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週末から続くイスラエルとヒズボラの攻撃の応酬
今週末、イスラエルはレバノン国内のヒズボラのロケット弾数千発を破壊し、ヒズボラはハイファにまでロケット弾攻撃に踏み込む激しい応酬があった。
その後、日曜午後からしばらく静かだった(葬儀のため?)が、夜中すぎに、イスラエルがレバノン領内のヒズボラのロケット発射地への攻撃を行った。
また、この夜、イラクから発射され、シリアを経由してきた爆発型ドローンが、ゴラン高原のイスラエル領内に入ったが、迎撃して被害はなかった。
ゴラン高原では、その前日にも、イラクからのドローンと巡航ミサイル4発が到達していた。この時は、イスラエル領内にまでは届かず、領外で迎撃されていた。イラクにいるイラン傀儡のシーア派民兵組織は、その攻撃を認める映像をXにアップした。
🔻مشاهد من اطلاق المقاومة الإسلامية في العراق طيران مسير اتجاه هدف حيوي في أراضينا المحتلة
بتاريخ 22-9-2024 pic.twitter.com/sTA4rJx4ld
— المقاومة الاسلامية في العراق (@AlmqawmtR27445) September 22, 2024
22日日曜に、イブラヒム・アキルなど、イスラエル軍に暗殺されたヒズボラの重要司令官たちの葬儀で、ヒズボラは、戦闘を継続すると表明していた。今後も反撃は続くとみられる。
イスラエル北部住民たちは、続けてシェルターで過ごし、学校は休校、大規模な病院は、シェルターや地下病棟に患者を移動させている。
IDFハガリ報道官がレバノン市民へ緊急警告
こうした中、23日朝8時(日本時間午後2時)、異例の時間帯にIDFのハガリ報道官が、ヘブライ語での記者会見を行った。
レバノン市民に対し、ヒズボラがミサイル発射台を民間人宅に据えているとして、もし、自宅がその一つであるなら、ただちにそこから離れるよう、アラビア語の字幕付きでの警告を含んでいた。
ハガリ報道官はまばたきせず、まっすぐに非常に厳しい目で、訴えていたのが印象的だった。
www.israelnationalnews.com/news/396592
以下はその後、追って出された英語バージョン
北部防衛の専門家サリート・ザハヴィ氏(北部自宅シェルターから報告)によると、イスラエル軍は、これまでの空爆で、何千ものロケット弾とその発射地を空爆して破壊している。
しかし、それらは単独だったり一般市民が周囲にいない地域のものばかりだった。今のところ、レバノン市民の死傷者はほとんど報告されていないのは、そのためである。
しかし、ヒズボラのロケット弾やミサイルの多くは、ベイルートや、市民の家の中にあるものがほとんどで、それらはまだ全く手付かずに残っている。
今日の、ハガリ報道官の言動からして、いよいよ、それらにも攻撃の手を伸ばすのかもしれない。家にロケット弾やミサイル発射台があるレバノン市民は、早く避難しなければ、巻き添えになり、今後、多数の民間人に被害が出てくることになる。
今起こっていることの分析:前国家安全保障会議副代表で戦略エキスパートのIDF退役大佐イタマル・ヤアル氏
1)継続した攻撃は、中東全体におけるイスラエルへの抑止力を回復させることも目標
ヤアル氏は、実際のところ、ハマスもヒズボラも全部を壊滅させることはできないということは、イスラエル政府もよくわかっていることだと言う。
今実施している攻撃は、南北国境の住民の安全が脅かされないと考えられるまでに、ハマスやヒズボラの無力化を図り、自宅に戻れるようにするというのが、第一の目標である。
またヤアル氏は、ハマス、ヒズボラだけでなく、イスラエルを取り囲む敵全体という大きな視点で考えることが重要だと語る。
ハマスだけでなく、中東、世界にも、イスラエルを亡き者にしようとする勢力がある。それらに対し、イスラエルを攻撃することは賢明ではないという明確なメッセージを定着させる必要がある。今イスラエルが戦闘を続けるのは、そのためでもあるという。
レバノンでの通信機器による暗殺は、15年も前から計画されていたという事実や、爆発は無差別ではなく、誰がどこで所持しているのかを知った上で、爆発させていたという情報が出ている。
おそるべし諜報能力、また技術力である。今、イランの革命防衛隊(IRGC)が、いかなる通信機器も使わないようにとの指示が出しているとのこと。敵の間で恐れが広がっている形である。
また、イブラヒム・アキルなど、ベイルートで暗殺されたヒズボラの高官たちは、北部国境からの10月7日を行う直前だったとヘルツォグ大統領が国際メディアに明かした。
ヒズボラのイスラエルへの攻撃を次々に暴露し、阻止している。まさに、イスラエルをあなどるなという強力なメッセージである。
こうしたメッセージが、抑止力となり、再び、平穏に戻り、それを維持することを目指すと言うのが今の目標である。
2) 北部ヒズボラとの停戦は南部ハマスとの停戦が実現するときに実現するという現状と問題点
ヒズボラがイスラエルを攻撃する理由に、南部ハマスを支援することをあげている。したがって、南部が停戦にならない限り、ヒズボラは攻撃をやめない。
ここで問題は、今のネタニヤフ政権が、ガザのハマスを十分弱体化しても、イスラエル軍を撤退させるのではなく、監視者として駐留を続けると言っている点である。
ヤアル氏は、現実問題として、ガザを支配するのはパレスチナ人でしかなく、国際社会は、その場合にしか、ガザ復興への協力はしないと言っている。
とはいえ、ハマスが残留する状態で、イスラエル軍が撤退することは、もっと悪いことになる可能性がある。
南部ガザが解決しないかぎり、ヒズボラとの戦闘も終わらない。現時点でネタニヤフ首相は、交渉には応じず、戦闘を続けていく様相なので、北部の戦闘も終わらないということになる。消耗戦のような感じである。
3) ヒズボラとイランが沈静化させるという道を選ぶ可能性もある?
こうした中注目されるのは、イスラエルにかなりの打撃を受けたヒズボラの出方である。
レバノン国内の医療機関は、通信機器爆発で、一度に数千人の負傷者が押しかけて大混乱になっている。目を吹き飛ばされるなど重傷が多く、手や顔の修復手術は時間もかかる。
レバノンの病院の85%は民間病院で、重傷患者をあふれるほど抱える中、政府は、2020年の港が爆発した際の負傷者の医療費も払えないままだという。
レバノンでは、このような結果をもたらしたヒズボラに不満が高まっている。
www.timesofisrael.com/lebanese-hospitals-pushed-to-the-brink-as-discontent-with-hezbollah-mounts/
ヒズボラのナスララ党首は、イスラエルを壊滅するだけではなく、レバノンをシーア派イスラム教の国にするというビジョンを持っていると言われている。
そのためヒズボラは、レバノンに政治的、社会的にも貢献する一面もあった。レバノン国内のヒズボラへの不満を、ナスララ党首は今、どう対処するのか。
また、そんなヒズボラを支援してきたイランはどう出るのか。
イランは、最終的にはイスラエルの壊滅を公に明言している国である。しかし、イランがそれを急いでいるわけではないようでもある。
ヤアル氏は、イランも今はまだ、中東にまで拡大するイスラエルとの戦争は望んでいないと見ている。この1年の間、そうなる場面は多数あったが、イランは反撃や攻撃のレベルを、抑制していたと指摘する。
イランは、今、核兵器開発を進めており、まだ完成していないので、まだイスラエルとの大規模な戦闘には突入したくないと考えられる一面もある。
ハマスの10月7日のイスラエル侵入は、イランが計画したものではなかったといわれている。しかし、発生してしまった以上、ハマスを助けるため、傀儡であるヒズボラに、そこそこの小規模なイスラエルへの攻撃を継続させてきた。
ヒズボラは、イランが育て上げた組織であり、ヒズボラが大きな打撃を受けるとイランが、そのツケを払うことになるので、大規模にはしたくないということである。
まとめると、イランにとっても、今は“時ではない”と考えられるというのが、ヤアル氏の分析である。
ということは、可能性としてはかなり小さいが、イランがヒズボラを抑止するとか、一説はナスララ党首を解雇するとか、何らかの形で、今のエスカレートを阻止する可能性がゼロではないということか。
無論、戦争というものは予測不能であり、どんなことから拡大していくかは予測不能であるとヤアル氏は強調していた。
ここ数日の間に起こることが、戦争が中東にエスカレートしていくのかどうかが決まると言われている。