目次
イランとの核合意再建成立直前か?
イランと主要5カ国、EUの間で進められているイラン核合意(JCPOA)再建復帰への交渉。今月8日、EUが、妥協案をイランに提示し他のに対し、イランがこれに回答する形で、独自の条件を加えた妥協案を提出。いよいよ合意に署名直前かというニュースが続いている。
この状況を受けて、イスラエルはにわかに慌てた様子になっている。合意による経済制裁緩和で、イランには、年間1000億ドル(約13兆6000億円)を得ることになるとして、現政権のラピード首相、ガンツ防衛相、ベネット前首相に加えて、筆頭野党のリクードのネタニヤフ元首相が、それぞれ、これに反対する声明を発表。イスラエルの防衛という点については、与野党の完全一致を見せつけている。
しかし、これまでのところ、アメリカはこれに応じず、バイデン大統領は、ラピード首相からの電話を断っているという。ガンツ防衛相はワシントンに飛んで、オースティン国防相に直談判を試みているが、オースティン国防相は、面会を拒絶している。
25日、最新のニュースでは、アメリカが、イランの合意案を精査し、EUに戻したと報告。イランもEUから、これを受け取ったと伝えている。内容についての報告はまだない。
*イランとの核合意の流れ
2015年、イランの核兵器開発疑惑に関して、イランと世界主要諸国、EUは、JCPOA(包括的共同作業計画)を立ち上げ、イランの核開発を規制することで合意し、イランへの経済制裁の緩和に踏み切った。
しかし2018年、アメリカのトランプ大統領の時に、この案では、10年後にはイランが核開発を再開できるなど、数々の不備があるとして、アメリカはこの合意から離脱すると宣言。独自の経済制裁を再開した。
これにより、イランもまた、合意にとどまる必要はないとして、高濃度ウランに蓄積を開始。今では、ウランの濃縮は60%、ウランの蓄積について、合意の10倍にもなっていると言われる。IAEA国際原子力機関の監視にも応じなかったり、監視カメラを勝手に除去するなどの動きも報告されている。
こうした中、2021年に交代で大統領になったバイデン大統領は、イランとの核合意にアメリアが復帰し、壊れかかっている核合意を再建する方針を打ち出した。しかし、イランはアメリカを“復帰させてやる“ためには、経済制裁を全面的に解除するように主張するなど、強気姿勢を崩さず、1年以上になる今もまだ、アメリカは合意に復帰できていない。
このため、合意の外にいる立場上、アメリカがイランと直接交渉ができないので、EUがその間に入って仲介者のように動いている形である。今月8日、EUが合意に向けた最終案をイランに提示。イランがこれに自らの要求を盛り込んだ形での最終案をEUに戻してきたところであった。
イスラエル政府与野党と防衛省からブーイングのラッシュ
1) ベネット前首相
まずは、23日、ベネット前首相(現首相代理)が、”最後の頼み“と位置助ける、反対意見を公に発表した。ベネット前首相は、今回の合意で緩和される経済制裁は、2500億ドル(34兆円)にものぼると予想される。それらは絶対に武器類やテロ組織に使われることになると警告した。
また、イスラエルは、アメリカと同盟国ながら、合意の当事者ではないので、たとえこの合意が署名されても、イスラエルはそれに準じないと伝えた。なお、イランとの合意寸前という状況は今回が初めてではない。合意に署名寸前までいったことは、以前にもあったが、その時、アメリカはこれに署名しなかった。ベネット前首相は、今回もホワイトハウスが、イランに妥協しないことを信じていると述べた。
www.timesofisrael.com/liveblog_entry/bennett-appeals-to-biden-not-to-sign-iran-nuclear-deal/
2)ガンツ防衛相
ガンツ防衛相は24日、アメリカにこの合意に署名しないよう、直談判のため、アメリカへと向かった。ガンツ防衛相は、出発前に、この合意に反対を表明すると同時に、「イスラエルはいかなる方法をとってでも、イランの核保有は認めない。」と武力を使うことも含めての強い反対の意志を表明した。
3)ラピード首相
続いて、ラピード首相が24日、記者会見を開いて、イスラエルは当事者として、これに反対するとの意見を発表した。ラピード首相は、おかなる合意にも反対と言っているのではないが、今書面に上げられている形での合意をイスラエルは受け入れることはできないと述べた。
その理由としては上記二人と同様、合意によって発生する経済緩和が膨大すぎることをあげ、それらが、イラン市民のためではなく、革命軍や、イラン市民を苦しめるバシジ部隊(ホメイニ師時代からある反体制は取り締まり部隊)の資金にとなり、兵器開発にもむけられて、中東の治安悪化につながる。中東のアメリカ軍への攻撃が続き、ヒズボラ、ハマス、イスラム聖戦が強化されることになると述べた。
また、この合意をすすめているアメリカについては、これまでオープンに話し合ってきたことをあげ、何があっても両国の友好関係はかわらないという立場を強調。しかしたとえ、この合意が署名に至っても、イスラエルはその中には入っていないのであり、その合意の制約にはしばられるものではないということを明確にした。
ラピード首相はこれに先立ち、フランスのマクロン大統領にも電話し、同様のことを伝えている。
3) ネタニヤフ元首相(筆頭野党リクード党首)
ネタニヤフ元首相は、2015年のJCPOAの時以来、非常に危機感を持って、最初からこれに反対してきた人物である。2018年にトランプ大統領が、この合意から離脱して経済制裁を再開させた時もその後もずっと、首相として、この件と向かい合ってきたという背景がある。
ネタニヤフ元首相は、問題点として、特に、この合意では、2024年から新たなウラン遠心分離期を使うことができ、2028年からは、さらに進んだ型に遠心分離期3500基を使うことが可能になる。基本的にこの合意で、イランの核化を認めることになるとと指摘している。
ネタニヤフ元首相は、このイランが出してきた最終的な合意案は、とにかくイランに全てを与えるものであって、イランがなにも失うものがないと、非常に厳しいことばでこれに警告を発した。
また、「合意でイランの核兵器開発を止めることはできない。効果があるのは、強力な経済制裁と、現実的確実な軍事的脅威だけだ。」と従来からの主張を述べた。
ネタニヤフ元首相は、アメリカのFOXニュースなどにも出演し、この件をアピールした。ネタニヤフ前首相は、イランの核問題は、イスラエルだけの問題ではない。核兵器開発とともに、それを乗せるミサイルなどの開発もできるようになると、訴えている。
注目されたのは、ネタニヤフ元首相が、「この件で右派左派で違いはない。我々は一致している。」と述べたことである。若い新米、経験薄の現政権の政治家たちの背後で、超ベテランの貫禄を見せた。
イランとの対峙:すでに戦いが始まっている気配も。。
こうした外交上の緊張の中、サウジアラビアの新聞が、この2月ほどの間、複数のイスラエルの最新鋭F35戦闘機が、イラン領空を何度か飛んでいたと発表するなど、イスラエルとイランの間で続いている水面下での戦闘が、エスカレートする可能性も懸念される動きになっている。
またシリアでは、アメリカがイランの拠点を攻撃。その後、シリアにおける西側連合軍の基地にミサイルが撃ち込まれ、アメリカ兵1人が負傷した。イランの反撃を見られている。合意交渉しながら、すでに戦闘状態になっているということである。
www.bbc.com/news/world-middle-east-62658883
石のひとりごと
今回もアメリカが合意しないということもありうるが、イランの核兵器開発はもう時間の問題であろう。イスラエルがそれをどこまで阻止できるのかという現状に変わりはない。
ただ合意が成立してしまった場合、イランに膨大な資金が流入するので、核兵器にとどまらず、イスラエル周辺にいるテロ組織が一気に力をつけるという点が、イスラエルにとっては、深刻すぎる問題である。
イスラエルは今、北からヒズボラ、南からガザのイスラム聖戦、ハマス、すぐ隣の西岸地区にもそれらは潜んでいて、いまですら、その活動を抑えるのに、日夜イスラエル軍が西岸地区で踏み込み捜査を続けなければならない事態が続いている。
すでに合意への返事がイランに戻されたとのことだが、どんな結果になっているのか。。イスラエルにとっては、核兵器以上にこの足元の問題が深刻になりそうである。