ガザ情勢がまたエスカレートしている。経過は以下の通り。なお、現在も進行中であるため、記事は時間を追ってお伝えする。
3日(金)、ガザ国境をパトロールしていたイスラエル兵2人が、ガザからの銃撃を受け、負傷した。これを受けてイスラエル軍が、ハマス関連への空爆を行ったが、これにより、ハマスとみられる2人が死亡した。
また、3日には、毎週金曜のデモによる衝突で、パレスチナ人1人(19)が死亡。のちに負傷していた1人も死亡した。金曜だけで、パレスチナ人4人が死亡したことになる。ハマスは、「イスラエルの”犯罪”には屈しない。」とし、また金曜の「機関へに行進」も継続すると発表した。
土曜朝10時(日本時間土曜午後4時)、ガザからロケット弾が、イスラエル南部、アシュケロン、アシュドドに向けて撃ち込まれ、夜まで続いて、250発に及んだ。
迎撃ミサイル、アイアンドームが、一部は撃墜したが、すべてはカバーできず、ガザ周囲エシュコル地方では、民家に直撃。住民は、幸いサイレンで避難した直後であった。国道4号線も被害を受けた。
これを受けて、イスラエル軍が、ハマスとイスラム聖戦拠点など10数箇所へ空爆を行った。ガザからの情報によると、この攻撃により、パレスチナ人1人(22)が死亡。4人が負傷した。(ガザ情報)
この後もガザからのロケット弾攻撃は続き、サイレンは、レホボト(テルアビブ近郊)や、ベイトシェメシュ(エルサレムから20キロ)にまで拡大した。ナハル・オズ、ホフ・アシュケロンでは、民家が直撃の被害を受けた。いずれも住民は避難して無事だった。
しかし、夕方になり、キリアト・ガットで、屋外にいた80歳の女性が、ミサイルの破片に当たって重傷。アシュケロンでは、49歳男性が中等度の負傷を負った。
情勢のエスカレートを受けて、国連とエジプトが仲介を続けているが、今のところ、進展はまだ伝えられていない。
この記事を書いている最中の5日に入った深夜すぎ、ベエルシェバに2発着弾したとの報道が入っている。1発は高校に着弾。後者が炎上した。もう1発は民家に着弾した。負傷者もでているもようで、計6人が病院で手当てを受けている。
さらに午前2時半、ロケット弾がアシュケロンのビルに着弾し、イスラエル人男性(60)が死亡した。2014年のガザとの戦争以来、最初のイスラエル人犠牲者となる。ロケット弾はスデロットにも着弾しているもよう。
www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/1-killed-as-300-rockets-slam-southern-Israel-588751
現在、ベエルシェバ、アシュケロン、キリアットマラキ、ヤブネなどガザ周辺広範囲地域の住民はシェルターで待機。イスラエル軍は、ガザとの国境はすべて閉鎖。危険地域の道路を封鎖したり、ベエルシェバを含む複数の市は、公共のシェルターも開放して、警戒を続けている。
また、テルアビブなど中央部への攻撃にも備え、アイアンドーム(迎撃ミサイルシステム)をさらに配備した。
www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/262678
イスラエル軍は、120箇所(おそらくそれ以上)への攻撃を実施。エルサレムポストによると、一連の攻撃で、ガザからイスラエルへ続く、イスラム聖戦の地下トンネルも破壊したとのこと。
Times of Israel によると、ハマスは、イスラエルの空爆によって、幼児(1歳2ヶ月)とその母親が死亡したと伝えられている。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5503459,00.html
<ユーロビジョン脅迫>
ガザからの攻撃が始まった土曜、5月から14日から18日に予定されているユーロビジョン関係者が、開催地テルアビブ集まり始めた日で、テルアビブ市は、関係者のためのシャバットディナーを開催していた。
ユーロビジョンは、ヨーロッパのミュージック・アーティストたちによる毎年恒例の国際的なコンテストで、昨年、はじめてイスラエル人アーティストのネタ・バルジライさんが優勝。これにより、今年はイスラエル(テルアビブ)でコンテストが行われる。
イスラエルの観光省は、1万人がこのためにイスラエルに来ると予測している。
しかし、イスラエルについては、紛争地帯であるとして、コンテストの開催の是非については物議を呼び開催が危ぶまれたという経過があった。またBDSムーブメント(イスラエルボイコット運動)がアーティストにボイコットを呼びかけた他、元ピンクフロイドのロジャー・ウォーター氏もアーティストたちにボイコットを呼びかけている。
イスラム聖戦は、この世界的なコンテストが、イスラエルで行われることによって、パレスチナ問題が軽視されることになると訴えている。
ガザからのロケット弾、ミサイルは、余裕でテルアビブにも到達する。情勢のエスカレートが続けば、ベンングリオン空港の使用も含め、コンテストの開催にも影響が出ることはさけられない。
<イスラム聖戦台頭にみる懸念:元イスラエル軍大佐治安問題専門家ヨシ・クパワッサー氏>
1)ガザ崩壊への可能性?
現在、イスラエルは、エジプトの仲介で、ハマスをガザの管理者として、平穏回復への交渉を行っている。
イスラエルが本気になれば、ハマスを打倒することは難しいことではない。しかし、イスラエルは、その後にガザに入って管理することはさけたい。そのため、ハマスをぎりぎりで維持し、平穏を継続するよう働いている。
しかし、問題は、アメリカがパレスチナ人への支援金(UNRWAへの拠出金完全停止)したこともあり、パレスチナ自治政府が、これまで送金してきたガザへの資金を差し止めてしまった。
これは、アッバス議長無視で、ハマスとイスラエルが、交渉をしていることへの反発であるとも考えらえる。
このため、ハマスはまったくの資金不足に陥った。これを救出したのが、カタールからの現金であった。イスラエルはこの現金の搬入を認めた。ところが、今、カタールからの資金が届かなくなった。
ガザが崩壊することは、イスラエルのみならず、エジプトにとっても非常に危険である。ISなどハマスよりはるかに悪いものが来る可能性があるからである。
今、エジプトのカイロでは、ハマスとイスラム聖戦の指導者が集まって、エジプトと今後のことが協議されているが、クパワッサー氏によると、この協議に来るはずのカタールが来ていないという。このままではガザはいよいよ崩壊する。
2)ハマス求心力低下:イスラム聖戦の台頭
今回の衝突は、ハマスではなく、イスラム聖戦が中心になっていることも大きな懸念。もはやハマスがガザを統括できていないとも考えられる。
イスラエルはこれまで平穏をとりもどすため、ハマスを維持しようと、相当な譲歩を行ってきた。しかし、もしそれが意味のないことであるならば、方針の方向転換を行う必要が出てくる。
イスラム聖戦は、イランの配下にあることがわかっているので、イスラエルはこれがガザの支配者としてイスラム聖戦を受け入れることはできない。そうなるといよいよイスラエルがガザを総攻撃しなければならなくなる。
しかし、イスラエルは、200万人のパレスチナ人を抱えるガザを再支配することは絶対にさけたい。大きなジレンマであると同時に、方向転換の決断の影響は非常に大きい。今、イスラエルは注意深く、動きを見守っているところである。
3)イランが関係するか
イスラム聖戦が台頭していることからも、このことにイランが関わっている可能性は高い。ちょうどアメリカが原油の完全禁輸制裁を始めたところで、イランが、そのツケとして、この紛争を覆ったとも考えられる。
イランは、ホルムズ海峡の閉鎖も脅迫しているところである。
また、イスラエルは、これから戦没者記念日(7日夕刻から)、独立記念日(8日夕刻から)に続いて、ユーロビジョン(14-18日)と、国としても大事な行事を控えている。この時期、ちょうどラマダン入りでもあり、イスラエルとの対立を煽るに、これ以上にタイミングはないともいえる。