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バイデン政権が初の軍事行動
2月25日夜、ユダヤ人たちが、プリムでエステル記を朗読しようとするころ、アメリカ軍が、シリアの親イラン(ペルシャ)武装組織への軍事攻撃を決行した。バイデン大統領就任後初の軍事行動である。
イラクでは、2月8日、バグダッドのアメリカ大使館をねらったとみられるロケット攻撃が発生。この時は人的被害はなかったが、その1週間後の2月15日、イラク北部、クルド自治区のアルビルに駐留する米軍の近くにロケット弾が打ち込まれた。この時、イラク民間人一人が死亡。米兵1人を含む9人が負傷した。
この後、シーア派武装組織「血の親衛隊」と名乗る親イラン武装組織が、犯行声明を出したことから、一連の攻撃は、昨年1月に、トランプ前大統領の指令で、イラン革命軍のスレイマニ総司令官を暗殺したことへのイランからの報復であったと考えられている。
このためか、これらの攻撃は、バイデン大統領が就任前に発生したのであったが、これにバイデン大統領がどう対応するのかが、注目されていたのであった。
www.timesofisrael.com/us-airstrike-said-to-target-iran-backed-fighters-in-syria/
強気のイラン:ウラン濃縮60%も可能と豪語
イランに敵対的であったトランプ前大統領と違い、バイデン大統領は、イランとの核合意に戻ることを示唆して、交渉再開を促すために、イランへのいくつかの小さい好意を表すような緩和措置を実施した。
ところが、イランは、「まず、アメリカが先に、経済制裁を解除するなら、合意に向けた交渉に応じてもよい。」と強気に出ていたのであった。さらに、イラン・イスラム最高指導者のハメネイ師は、22日、「イランは、ウランの濃縮を60%にまで上げるかもしれない。アメリカの圧力になど屈しない。」と豪語した。(核兵器に必要なウランは90%)
こうした中での今回の攻撃であった。この攻撃により、バイデン政権は、決して弱気のポリコレ政府ではなく、必要なら、軍事行動も辞さないとのメッセージであったといえる。
一方で、アメリカ国防省は、この攻撃について、2月中に発生した攻撃への報復だとしながらも、イランとの核合意に関する交渉から逸脱するものではないとも言っている。今は、次に、イランがどう出てくるのかが注目されている。
www.timesofisrael.com/us-airstrike-said-to-target-iran-backed-fighters-in-syria/
イランの背後にいる中国とロシア
経済制裁に疲弊しているはずのイランがこれほど強気に出るのは、背景に中国とロシアの支援があるからである。
2月17−18日、イランと中国、ロシアに今年はインドも加わって、北部インド洋で、海軍の合同海上治安訓練を実施した。この3国の軍事訓練は今に始まったことではなく、2019年にも実施されていた。したがって、今回の親イラン勢力への攻撃は、イランだけにとどまらず、中国やロシアに対しても、アメリカの今後の姿勢を示すメッセージになったとみられる。
近年、中国、ロシアの世界への進出は、あらたな世界秩序作りを目指しているかのごとくに急進的で、バイデン大統領は、特に中国について、強い危機感を表明している。
25日には、半導体(IT関連で必要)、高容量電池(電気自動車に必要)、医薬品、重要鉱物の4品目において、中国に依存しないようにするため、友好国との連携を進めるとともに、供給網における問題点と具体策を出すよう、大統領令を出した。
ネタニヤフ首相の見解:交渉に頼らない方がよい
イスラエルは、近年シリア領内のイラン関連の組織や拠点を攻撃してきた。今回、アメリカが、同様の動きに出たということである。シリアには、多くの親イラン組織や軍事拠点があるということが、別の視点からも証明されたことになる。
今回、アメリカがシリアの親イラン組織を攻撃したことについて、ネタニヤフ首相は、「交渉で話がまとまるものではない。我々はもう経験ずみだ。」と述べた。交渉して、約束をしたからといって、それをイランが紳士的に守ると考えるのは甘い。交渉をしつつも、実質を見極め、釘を刺しつつ、必要に応じて、実際に力で動くことも必要だということである。
ネタニヤフ首相は、イスラエルのサバイバルを守る首相として、自分は、どの国にも、どんな約束事にも依存することはない。最終的に依存できるのは、自分たちだけなのだと述べた。アメリカがどう出ようが、何をしようが、イスラエルは、サバイバルのためには、最終的には、自分たちの判断で、いかなる方策も取るとの考えを述べた。
www.timesofisrael.com/netanyahu-on-bidens-iran-strategy-its-a-mistake-to-rely-solely-on-deals/
実際、イスラエルは、先週、北部国境で、レバノンの3000箇所を24時間以内に攻撃する場合に備えた、大規模な空軍のサプライズ訓練を実施した。ヒズボラ(親イラン・シーア派武装組織)に対し、イスラエルに何かしようものなら、こうなるという、明白なメッセージであった。
*プリムの夜に
イスラエルでは、ちょうどプリムの夜に、アメリカが、親イラン組織を攻撃した。プリムは、紀元前6世紀に、捕囚となってペルシャに連れてこられていたユダヤ民族の娘エステルが、ギリシャの王妃となり、虐殺の危機にあるユダヤ人たちを逆転、勝利に導くという話である。
現在のペルシャであるイランは、イスラエルを地図上から亡き者にすると公言してはばからない国である。その国が、核兵器保有寸前であるという状況からも、プリムにおいて、神にイランからの勝利を祈る、というのが、近年のプリムになっている。最終的に、イスラエルを守るのは、イスラエルの神だけである。