7日、イランが、核合意で定められたウラン濃縮の上限3.67%を超え、5%にまで高めると発表した。しかしロウハニ大統領は、3日、イランは今後、望むままにウランの濃縮を行うとも言っており、5%を超えていく可能性も示唆している。
核兵器開発に必要なウランの濃度は90%と、まだまだ先ではあるが、仮に20%を超えると、核兵器製造までに1年かからないと推測されている。
また、これに先立つ6月28日、イランは、国内に保有できる低濃度のウランの上限である300キロについても、今後超過すると発表している。また、プルトニウムを抽出する重水炉の建設も示唆した。
イランは、2015年の核合意(JCPOA)によると、もし、一方が、約束を守らなかった場合、他方が一時的に約束を守らないということがあったとしても、合意から離脱することには当たらないとして、あくまでも合意の範囲内にとどまっていると主張している。
IAEA(国際原子力機関)は、イランの発表が事実かどうかの検証を行い、10日、緊急会議を開催する。
www.timesofisrael.com/ahead-of-deadline-iran-readies-to-increase-uranium-enrichment-level/
<イランVS核合意関係国(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国、EU)>
6月20日、ホルムズ海峡周辺で、アメリカのドローンがイランに撃墜された。トランプ大統領は、報復の軍事攻撃を指示したが、わずか数時間前に、大統領の意向一つでこれをキャンセルした。
トランプ大統領は、これでイランがアメリカに恐れ入って、態度を変えると期待したのかもしれないが、誇り高いイスラム政権のイランが、引き下がることはない。また、市民生活を優先し、アメリカに頭を下げるということもありえないだろう。
6月28日、イランは予告通り、低濃度ウランの国内保有上限であった300キロを超過すると発表。核合意関係諸国に、7日までに、イランとの貿易を再開し、経済制裁を軽減する妥協策を出さなければ、イランは、ウランの濃縮についても上限を超過させると予告した。
フランスのマクロン大統領は、6日、イランのロウハニ大統領に電話をかけ、1時間近く話をしたという。マクロン大統領は、今月15日までに、核合意関係諸国とイランとの対話再開の条件などを整えることで合意した。
www.timesofisrael.com/liveblog-july-7-2019/
<ネタニヤフ首相怒り表明>
イスラエルのネタニヤフ首相は、週初めの閣議において、英語で、核合意関係国に怒りをこめた以下のメッセージを語った。
「イランがウランの濃縮を再開する目的は核兵器しかない。これは非常に危険である。ナチスドイツの拡張は、小さなステップから始まり、オーストリア侵攻となり、急速に進んでいった。イランも同じである。
友であるフランス、イギリス、ドイツの皆さん。合意では、いったんイランが規定以上のウランの濃縮を再開したら、その瞬間に厳しい経済制裁を発動するということになっているではないか。それは国連安保理の決議でもあったはずだ。いったいどうしたことか。」
ネタニヤフ首相は、イスラエルが、これまでシリアに進出してくるイランを懸命に阻止してきたと訴え、ヨーロッパにも同じように戦ってほしいと訴えた。
<英海軍:イランのタンカー拿捕:シリアへ原油密輸か>
こうした中、4日、ジブラルタル海峡で、イギリス海軍が、イランの石油を運搬中とみられるタンカーを拿捕した。イギリス軍は、タンカーが、シリアへ向かっていたとの見解を発表した。これは、現在、イランの原油禁輸政策を取っているイギリスにとっては、重要な違反ということになる。
イランは、タンカーの石油がイランのものであり、スエズ運河を通行できないので、はるばるアフリカ大陸を経由してジブラルダル海峡を通過していたことを認めた。しかし、行き先がシリアであったというイギリスの主張は否定している。
イランは、もしイギリスがイランのタンカーを即座に解放しないなら、イランはイギリスのタンカーを拿捕するしかないと脅迫した。
時期的にも最悪の時であり、1980年代のイラン・イラク戦争の時に、ペルシャ湾を航行中の各国のタンカーが攻撃された、いわゆる”タンカー戦争”を彷彿とさせる事態である。
www.timesofisrael.com/tehran-threatens-to-seize-british-oil-tanker-if-iranian-ship-not-released/
<イラン情勢:今後どうなるのか:石のひとりごと>
トランプ大統領もイランのハメネイ最高指導者も共に、戦争は望んでいないことは確かなようである。
1)双方にらみあいのままが続く
もし、ここで、アメリカとイランが戦争になれば、イスラエルも中東全体、ひいては世界も巻き込む世界大戦になってしまう可能性もあり、それは、アメリカにとってもイランにとっても得策ではない。
特にイランは、今、経済制裁で疲弊しており、国民の政権への目も厳しくなっている。アメリカと対決しても、勝つ見込みどころか、内部から政権転覆の可能性が高まる。イスラエル国家治安研究所によると、イラン政府は、ここしばらく、イスラム教の服装などその法典の強化を進めているという。国内が不安定になりつつある証であろう。
イランの核兵器開発が最初に問題となったのは、15年以上も前の2003年だった。以来、イランは、国際社会をのらりくらりとかわしてきた。これからも、国際社会をやきもきさせながら、結局、核兵器レベルにまでウランを濃縮しないという態度を取り続けていく可能性がある。
2)ヨーロッパかロシアが、アメリカ抜きでイランと合意を見出す
アメリカでは、来年大統領選挙なので、近くトランプ大統領が消えるかもしれない。また、今、ヨーロッパが、アメリカ抜きでイランとの新たな合意に至るとか、シリア内戦の時のように、ぎりぎりになってロシアが登場して事態を丸く収め、情勢の主導権をとってしまうなどもありうる。
一方アメリカもこのまま軍事行動には出ず、基本的には、経済制裁をさらに強化して国内のイラン政権への批判が爆発するのを待つという方針のようである。もし今、イランに軍事攻撃を実施して、アメリカ軍人を失うようなことになれば、来年の選挙でマイナス要因となるからとみられている。
また、イランとの妥協案を模索しているとの報道もある。
3)イスラエルから火の手が上がる
さらにイスラエルがどう出るかで、だれも望まない戦争に発展してしまうかもしれない。
イスラエルは、イランが少しでも核兵器に近づくことを許さないと言っている。ロシアの暗黙の了解を得たことで、シリア軍になりすまして、イスラエル国境に近づいてくるイラン革命軍への攻撃を大胆に行い、イラン国内の核施設にまで攻撃する可能性もある。
またこの緊張の中、イスラエルのステルス機が、昨年3月にイラン領内を飛行していたという情報が、今になって流れた。これは、イランには脅威になる。
news.yahoo.com/iranian-commander-kept-secret-israeli-113000039.html
これに対し、イランが支援しているレバノンのヒズボラや、ガザのハマスを使って、イスラエルを攻撃させて、国際社会の注目をそらすなどの事態もありうる。
夏は、イスラエルでは戦争が多発するシーズンでもある。なんとか平穏が保たれるようにと願う。