先週、イスラエルが、イラクのイラン拠点、レバノン・ベイルートのヒズボラ拠点への攻撃を実施したとみられる件を受けて、イスラエルはヒズボラが実際に、イスラエルへの反撃してくる可能性があるとして、北部防衛体制を強化している。
イスラエル内部のニュースによると、兵士らの週末休暇をキャンセルして現地に待機させている。
www.timesofisrael.com/idf-chief-tours-tense-northern-border-as-army-braces-for-hezbollah-strike/
こうした中、イスラエル軍は、イラン革命軍とヒズボラの幹部で、イスラエルへの攻撃を担っているとする司令官ら3人の名前を公開。また、イランがヒズボラを使って、これまでどのようにイスラエル攻撃を発展させてきたかを動画にして公表した。
しかし、世界は、ホルムズ海峡危機には、自国のタンカーや燃料が関係するため、神経を逆立てているが、同時進行で進んでいるイランとイスラエルの間にある敵意や、イスラエルの危機的状況については、ほとんどスルーの状態である。
先週、イランのザリフ外相をG7に招いた議長のマクロン大統領(フランス)は、EUとともに、イランとの対話を進めようと努力している。
それは、イスラエルの友人であるはずのトランプ大統領も同じ。トランプ大統領は、先のG7にイランのザリフ外相が出席し、フランスが対話をすることを認めた上、トランプ大統領自身も、イランのロウハニ大統領との対話に前向きな姿勢を示している。
また、日本の安倍首相は、以前、イランのロウハニ大統領と会談中に、ホルムズ海峡で日本系のタンカーが攻撃を受けて、今のホルムズ海峡危機の口火になったわけだが、8月28日、横浜でザリフ外相を会談。9月に再びロウハニ大統領と会談する方向で調整することがが決まっている。
www.sankei.com/politics/news/190828/plt1908280016-n1.html
イランとアメリカ、世界との対立は、今や八方塞がりになっており、イラン国民自体も、最終的には、トランプ大統領との交渉に臨むしかないだろうとの考えが広がりつつあるという見方もある。
しかし、このまま、イランと世界が再び不徹底な形での核合意に至ることをイスラエルは恐れている。イランへの経済制裁が解除されて、再び核や弾道ミサイルを開発するようになれば、一番先に攻撃されるのはイスラエルだからである。
ネタニヤフ首相は、マクロン大統領に、「今は、まさにイランと対話する時ではない。」と申し入れたが、逆にEUから、「我々は常に対話を望むのだ。」とカツを返された。
www.timesofisrael.com/netanyahu-tells-macron-now-precisely-not-the-time-to-talk-to-iran/
このように、世界はほとんどスルーしているが、イスラエルが、警鐘を鳴らす中東でのイランの現状は以下のとおりである。
<イラン・ヒズボラとイスラエル:ドローンによる攻防>
前回もお伝えしたが、イスラエルの発表によると、8月24日(土)、イスラエルが攻撃したシリアのイラン拠点からは、イスラエル市民を狙った、”神風・ドローン”が発射されるところであった。イスラエルは、大きなテロを未然に防いだと見ている。
続いて、レバノンのヒズボラ拠点付近で、イスラエルのものとみられるドローンが2基爆発し、建物に大きな損害を与えた。イスラエルは、これにより、既存のミサイルを精密な誘導ミサイルに変える作業を遅らせることができたと見ている。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5576535,00.html
この後、ネタニヤフ首相は、ヒズボラのナスララ党首と、イラン革命軍のスレイマン将軍に、「(イスラエルはすべてお見通しなので)行動に気をつけたほうがよい。」と伝えたとのこと。
しかし、今回こそは、イランの堪忍袋が切れて、ヒズボラが反撃してくるのではないかとの懸念があり、北部への警戒を強化したということである。
<今がたたき時?イラン・レバノンの弱み>
イスラエルがなぜ、ここまで強気かといえば、シリアの内戦が終焉を迎え、イランとヒズビラがいよいよイスラエル攻撃の準備を始めたとみられるからである。
ヒズボラは、10万発以上のミサイルとイスラエルに向けているといわれるが、それらは今の所、誘導式ではないとみられ、今、誘導ミサイルへの変換を行っている途中だという。今のうちにこれを抑えることは、イスラエルの防衛上、重要なことである。
また今は、シリアでの戦争直後であり、アメリカの強力な経済制裁再開により、イランが経済的にも戦略的に疲弊している。ヒズボラへの支援も滞っており、ヒズボラも経済危機にある。このため、今なら、イスラエルへ反撃して、その後の戦争に耐えるだけの体力がないとみられている。
トランプ大統領が、これまでのどの米大統領よりも、イスラエルに好意的であることもまた、後押しになる。来年の米選挙までが、チャンスである。
さらに、来月、イスラエルとレバノンは、地中海上の国境線について協議することになっているという。どこが国境になるかで、海中の天然ガスの資金が、レバノンへ流れる可能性も否定できない。
この交渉で、よりよい条件を勝ち取るためにも、レバノンは今、おとなしくしていなければならない時期にある。
この点を知ってか、イスラエルは、「ヒズボラが、イスラエルを攻撃したとしたら、それはすべて、その領土から攻撃しているレバノン政府の責任とみなす。」と明言している。
一方、世界のメディアが、今のイランとイスラエルの対立にさほど危機感を感じていないのは、その他のことで手一杯であることと、おそらく、イランもヒズボラも、今はイスラエルに対して大きな動きには出ないだろうと感じているからかもしれない。
このように、あらゆる条件から、イランと、ヒズボラをたたくなら今、ということであろう。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5576535,00.html
あと一点。これは左派メディアのハアレツからの言い分でもあるが、防衛態勢が危機に陥ると、ネタニヤフ首相の右派勢が、力を得る傾向にある。総選挙直前のこの危機的状況は、ネタニヤフ首相と右派勢にとって追い風になると言われている。