エジプト・北シナイ半島テロで305人死亡 2017.11.26

エジプト・シナイ半島北部ビル・アル・アベッドのモスクで、爆弾ならびに銃撃によるテロがあり、子供27人を含む305人が死亡。128人が負傷した。エジプト近代史上最悪のテロとなった。

エジプトの調べによると、犯行グループは25-30人。モスクの入り口と12の窓から、マシンガンで中にいた500人ほどの礼拝者たちに向かって乱射した。手榴弾も投げこんだ。

BBCによると、銃撃は30分に及び、かけつけた救急車にまで銃撃をあびせていたという。モスク外に駐車中の車両も複数爆破された。

エジプト軍はただちにドローンを使って逃走する2台の車を追跡し爆破、事件に関係していたとみられる15人が死亡した。エジプト軍は、今もシナイ半島で、イスラム武装勢力の追跡を行っている。

まだ犯行声明は出ていないが、犯行グループがISISの旗を掲げていたという証言が出ている。シナイ半島北部では、先月にも、エジプト軍兵士6人が死亡するテロ事件が発生。9月には18人が死亡するテロが発生している。いずれもISISが犯行声明を出していた。

エジプトのシシ大統領は、緊急治安会議を開き、犯人を徹底的に裁くとの声明を出し、国民には3日間の喪に服すようにと語った。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5047723,00.html

<まだまだ健在か:シナイ半島のISIS>

今回、犠牲になった人々の多くは、地元サワルカ部族に属する人々で、ISISには協力しないと表明していたという。またスーフィ派と呼ばれるイスラム教の一派で、聖人を拝む習慣があるため、イスラム過激派には偶像礼拝者とみられていた。

エジプトではコプト教キリスト教会が標的となってきたが、同じイスラム教徒のモスクでこれほどの被害が出たのは初めてで、エジプト人には大きな衝撃となっている。

シリア・イラクでは、ISISが勢力を失いつつあり、イラン、ロシア、トルコが、ISISに対する勝利は近いとの見解を述べているが(以下の記事)、ISISは、撃退されたのではなく、シリア・イラクの外では十分健在だということを誇示したのかもしれない。

<エジプトとイスラエルへの影響>

シナイ半島は、ISISとイスラム同胞団の巣窟となっており、エジプト軍が、兵士や警察官に多くの犠牲者を出しながら、これらと戦ってきた。しかし、その戦闘が十分ではなかったということである。

また今回のテロでは、銃撃が始まってからエジプト軍や警察が来るまでにだいぶ時間がかかっていたことから、今後、シシ大統領に批判が出てくる可能性もある。

また、ガザのハマスは、イスラム同胞団傘下の組織で、ISISに協力していることは、エジプトもイスラエルも把握している情報である。

エジプトは、ガザとの国境の管理権をハマスからパレスチナ自治政府に移譲させたところで、モスクでのテロがあった翌日から3日間、ガザとの国境を解放する予定だったが、エジプトはこれを延期した。

www.haaretz.com/middle-east-news/egypt/1.824854

シナイ半島のISISには、現エジプト政権が弾圧するムスリム同胞団が協力している。ムスリム同胞団の傘下にあるガザのハマスは、武器搬入などISISに協力している。ISISとムスリム同胞団、ハマスは、イスラエル打倒という目標では一致しているのである。

元イスラエル軍司令官のヨム・トーブ・サミア氏は、「ISISの最終目標はイスラエルの破滅である。エジプトはその前段階にすぎない。イスラエルは今後も、エジプトと緊密に協力し、最大限の警戒を続ける必要がある。」と警告している。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5047576,00.html

イスラエルでは、テルアビブ市が、支庁庁舎にエジプトの旗を投影し、哀悼を表明した。

www.jpost.com/Israel-News/Tel-Aviv-City-Hall-lights-up-in-solidarity-with-Egypt-515134

<エジプトの故サダト大統領:電撃エルサレム訪問から40年>

1977年11月19日、エジプトのアンワル・サダト大統領が、アラブ諸国では初めてイスラエルを訪問。エルサレムの国会で演説し、イスラエルと和平条約を結んだ。この歴史的な事件から今年40年である。

サダト大統領は、エルサレムの国会で、「私は平和を確立し、新しい時代を築くために来ました。私たちは皆、この地上にいます。神の地です。私たちは皆、イスラム教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒は皆、ただ神をほめたたえるのです。」と語った。

この後、イスラエルとエジプトは和平条約を締結するのだが、この時イスラエルは、シナイ半島にいたユダヤ人コミュニティをすべて撤退させ、シナイ半島をエジプトに返還したのであった。

シナイ半島の現状を見ると、この時の返還がよかったのか悪かったのかは不明だが、この和平条約があったからこそ、これまでイスラエルとエジプトは互いの敵意を心配せず、内政を充実することができた。

しかし、その後の1981年10月、サダト大統領は、イスラム過激派に暗殺されてしまった。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5047042,00.html

今、エジプトのシシ大統領は、イスラム過激派との戦いを展開し、イスラエルともよい防衛において、よい協力関係を維持している。先日は、アメリカの福音派代表団も迎えたばかり。今、非常に難しい立場に立たされているシシ大統領のためにとりなす必要がありそうである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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