ゴラン高原のシリア側にいるドルーズ族が50年ぶりイスラエル国内聖地巡礼 2025.3.17

Druze people wave near a border barrier in the northern Israeli village of Majdal Shams, as buses transporting visiting Druze men from Syria arrive, on March 14, 2025. (Jalaa MAREY / AFP)

イスラエルは、シリアに新政権が立ち上がって以来、ゴラン高原のシリアとの国境、シリア側に緩衝地帯と称して、イスラエル軍が駐留し、治安維持を図る地域を維持している。地域には、ドルーズ族の居住地もある。

ドルーズ族とは、イスラム教から発展した、独特の宗教を信じる人々である。イスラム教はイスラムの一派とは認めていない。ドルーズ族は、イスラエル、シリア、レバノンにまたがって住んでいる。

イスラエルにいるドルーズ族、約15万人は、居住地の支配者であるイスラエルに協力的で、若者はイスラエルの大学で学び、従軍もしている。しかし、約3万人は、イスラエルにいながらも、自分はシリア人だと思っているので、イスラエル国籍も持たないまま、もちろん従軍もしていない。

一方、シリアにいるドルーズは、その支配者であるアサド政権に従順であった。このため、シリア側にいるドルーズ族は、1973年のヨム・キプール戦争以来、ティベリアに近い、ドルーズの聖地ナビ・シュアイブ(預言者ナビ・シュアイブの墓)を訪問することができなかった。*1948年のイスラエル独立以来の人もいる

しかし、今、イスラエルの緩衝地帯となった地域にいるドルーズたちは、とりあえずは、イスラエルの管理下に入ったということである。イスラエル軍は、これらの地域に人道支援物資を搬入するとともに、希望するドルーズたちが、ナビ・シュアイブへ巡礼できるようにした。

3月14日(金)、約60人のドルーズ族祭司たちが、3台のバスで、ゴラン高原のすぐ目前にあるドルーズの町、マジダル・シャムスに入り、そこからイスラエル北部のナビ・シュアイブへと到着した。

この人々の多くは、イスラエル側にも親族がいる人たちで、再開を喜んでいる。訪問は、1974年以来、約50年ぶりであった。シリアのドルーズにとって新たな時代の幕開けになるとも言われている。

しかし、一方で、イスラエルは国境を接するシリア南部の非武装化を目指しており、時々攻撃に出ている。またこの3月14日(木)には、シリアの首都ダマスカスのイスラム聖戦の拠点への攻撃も行っていた。

www.timesofisrael.com/idf-strikes-alleged-islamic-jihad-nerve-center-in-damascus-said-to-be-leaders-house/

イスラエル国内への巡礼に同意したドルーズもいれば、やはりイスラエルに反発の思いを持ち続ける人もいるという。

ドルーズは、居住地の支配者を祝福すると聞いているが、これまでの敵と思っていた国が支配者になった場合は、などうするのか、なかなか、難しい決断だろう。

www.timesofisrael.com/new-chapter-syrian-druze-clerics-enter-israel-for-first-pilgrimage-there-since-1948/

*シリア情勢

シリアのダマスカスでは15日(土)、反政府勢力が、最初に前アサド政権打倒に立ち上がってから14年目を祝う様子が伝えられている。

www.timesofisrael.com/syrians-commemorate-uprising-anniversary-for-first-time-since-assads-fall/

シャラア暫定大統領は、3月13日(木)、暫定憲法の草案に署名し、正式な政権への移行までの期間を5年とする憲法の草案に署名した。しかし、多様な国を目指すと言っている割には、やはり、イスラム法が立法の根拠になるとも言っており、少数派たちからは矛盾していると反発も出ている。

www3.nhk.or.jp/news/html/20250314/k10014750301000.html

しかし、先週には、シリア治安部隊が、前アサド大統領のアラウィ派を襲撃し、多くの市民、またキリスト教徒も含む1000人以上を虐殺するという大惨事となっていた。

また、16日(日)には、地中海沿岸の町ラタキアで、13年前のシリア内戦以来の兵器が暴発して、4階建の建物が崩壊。女性5人、子供5人を含む16人が死亡するという事態になっている。

シリアには全国で、内戦中に使われた爆弾100万発のうち、10万から30万発が不発で残っているとみられており、いつどこで爆発するかわからないと警告されている。

シリア情勢はまだまだ平穏からはほど遠く、イスラエルも油断できない状況が続いている。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。