Gゼロ(指導者なき世界)という言葉を提唱したのは、アメリカの国政政治学者で、地政学的リスクのシンクタンク、ユーラシア・グループの創設者であるイアン・ブレマー氏である。
ユーラシア・グループは、ビジネスや様々なクライエントに、世界の動きと経済への影響など、将来のリスクをアドバイスする会社である。マイクロソフトのビル・ゲイツ氏が、調査を依頼するレベルの会社である。
ブレマー氏は、2012年にその著書「Every Nation for itself」(Gゼロ後の世界)の中で、「Gゼロ」という言葉を世界に発信している。ブレマー氏は、コロナ・パンデミックが、Gゼロの状況を一気に加速させたと語る。
世界が、国境を閉じて、それぞれ自国のことで精一杯となり、世界のリーダーシップを取れるだけの余裕のある国がなくなっているのである。その傾向は今後、ますます加速すると思われる。
アメリカがそうなりつつあるが、結局中国やロシアも同じ道をたどるとブレマー氏。ブレマー氏は、今アメリカと中国が新冷戦と言われているが、米中戦争はないとブレマー氏は考えている。特に中国は、世界の消費が落ちて経済的にも今ガス欠状態であり、少子高齢化へのスピードが早く、その保証に足をとられることになると説明する。
このブレマー氏が、Gゼロ後の世界、指導者のない世界で、だれが主導権を握るのかというと、アメリカでも中国でもない。巨大IT企業であると言っていた。これをブレマー氏は、「テクノポーラー・モーメント」と呼んでいる。
世界を動かしていくのは、もはや国や強力な権力者ではなく、データであると指摘する。結局のところ、これからは、国境をこえた情報の世界になり、政府は、民主主義でもたとえ最強の専制主義でも、これを完全にとりしまれないからである。
人々は情報により動かされる。次世代の若者は特にその傾向があり、その勢力は非常に大きい。今後、メタバース他、Apple、Googleなど世界に国境なく影響力を及ぼすメディアをどう扱うかが、これからの世界を決めていく。たとえば、来年のアメリカ大統領の中間選挙結果に影響を及ぼすのは、大統領本人ではなく、こうしたITメディアがどんな情報を出すかである。
興味深いことに、こういう世界に向かっていく中、ユーラシアグループは、日本の立ち位置が興味深いと考え、2017年から、毎年、日本を舞台に「Gゼロサミット」を開催している。
オンラインだが、日本の首脳はじめ、各国の首脳や専門家を招いて、世界の現状とともに近未来の方向性を論議する場である。今年のGゼロサミットでは、岸田首相、萩生田経済産業大臣、小池都知事もコメントを述べていた。
ただし、日本が指導的立場に立つと予測しているわけではない。日本は、今、その技術力を伸ばし、本来の能力を発揮できるチャンスの時であるというのである。ブレマー氏は危機は予測するのが仕事だが、世界を脅かすことが仕事ではなく、そこからチャンスを見出すときだと語っている。
これは石のひとりごとだが、ひょっとして、日本がデジタル化に遅れていて、紙、はんこ文化を続けることが逆に、このITの世界の中で勝てたりしてと思ったりもする。
何年か前に、イスラエルで行われた情報技術関連のカンファレンスで、ロシア人技術者が、情報を盗まれないよう、世界は紙文化に戻るのではと言っていたことを思い出したりもする。
www.yomiuri.co.jp/politics/20211207-OYT1T50166/
ブレマー氏がどういう人物なのかは、リサーチでみつけただけだが、なかなか興味深いことを解説している。その割にクリック数が少ないというのがよくわからないところ。読者もそれぞれで、判断していただければと思う。以下は、Gゼロサミットの日本語サイト。動画サイトもある。