ゴラン高原へ向かうシリア難民5万人 2018.6.30

シリア南部、すなわち、ヨルダンとイスラエル両国とシリアとの国境、デラア周辺地域(地図参照)で27日、シリア政府軍が、ロシア軍の支援を受け、反政府勢力を攻撃し始めた。27日の空爆で、市民、子どもを含む数十人が死亡している。

*空爆下で働くホワイトヘルメッツ(市民による救出隊)

これを受けて、シリア人12万人が難民となって避難してきた。ヨルダンが難民受け入れを拒否しているため、5-6万人が、ゴラン高原、イスラエル方面へ向かっているという。イスラエルへの大量流入が懸念されている。

www.timesofisrael.com/amid-fierce-syria-fighting-israel-fears-flood-of-syrian-refugees-on-border/

<非エスカレート合意破棄:ロシア>

ヨルダンは、これまでに130万人ともいわれる(このうち難民指定を受けているのは65万人)シリア難民を受け入れており、これ以上の難民は受け入れられないと言っている。

ヨルダンの要請で、昨年、アメリカとロシアは、この地域でこれ以上、難民が発生しないよう、シリア南部を”非エスカレート地域”に指定した。

この合意により、ここ1年は、比較的平穏が続いていたのだが、今、シリア政府軍が、シリア南部の反政府勢力の掃討に乗り出したようである。今回の攻撃には、ロシア軍が協力している。

ロシアの国連大使が示唆しているところによると、「シリア南部には、危険なアルカイダと、ISがいるので、シリア軍には、これを口撃する権利がある。シリア全土は正式な政府が治めるべきだ。」として、ロシアはもはや非エスカレートの合意を順守しない方針に転換したもようである。

<イスラエルの対応:迅速な難民への救援物資搬送>

イスラエルは、難民に混じって入り込んでくるテロリストを警戒し、治安維持の観点から、難民は一人も受け入れないことを決めた。

同時に、難民対策として、木曜夜、デラア方面4箇所へ、テント300針、食料13トン、ベビーフード15トン、医療機器と医療物資30トン、衣料と靴30トンを搬送した。この地域にとどまってもらうためである。

国連によると、激しい戦闘で26日から、物資の搬入が不可能になっていた。

イスラエル軍は、この地域の反政府勢力とは、「よき隣人作戦」で負傷シリア人を治療することでなんらかのコネクションがあるとみられている。シリア南部の反政府勢力は、イスラエルが物資を搬入した28日深夜から早朝までの一時的停戦を実施した。

すでに、この地域を出て、ゴラン高原に向かっている難民については、イスラエル側へは入れず、シリア側に難民村を設立して支援し、国際社会の対応を待つ方針とのこと。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5299264,00.html

<イスラエル軍・エイセンコット参謀総長アメリカ訪問>

イスラエルは、アメリカとロシア、ヨルダンが南シリア地域を非エスカレート地域と決めたことについて、懸念を表明していた。戦闘が停止している間に、逆にイランがこの地域近くに軍を進めてくる可能性があったからである。

エイセンコット参謀総長は28日、ワシントンで米軍参謀総長ヨセフ・ダンフォールドと会談。急激に変化しつつあるシリア南部情勢、その地域に忍び寄るイラン他、中東情勢について協議している。

www.timesofisrael.com/idf-chief-in-washington-to-meet-senior-us-defense-officials/

<トランプ大統領とプーチン大統領7月15日会談予定>

アメリカとロシアが、味方なのか、敵対しているのか、はたまたある点では合意しているのか、なんともわかりにくい昨今である。

今回のシリア南部でも、ロシアは、アメリカとヨルダンとかわした合意を順守しないと言っているにもかかわらず、アメリカからの反応はない。これについて考えらえる一つの説明は以下の通り。

トランプ大統領とプーチン大統領は、NATO首脳会談後、7月16日にヘルシンキ(フィンランド)で、2者会談を行う予定になっている。

ロンドン系メディアによると、この会談において、アメリカは、アサド政権の存続を認める代わりに、イランをシリア全土から完全撤退させることを要求するとみられる。これに準じ、アメリカは、イスラエルがシリア領内のイラン軍を攻撃することを黙認する。

*27日、ダマスカス空港近郊の武器庫(ヒズボラ関連)が、ミサイル攻撃を受けたが、シリアはイスラエルによるものと非難した。イスラエルはいつものようにコメントなし。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Syrian-media-Two-Israeli-missiles-strike-near-Damascus-Airport-560869

また、アサド政権にシリア全土を統治させるにあたり、シリア南部に今も存在する反政府勢力(アルヌスラ、ISなど)の非武装化を図る。

こう考えれば、今回のアサド政権軍のシリア南部への攻撃に対し、今の所ではあるが、アメリカが沈黙であることも頷けるところである。

www.jpost.com/Middle-East/ReportTrump-will-demand-Iran-will-exit-the-whole-of-Syria-561111

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。