アロー迎撃ミサイル初始動:対シリア 2017.3.18

木曜深夜、ヒズボラへの武器移送の情報に基づき、イスラエルの空軍機がシリア領内(北部)のヒズボラ武器関連とみられる施設への空爆を行った。その後、帰還体制に入った空軍機に対し、シリア軍が、地対空ミサイル(S200)を複数発発射。

空軍機を追って、シリアのミサイルが、イスラエル領内に向けて発射されたため、イスラエルのアロー迎撃ミサイル・システムが反応し、一発を空中で撃墜。残骸はヨルダン領内に落下した。

イスラエルではヨルダン渓谷住民に対し警報がなったが、幸い、ヨルダンにもイスラエルにも市民に被害はなかった。

シリア政府は、当初イスラエルの戦闘機を撃墜したと主張した。イスラエル軍はこれを否定。戦闘機は無事イスラエルに帰還したと発表した。

今回、シリアが高度な地対空ミサイルS200を使用するのは初めてだったが、イスラエルのアロー迎撃ミサイルが実戦で発動するのもはじめてであった。シリアはこの上にS300、S400とさらに高度な迎撃ミサイルを持っている。

この一連の事件を受けて、ネタニヤフ首相は、「イスラエルは、これまでからもこうした防衛のための作戦を行ってきたが、これからも方針は変わらない。」とのコメントを発表した。イスラエルが、シリア領内での攻撃を公式に認めるのは極めて異例である。

イスラエルのコメントを受けて、シリア政府は、国連に対し、「イスラエルが領空に入って国際法に違反した。イスラエルは1967年6月4日以前の国境線にまで撤退するべきだ(ゴラン高原から撤退せよという意味)。このISISを支援するシオニストのテロ支援国家をとりしまってほしい。」と訴えた。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/226872

*アロー迎撃ミサイルシステム

アロー迎撃ミサイルは、イスラエルが開発した高度な迎撃ミサイルで、音速以上のスピードで飛ぶ弾道ミサイルがまだ大気圏外にあるうちに撃退する能力を持つ。

エルサレムポストによると、今回、アローシステムが、シリアの地対空ミサイルを撃墜した時の音がモディーンや、エルサレムで聞こえたと伝えている。

www.jpost.com/Breaking-News/Report-Red-alert-siren-heard-in-Jordan-Valley-484452

www.jewishvirtuallibrary.org/arrow-missile-program

<シリアの背後にいるロシアの反応>

今回の事件を受け、シリア内戦に介入し、シリア政府を支援するロシアは、在ロシア・イスラエル大使を召喚し、事情聴取を行っている。

これに先立つ3月9日、ネタニヤフ首相は、日帰りで、モスクワのプーチン大統領を訪問。地中海に海軍の拠点を建築しようとしているなど、イランがシリア領内で存在感を拡大していることについて警告していた。

この時に、今回のようなイランからヒズボラへの武器供与移送をイスラエルが見逃すわけにはいかないといったことなども話し合われたと見られる。

イランは最近、アメリカとの関係が緊張する中、弾道ミサイルの発射実験を行うなど、イスラエルにとって、脅威となる動きが続く。

イスラエルは、ロシアに対し、「イスラエルを崩壊させると公言し続けるイランが、イスラエルと直接国境を接するシリアに進出してくることは受け入れられることではない。」と訴えている。

www.jpost.com/Israel-News/Politics-And-Diplomacy/Netanyahu-in-Moscow-leverages-Putin-Purim-greeting-to-slam-Iran-483736

なお、今回の事件について、ロシアはシリアがS200を使用することを知らなかったのではないか。両国の関係がそれほど密ではないのではないかという見方がある。

一方で、ロシアの支援で、シリアの気が大きくなり、今回、一段階上の武器S200を使うに至ったのではないかと、両極端の分析がある。

いずれにしても北部情勢の悪化は非常に危険なので、油断せずとりなしが必要。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

コメントを残す

*