ペタフ・ティクバでナイフによるテロ:39歳ラビ死亡 2020.8.28

ラビがテロの犠牲に

26日午後、白昼堂々、テルアビブに近いペタフティクバの路上で、ラビのシャイ・オハヨンさん(39)が、パレスチナ人にナイフで刺されて死亡した。

目撃者によると、オハヨンさんは、大きな肉切用のようなナイフで6回は、さされて倒れたという。目撃者らは車を降りたがすぐに戻って、車で犯人を追い詰め、犯人は、駆けつけた警官らにその場で逮捕された。

救急隊が駆けつけて、延命処置を行ったが、ラビ・オハヨンその場で死亡が確認された。

オハヨンさんは、妻と4人の子供(13歳、11歳、9歳、4歳)の父。働いて家族を養いながら、ラビの働きをしていた人だった。周囲の人々は彼のメッセージを楽しみにし、非常に敬愛されていた人だったという。殺害された直後、ペタフ・ティクバ市ラビになる試験に合格していたことがわかった。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/286035

葬儀は、翌日行われた。200人が参列しようとしたが、コロナ感染予防のため、40人だけが参列を許可された。有望なラビであっただけに、家族親族だけでなく、人々の間にまだ信じられない思いだという。

www.timesofisrael.com/stabbing-victim-rabbi-shai-ohayon-laid-to-rest-he-was-humble-kind-and-quiet/

 

イスラエル軍:ナブルス近郊容疑者宅を破壊

容疑者は、ナブルス出身のパレスチナ人、カリル・アブデル・ドウェイカット(46)で、イスラエルから正式な労働許可を得て、この地域で働いていた。カリルもまた6人の父親である。

イスラエル国内での正式な労働許可を持ち、養う家族を持つ中年のパレスチナ人がこうした犯行に及ぶことは珍しいことから、カリルになんらかのメンタルの問題があった可能性もあるという。イスラエル治安部隊は、翌日には、カリルの自宅を破壊した。

石のひとりごと:なぜ人は苦しみに遭うのか

なぜよりにもよって、人々に愛されたラビ、有望で、しかもまだ若い。子供達も小さいのに、なぜ今、こんなことになり、世を去っていくことになったのか。神はなぜこれを止めなかったのか。これは非常に難しい問いである。

ユダヤ人にとって、苦難は決して、珍しいことではない。いつテロに遭うかもわからない生活を続けているイスラエル人は、自分がテロにあった時、「ああ、私の番が来た。」というと言っていた。歴史を振り返れば、ユダヤ人が、その神を信じ続けるということは、決して愛一色では語れないものがある。

アメリカのアレフベータというネットでの聖書教育を行っているラビ・フォールマンは、イザヤ書45:7、また、創世記1章から、神は、光を生み出し、闇を創造し、両方を含む形で”光”とし、それが良かったと言われたというところから説明を試みている。聖書には、神が闇や災いを創造されたとしっかり書かれているのである。

これをどう受け取るのか。単純に、たとえば、苦しみがあるからこそ、楽しみもあるという人もある。逆に言えば、別れの苦しみはあるが、それでも愛する人とともに喜びはそれを上回るといわれたりもする。

朝顔は、いつ咲くか、というNHK番組があった。朝顔は暗くなってから10時間経つと咲くという生命時計を持っているのだという。闇があって、光がある。創世記1章には、光と、闇、両方があって良しとされているのである。これは、単にすべてが益になるという説明とは異なるレベルのことではないかと思う。神の視点と私たち人間の視点の違いの一つは、時間や、因果にしばられていないことだとラビ・フォールマンは解説する。

先日、神戸のシナゴーグにいったが、まさにあらゆるものがあって、あらゆる人がいて、すべてが受け入れられていて、すべてがばらばらとオーダーもなく進んでいるような、不思議な世界だった。光も闇も存在する。人間の理論やオーダーに縛られない、ヘブル文化の感じだろうか。

苦しみと常に隣り合わせであるユダヤ教では、先月、2つの神殿が破壊され、その後もユダヤ人に多くの苦しみがあったことを覚える日、ティシャベアブがあった。この日は、苦しめた者たちを恨む日ではなく、なぜこんな日が来たのかと神を恨む日でもない。

この世には、光も闇もある。私たちにすべてはわからない。人間はすべてを支配しているものではない。時間という壁も超えていない。すべてを理解しているのではない。しかし、そこに神はおられる。

だからこの日は、神の前に静まり、へりくだり、新たな歩みをしていくための日である。ただ神の前にへりくだるということで、前に進む力をもらうのである。

なぜ、人々に愛されたラビ・オハヨンが、このように取り去られたのか。そこに答えはみつけられないだろう。しかし、ユダヤ人、特に信仰のある人は、遅かれ早かれ、恨みに支配されずに、新しい歩みに向かって立ち上がっていく人が少なくないように思う。

まったく不条理に、突然愛する人を失ったオハヨンさん家族、親族、周囲の人々を覚え、支えと力、慰め、特別な神からの確信のしるしが与えられるように祈る。

また、子供達に憎しみと死を教えるパレスチナ人社会が、そこから解放されるように。父親がテロリストとして自宅を破壊されたカリル一家を覚えて祈る。

息子が従軍し、戦死したイスラエル人の母親の心の旅路を描いたアニメクリップ(ベイト・アビハイ)

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。