ヒズボラは危機にあるか?:25日レバノン国境でヒズボラと衝突の件から 2020.8.28

北部国境のイスラエル軍 スクリーンキャプチャ

ヒズボラからイスラエルへの攻撃

25日夜、レバノン国境で、イスラエル軍が照明弾を放って警戒をした件が明らかになってきた。この日の午後10:40、ヒズボラ(イラン傀儡武装組織)戦闘員が、レバノン国境に面するマナラに駐屯していたイスラエル軍戦闘部隊に対し、わずか200−300メートルという至近距離から2発発砲してきた。幸い的を外して、イスラエル軍に被害はなかった。

しかし、ヒズボラがイスラエル領内に侵入してくる可能性があったため、照明弾を打ち上げて付近を捜査した。同時にイスラエル軍は、国境に近い、レバノン領内のヒズボラ拠点への空爆も行った。

イスラエル側に人的被害が出ていなので、空爆も最小限であったとのことである。しかし、イスラエル軍がレバノン領内への空爆を行うのは2006年のレバノン戦争以来であった。

この件について、ヒズボラからのコメントはない。しかし、先月シリアでヒズボラ関係者が死亡したことへの報復予告に加え、25日は、ヒズボラのメディアセンターをイスラエルのドローンが破壊してから、ちょうど1年であった

出展:wikimwdia

ので、ヒズボラとしては、イスラエルへの何らかの敵対行為をアピールしたとも考えられる。

ヒズボラは、これまでに何度か国境を超えた攻撃を行ってはイスラエル軍に阻止されている。最近では7月末に4人がイスラエルへ侵入を試みて、イスラエルに阻止された。今回もそうした試みの一つと思われ、コロナや様々な困難がある中でも、ヒズボラの敵意、またその背後にいるイランの執念も、相変わらずのようである。

www.ynetnews.com/article/H1E3lgHXP

UNIFIL監視下?での攻撃

イスラエルとレバノンの間には、1978年以来、ブルーラインという国境に変わるラインが引かれ、イスラエルとレバノンの間を監視する国連組織、UNIFIL(国連レバノン暫定駐留軍)が駐留している。

今回、ヒズボラは、「国境なきブルーライン」とよばれる国境にそった非武装地帯から、イスラエルに向かって攻撃していた。この地域は、本来、国連の監視団UNIFILが管理しているはずのエリアである。

www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/851/

しかし、近年、ブルーラインのエリアに、ヒズボラが入り込んで、拠点を置くか、そこからイスラエル領内に向かう地下トンネルを掘ったりしている。UNIILはいったい何を見張っているのかというのがイスラエルの主張である。26日、イスラエルは国連に対し、状況を説明するとともに、UNIFILの活動を強化するよう要請を出した。UNIFILは調査すると言っている。

www.timesofisrael.com/un-peacekeepers-investigating-flareup-on-israel-lebanon-border/

イスラエルは、ヒズボラに対し、まだこういうことが続くなら、厳しい反撃を行うと釘をさしているが、実際には、ベイルート大爆発の直後でもあり、レバノンとの大規模な衝突は避けたいと考えている。

最近の動向によると、ヒズボラは今、国民から非難される立場にあるとみられるので、イスラエルとしては、レバノン内部からヒズボラを排斥する流れになることが望ましいと考えている。その可能性は極めて未知ではあるのだが・・・。

ヒズボラは、国内でどのぐらいヤバイのか

ヒズボラ旗
出展:wikipedia

2005年2月、当時のハリリ首相が、ベイルートで大量の爆弾で暗殺された。故ハリリ首相は、ビジネスマン上がりで、私財を投じてレバノンの国のために働いたことから、国民には人気のある首相であった。その故ハリリ首相は、スンニ派イスラムで、サウジアラビア寄りの人物。シーア派のヒズボラやイランと対立していた。

ハリリ首相の暗殺により、レバノン市民は、ヒズボラとその背後のイランへの疑いの目とともに、怒りを爆発させ、当時イランの配下でレバノンに駐留していたシリア軍を撤退に追い込んだのであった。

www.nikkei.com/article/DGXMZO62775840Y0A810C2910M00/

しかし、その後ヒズボラは、イランの資金力で、イスラエルとの戦争後、市民への支援を大々的に行うなどして、レバノン政界に大きな足がかりを持つようになった。

この間に、イスラエルに向けた15万発とも言われるミサイルを準備するとともに、人々の貧しさにつけこんで、イスラエルとの国境にある人家に武器を潜ませるという、今の形が出来上がったのである。

しかし、ハリリ首相の暗殺から15年、今年8月18日、ハーグの国際法廷は、正式にヒズボラのサリム・アイヤシュ被告を、政治的背景による殺人罪との判決を出した。なお、アイヤシュ含む4人だが、4人はまだ逮捕されていない。ヒズボラはこの容疑については否定した。

レバノン市民は、イスラエルとの大きな戦争のたびに、ヒズボラ(イラン)の資金を受けて立ち上がってきた経過がある。ヒズボラに恩義や仮りもある上、イスラエルへの憎しみもたたきこまれている。

しかし、ヒズボラが大きな権力を持つようになってからのレバノンの経済は悪化をたどり、崩壊状態にまでなっていたところへ、ベイルートでの大爆発である。これを受けて、市民たちの大きな反政府デモが発生し、今月11日、ディアブ内閣は総辞職。レバノンは今政府なし状態である。

次にヒズボラが出てくるのか、故ハリリ首相の息子で前サイード・ハリリ首相がまた登場してくるかもしれないという状況にある。

しかし、ヒズボラと癒着する今月4日の大爆発の原因になった硝酸アンモニウムが、ヒズボラに関与していた疑惑が濃いことからも、ヒズボラへの国民の目は冷たくなり始めているといえる。

イスラエルとしては、ここでイスラエルがレバノンに攻撃をしかけて、ヒズボラ人気を上げたくない・・といったところだろうか。これからも北部国境で、特にイスラエル側に大きな戦争にならざるをえないような人的被害が出ないよう、とりなしが必要である。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。