米:イラン核合意離脱:イスラエルがイランのミサイルを攻撃か 2018.5.9

8日午後(イスラエル時間8日夕刻、日本時間9日深夜過ぎ)、アメリカのトランプ大統領が、5月12日の期限を前に、イランと世界6カ国が交わした核合意から離脱し、経済制裁を再開すると、ホワイトハウスから正式に表明した。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5255179,00.html

これに先立ち、8日朝、イスラエルは、シリア領内でイランに不審な動きがあったとして、北部に迎撃ミサイルシステムを配備。市民らにはシェルターの準備を行うよう指示した。

その後、シリアのダマスカス南部の軍施設がミサイル攻撃を受け、爆発と炎上する様子が報じられた。AFPなどの報道によると、攻撃を受けたのは、イランのミサイル基地かその類であったもよう。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5255112,00.html

シリアの国営放送によると、攻撃したのはイスラエルで、2発は迎撃したと伝えている。例のごとく、イスラエルからのコメントはない。

イランからの反撃が懸念されるが、攻撃から半日たった現時点で、イラン、またその傀儡であるヒズビラからの反撃の報告はない。ゴラン高原のシリア国境ベンタル山も観光客にオープンのままだという。

イスラエルは、イランがシリア領内で勢力を伸ばしつつ、イスラエル国境に近づいてきていることを懸念している。イランの軍事拠点については、これまでから何度も攻撃が報告されている。最も最近の攻撃(4月30日)では、イラン軍関係者18人が死亡した。

イランとシリアは、攻撃はイスラエルによるものと断定している。こうした事件が発生するたびにイランとイスラエルの直接対決が懸念されたが、今の所、イランからの反撃はなく、戦争にはならなかった。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5246144,00.html

イスラエルは、いずれの攻撃においても、攻撃を認める声明は出していないが、「イランのわずかな動きでも、危険であれば、躊躇なく攻撃する構えである。」とは表明している。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5255112,00.html

<イスラエルとアメリカの共同作戦?>

トランプ大統領の合意離脱表明に先立つ4月30日、イスラエルのネタニヤフ首相は、イランが核開発を続けている証拠とする10万にも及ぶ情報を得たと発表。ドイツ、フランス、イギリスに検証しに来るよう招く声明を出した。

www.jpost.com/Israel-News/Netanyahu-European-delegations-will-come-to-examine-Iran-evidence-553211

トランプ大統領は、昨夜の合意(JCPOA)の離脱表明の際、ネタニヤフ首相のこの情報をとりあげ、イランは約束を守っていなかったと主張。また、この合意には、重要な場所の視察を含めていないなどの落ち度があったと非難した。

また、この合意では、イランが核開発を再開する可能性を残しているため、このまま放置するなら、中東で核競争となり、イランが核兵器を所有するころには、中東諸国がみな核所有国になっているだろうと警告した。

この発表の時間と合わせて攻撃することで、イランの武器開発の事実をさらに証拠付けたのではないかとの見方もある。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5255112,00.html

ネタニヤフ首相は、その後、キプロスや、ギリシャの首脳と会談した他、今夜ロシアへ向かうとのことで、外交戦略を展開している。

<イランの反応>

ロウハニ大統領は、アメリカの合意からの離脱は心理的な戦争だとして、数週間以内に、これまで以上のウランの濃縮を開始する可能性もありうると警告した。

ロウハニ大統領は、今後、EU、ロシア、中国などにザリフ外相を派遣して、対策を検討すると主張する。その結果、アメリカ抜きで合意が継続するか、合意が崩壊するかになると思われる。イランとしては、合意以前のように、完全に孤立して、経済封鎖を受ける事態になるのは避けたいところであろう。

しかし、トランプ大統領は、イランだけでなく、イランと取引する国々への経済制裁も行うと釘をさしており、今後、ドイツ、フランス、イギリスなどの大国が、どう出るのか注目される。現在、EUのモゲルニ外相は、国際社会に、合意にとどまるよう、警告している。

なお、ここに至るまでの数週間、ドイツ、フランス、イギリスは、アメリカに離脱を思いとどまるよう、説得を試みていた。今回のアメリカの発表については、「遺憾」と表明している。

www.timesofisrael.com/iran-says-it-may-resume-enrichment-after-trump-announces-nuke-deal-exit/

<サウジアラビアはアメリカに賛同>

トランプ大統領の発表直後に、サルマン皇太子が、これに賛同する意向を表明している。サウジアラビアはイランとイエメンで戦争している最中なので、イランへの経済制裁は大歓迎というところであろう。

www.jpost.com/Middle-East/LIVE-World-reacts-to-Trumps-Iran-deal-decision-554823

<今後戦争になる可能性は?>

イスラエルが、防衛のためには、最大限の武力を行使することは疑う余地がないので、今後、ヒズボラ、イラン、ロシアが、どう出てくるかで、戦争になるかどうかというところであろう。

今、イランは、アメリカ抜きでの合意を維持できるかどうか交渉すると言っており、今すぐにイスラエルへの攻撃はないと思われる。また、イランの傀儡であるヒズボラも、レバノンでの権力固めに忙しい時期でもあるので、いますぐにイスラエルとの戦争は望んでいないとみられている。

しかし、戦争はささいなことからはじまるものである。今。これまで以上に、いつヒズボラ、イラン、イスラエルが関係する紛争が勃発し、大きな世界大戦に発展する危険性はこれまで以上に高まっているといえる。この状況でどうとりなすのだろうか。

エルサレム祈りの家スカット・ハレルを導くリック・ライディング牧師は、今はまだ中東に大きな収穫が来る途上であり、終末の大きな戦争になる時期ではないと考えている。

ライディング氏は、主の時でないのに大きな戦争にならないようにとりなすことが重要だと語っている。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。