案)が成立すると、この動きもとめられなくなり、すぐにも実施される可能性が出てくる。

もし実際に、実施になった場合、前哨地9ヶ所の土地と共に、今は違法とされているユダヤ人1万人が、西岸地区のユダヤ人入植地の住民として正式に加わることになる。

西岸地区担当に宗教シオニスト政党のスモトリッチ氏を任命したことで、イスラエルがいよいよ、西岸地区の併合へ動き出すのではとの懸念が広がっていたが、テロ事件を受けて、堂々と今その方向へ動き出したとも言われている。

パレスチナ自治政府のシャテーヤ首相は、これに激しく反発し、国連とアメリカに対し、このイスラエル政府の動きは、アメリカも反対すると明言している、イスラエル単独行為になるとして、仲介を求めると述べた。これに対し、バイデン政権も、入植地の拡大はアメリカも反対していると述べている。

www.timesofisrael.com/cabinet-okays-legalization-of-9-west-bank-outposts-in-response-to-jerusalem-attacks/

2)東エルサレムでの「防衛の盾作戦No2」が治安閣議へ

ベン・グビル氏 ウィキ

ラモットのバス停で、極右派のベン・グビル国内治安相が、イスラエルが2002年にテロの波に対して行った強硬な対パレスチナ作戦を、再び行うと語って、ひんしゅくを買った。その後、ベン・グビル氏は、その案を国会の論議の場でも出して、物議を呼んでいる。

実際のところ、東エルサレムは、国際的にイスラエルの領土として完全に認められた場所ではなく、東エルサレムのパレスチナ人は、イスラエル市民でもヨルダン市民でもなく、エルサレム住民という微妙なステータスに立っている人が多い。したがって、そこへ乗り込んでいって、逮捕といった活動をすることには、まず法的な壁があるという。

そういうわけで、東エルサレムは、ベン・グビル氏の管轄である警察(国境警備隊)の管轄ではあるが、イスラエル軍が活動できる場ではない。そこでイスラエル軍が出動するという流れの「防衛の盾作戦」を行うことは、基本的な無理もあるとのこと。

シャブタイ警察庁長官は、この作戦には反対を表明しているだけでなく、「ベングビール氏は、まったくこのポジションにふさわしい人材ではない。」とまで述べている。

こうしたチグハグな中で、危険な言動や、強硬な動きをしている、ベン・グビル氏が、ネタニヤフ政権の大きな落とし穴になるのではないかと見る分析家もいる。

www.jpost.com/israel-news/politics-and-diplomacy/article-731303

*ハマスとの応酬
11日夜、ガザから、イスラエル南部にむかってロケット弾が1発発射された。迎撃ミサイルのアイアンドームが撃墜して、イスラエルには被害はなかった。

これに対し、イスラエル軍は、ガザ地区のハマス軍用拠点への空爆を実施。その後、4発のロケット弾が、イスラエル南部に向けて発射され、サイレンが鳴った。3発へ迎撃。1発は野原に落ちて、イスラエルに被害はなかった。

www.timesofisrael.com/israeli-jets-hit-underground-hamas-facility-in-central-gaza-says-idf/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。