エルサレムでホロコースト記念日:世界で急増する反ユダヤ主義 2019.5.2

5月1日、午後8時(日本時間深夜2時)エルサレムのヤド・バシェムでは、今年もホロコースト記念式典が行われている。リブリン大統領、ネタニヤフ首相、アビ・コハビ参謀総長など、国の指導者たちが見守る中、6人の生存者たちが、子供や孫たちに付き添われて点火する。

www.youtube.com/watch?v=X2gLek_nQyc (ユーチューブで生中継)

生存者は年々減っているが、現時点で、イスラエルで正式にホロコースト生存者と認められ、特別な手当を受け取っている人は1、約15万2000人。しかし、強制収容所に入らず、逃げかくれて生き延びた人など、正式な生存者と認められない場合もあるので、実際には20万人ぐらいはいると思われる。

皆高齢なので、1日に40人は死亡しており、15年先には10万人ほどのなっていると予測されている。

生存者の多くは、子供がおらず、孤独である。イスラエルで受け取れる年金が少ないことが問題であった。しかし、Times of Israel によると、2018年には,10%程度増額されていたとのこと。

www.timesofisrael.com/2018-saw-10-boost-to-holocaust-survivor-benefits-finance-ministry-reports/

*ユダヤ人パルチザン:ビエルスキー一家:ベラルーシ

ユダヤ人は、ガス室に送られていただけではない。今年のヤドバシェムでのホロコースト記念日のテーマは、”戦争の中の戦争”。サバイバルをかけて、極限の中で戦ったユダヤ人を覚えるとなっている。

終盤にかけては、特に旧ソ連地域で、虐殺を逃れて森に逃げこみ、ロシア人のパルチザンとともに戦った人も少なくなかった。

特筆に値するのが、ベラルーシの森に潜んで女性や子供などもつれて数百人にもなっていたビエルスキー一家がいる。多くのビザルスキー人に助けられ、ビエルスキー一家とその仲間たちは、森に潜んで、ゲリラ戦を展開した。グループは、”森のエルサレム”と呼ばれた。

1944年にソ連軍によって、この地域が解放されると、1230人が森から出てきたという。ビエルスキー・グループの子孫たちは、今や2万5000人に上る。ビエルスキー一家を助けたベラルーシ人は多くが義なる異邦人として記憶されている。

www.timesofisrael.com/we-are-here-because-the-bielski-partisans-fought-back/

<急増する反ユダヤ主義暴力>

テルアビブ大学の調査によると、2018年、反ユダヤ主義暴力の数が、400件以上と、13%増加し、ここ数年で最大となった。大規模な暴力の4分の1以上はアメリカで発生していた。

しかし、急増が激しいのは、西ヨーロッパだという。特にドイツでは、反ユダヤ主義暴力が70%も増えていた。

ヨーロッパユダヤ議会のモシェ・カンター氏によると、もはや、極右や極左、過激イスラム主義者だけが恐ろしいのではなく、一般社会でも受け容れられるレベルになりつつあるという。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5502155,00.html

<ユダヤ人はヨーロッパは1930年代の再来懸念:スペインでも極右政党が躍進>

ヨーロッパでは、難民流入以来、各国で右派・国粋思想が高まり、フランス、オーストリアなどで極右政党の台頭が注目されている。スペインでも、4月28日の総選挙で、極右政党VOXが、支持率を伸ばした。

総選挙の結果は、与党・左派社会労働党のPSOEが、350議席中123議席で第1党となったが、「スペインを偉大な国に」とトランプ大統領のようなスローガンで極右政党VOXが24議席を獲得した。スペインが民主国家になった1975年以来である。

www.bbc.com/news/world-europe-48081540

BBCによると、ヨーロッパでは、スペインを入れて17カ国の国会に、国粋主義政党が議席を確保している。特に、スイス(29%)、オーストリア(26%)、ハンガリー(Fidesz49%, Jobbik19%)で、勢力が伸びている。

www.bbc.com/news/world-europe-36130006

かつてナチスは、極右・国粋主義政党として登場。当初の支持率はわずか3%しかなかったが、世界恐慌を機に、支持率を一気に30%以上に伸ばし、1933年には政治を独占するまでになった。民主主義が、もろいということはすでに歴史が証明している。

今、ユダヤ人たちは、ヨーロッパは、1930年代(ホロコースト時代)の様相になりつつあると指摘されている。

www.jpost.com/International/UN-Genocide-expert-says-European-far-right-is-similar-to-rise-of-Nazis-588429

<ウクライナにユダヤ人大統領誕生>

22日、ウクライナで行われた大統領選挙にて、ユダヤ人人気コメディアンのウラジミール・ゼレンスキー氏(41)が、73.2%もの票を得て、前ポロシェンコ大統領を破り、大統領に決まった。

東ウクライナでのロシアと睨み合いですでに1万3000人が死亡し、経済も下落が続いているのを受けて、市民たちが変化を求めたとみられる。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5497750,00.html

ネタニヤフ首相は、ゼレンスキー氏に祝辞を送り、イスラエルに来るよう招いた。

しかし、ゼレンスキー氏は、コメディアンであって、政治の経験は皆無だという。狡猾なロシアとにらみあい、不安定なEUやNATOとの関係、厳しい財政状況などを考えると、はたしてよい働きができるかどうか、若干不安ではある・・・

ウクライナには、ポナリーや、バビヤールなど、ホロコーストの時代に、ユダヤ人を大量に銃殺刑に処した穴がある。虐殺はナチスによるものだが、ウクライナ人が虐殺に関わっていなかったわけではない。

ユダヤ人であるゼレンスキー氏が、少しでも国を良好に導けなかった場合、反ユダヤ主義暴力に発展するかもしれない。ゼレンスキー氏の今後の働きに注目したい。

<石のひとりごと>

ホロコーストは歴史的事実であるが、あまりにも大きな犯罪であるため、人類はこれを消化しきれていないのではないだろうか。

先日アウシュビッツをたずねたが、殺人工場の現場アウシュビッツⅡビルケナウは、歩いて見て回るだけで3時間以上はかかってしまう。一つの町サイズである。そこで殺害された人数は、ユダヤ人(100万人)、ポーランド人、ロシア人など合わせて110万人。

これは日本の市3−4つを飲み込み、消滅させた規模である。これを認めない人や国もいる。あまりにも膨大だからかもしれない。把握しきれない規模であるために、逆に、ユダヤ人は殺害されてもよいものといった麻痺感覚があるのかもしれない。非常に恐ろしい傾向である。

今年のホロコースト記念日のテーマからして、ユダヤ人は、世界で反ユダヤ主義がたかまっていることに対し、戦う時が来ていると意識しているのではないか。。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。