月曜、ガザからイスラエル領内に続いていた地下トンネルが崩壊。イスラム聖戦武装兵ら少なくとも7人が死亡。12人が負傷した。死亡した7人の中にはイスラム聖戦の高官2人、ハマスの高官2人が含まれていた。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5036250,00.html
これについて火曜、イスラエル軍は、トンネルを破壊したことを認める声明を出した。イスラエル軍によると、トンネルは、ガザ地区カン・ユニス難民キャンプからすでにイスラエル領内10数メートルまで入り込んでいたという。イスラエル軍は、ガザに入って破壊したのではなく、イスラエル領内からこれを破壊していた。
領内とはいえ、現場に最も近いイスラエル人居住地キブツ・キスフィムまではまだ2キロの地点であり、危険が市民に及ぶまでに十分な地点で作戦を実行したということである。
イスラエル軍は、以前よりガザからのトンネル対策として、ハイテクを駆使した新技術を開発中と言っていた。ネタニヤフ首相によると、今回それを初始動させたとのこと。
www.timesofisrael.com/palestinians-say-at-least-5-dead-9-injured-as-israel-blows-up-gaza-tunnel/
イスラム戦線は、トンネルを破壊されたのち、「このトンネルは、イスラエルに収監されている仲間の釈放と交換するイスラエル人を誘拐するものであった。」と発表した。
その上で、「トンネル破壊はイスラエルによる虐殺行為だ」「我々の安全を脅かす行為は断じて受け入れられない。」として、イスラム聖戦は、「目には目を。血には血を。」との原則を強調し、イスラエルへ報復すると宣言した。
*イスラエルの存在そのものへの挑戦
イスラム聖戦は、あくまでも、トンネルを攻撃したイスラエルを非難する。しかし、トンネルは、自らも認めているように、イスラエルに対するテロに用いられるものであり、すでにイスラエル領内にまで掘り進んでいたからこそ攻撃されたのである。さらにトンネルの破壊そのものは、ガザ内部ではなく、イスラエル領内で行われた。ガザに脅威となるものではなかったはずだ。
にもかかわらず、トンネルが破壊されたからには、「防衛のために戦う。反撃する。」というのは、どうにも理解に苦しむ態度である。今にはじまったことではないが、先に攻撃しておいて、イスラエルが反撃、または対処をしたら、それをもって被害者の顔をするのである。
これは要するに、イスラエルの存在自体が悪だと言っているということである。その悪と戦う自分たちへの攻撃は、なんであれテロ行為であり、たとえ自分達からしかけた争いであっても、それに反撃された場合、「防衛」ということになるのである。
この争いに終わりがあるとすれば、イスラエルが、消えることしかない。いうまでもなく、これはありえないことである。
<ガザからの報復はあるか?>
トンネルの破壊から2日目、今の所、反撃はない。今回のトンネル破壊については、綿密に計算されていた可能性が高い。
イスラエル軍は、トンネルの破壊は、それ自体を目的として実行したのであって、イスラム聖戦の指導者が死亡したのは予想外だったと発表した。
しかし、実際には、トンネルがイスラエル領内にまで掘り進められていたことをイスラエルが知らなかったはずはなく、ちょうどハマスとファタハが和解へと踏み出し始めたころあい(以下に詳細)や、司令官らが、トンネルの中にいたことも踏まえて爆破に踏み切ったのではないかとの見方もある。
反撃についても計算されているはずだが、今はイスラエルと事を構えたくないハマスの意向に反して、イスラム聖戦が、勝手にイスラエルにロケット弾を撃ち込んでくる可能性はある。このため、一応、イスラエル南部には迎撃ミサイルアイアンドームが配備された。しかし、イスラエル国内に緊張感はあまりない。
<アッバス議長には頭痛のタネになる?:ガザ国境の主権ファタハへ移行>
10月12日、ハマスとファタハ(パレスチナ自治政府)は、カイロにて統一政府を立ち上げることで合意。契約に署名した。それによると、11月初頭、ハマスは、エジプト、イスラエルとの国境の支配権をパレスチナ自治政府に移譲する。さらに、12月初頭には、ガザ全体の支配権をパレスチナ統一政府に移行することになっている。
この合意により、本日水曜、エジプトとEUが見守る中、エジプトとガザ、イスラエルとガザの間の検問所のガザ側支配権がハマスからパレスチナ自治政府に移行された。検問所にはアッバス議長とエジプトのシシ大統領の巨大な写真が掲げられ、主権はいまやハマスではなくアッバス議長であるということを誇示する形になっている。
www.bbc.com/news/world-middle-east-41830114
この流れからいくと、今後、ガザで起こる不都合は、ハマスにかわってアッバス議長が全部被ることになるが、アッバス議長には頭痛のタネになりそうである。
現在、ガザ地区の一応の支配者であるハマスは、市民の間でも権威を失い始めている。ハマスが、ガザの実効支配を始めてから10年になるが、市民の生活は悪化する一方だからである。今年1月には停電に関する大規模な市民デモが発生した。
Times of Israelがガザ市民に聞いたところ、今回のイスラム聖戦のトンネルが破壊された件について、「事件はイスラエル領内のことであり、ガザ市民には脅威ではないと言っていたという。ガザ市民たちは、もはやイスラエルとの闘争よりも、ファタハとの和解とそれによる生活改善を望んでいるようである。
つまるところ、ハマスは、めんどうな市民の世話をするという政治の部門をファタハに丸投げし、あとはイスラエルとの武装闘争に集中するという形になるということである。実際、ハマスは、ファタハとの統一政府には合意したが、まだ武装解除に応じるとは約束していない。
その上に、イスラム聖戦のトンネルが破壊された。国際社会にパレスチナ人統一を強調したいアッバス議長の前で、「たとえ、ハマスとファタハが和解してもイスラム聖戦は、それに加わらない。」と爆弾宣言したようなものである。
www.timesofisrael.com/islamic-jihad-doesnt-want-to-rain-on-the-reconciliation-parade/
幸い、今のところ、イスラム聖戦からの反撃はない。これは、ハマスとファタハの統一政府を仲介しているエジプトが、その威信にかけて、邪魔立てされないよう、イスラム聖戦の反撃を抑えているとみられている。この点からもイスラエル軍のトンネルの破壊の時期が絶妙であったことがうかがえるところだ。
*イランの関与?
今後懸念されることは、ガザとイランの関与である。今回破壊されたトンネルで死亡した7人のうち、2人はイスラム聖戦、2人はハマスの指導者だった。ライバルで、互いに敵対しているにもかかわらずなぜ、トンネルの中に指導者たちが一緒にいたのか。
ハマスは、おそらく、このトンネルがイスラム聖戦によって掘られていたことを知っていたが、なんらかの理由で黙認していたと考えられる。その際の考えられるのがイランの関与である。
イスラム聖戦がイランの支援を受けていることは周知だが、ハマスも、最近イランに近づき始めている。もしかしたら、イランがレバノン政府のもとで、ヒズボラというテロ組織をあやつっているように、ガザ地区でも、パレスチナ自治政府のもとで、イランがあやつるテロ組織を形成しはじめているのではないかと懸念もある。
実際、トンネル破壊の後、ハマスの副指導者で、現在レバノン在住のサレ・アル・アロウリがヒズボラのナスララ党首を訪ねた様子が伝えられた。ハマスが、2011年に、ヒズボラとの関係を遮断して以来、始めてのことである。
Yetによると、このアロウリは、親イラン派として知られており、今回のハマス・ファタハの合意にも大きな役割を果たした人物。ハマス、イラン(イスラム聖戦支援)、ヒズボラ、そしてロシア(以下の詳細)の不気味なつながりがうかがえるできごとである。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5037111,00.html
<アメリカの中東政策継続中?>
アメリカのトランプ政権は、イスラエルの主張と同様、パレスチナ問題は、国際社会が関与するのではなく、両者の直接対話が必要だと考えている。そのため、なんとか両者を交渉のテーブルにもどそうとしているようである。
しかし、イスラエルは10月、パレスチナ自治政府がハマスとの和解を進めているのに対し、統一政府を認める条件として、ハマスの武装解除を主張。それが実現するまでは、いかなる交渉にも応じないという方針を発表した。
ところが、30日、イスラエル閣僚で経財相のカフロン氏を含む政治家のグループが、ラマラを訪問し、パレスチナ自治政府のハムダラ首相に面会。
この他にも、イスラエルの国会議員らがラマラを訪問し、アッバス議長に面会。この時アバス議長が、「次期統一政府の閣僚になる者は、イスラエルの存在を認めている人物に限る。」と言ったと伝えてニュースになった。
政府間の直接対話は途絶えてはいるのだが、実際には、日常レベルの協調や、水面下でのコンタクトは続けているようである。
この背後には、なんとかしてイスラエルとパレスチナの直接対話をすすめたいアメリカのテコいれがあると考えられている。トランプ大統領は、中東特使グリーンブラット氏を10月初頭、エルサレムとラマラに派遣したほか、中旬には、クシュナー顧問をサウジラビアにサプライズ派遣している。