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確証はないがイスラエルの誤射による可能性が高いと米発表
5月11日、西岸地区ジェニンで、イスラエル軍とパレスチナ人との戦闘で死亡した、アルジャジーラのパレスチナ人記者アブ・アクレさん(民間人)の 死因について、パレスチナ自治政府は、イスラエル軍の故意の銃撃によるものと主張し続けている。
このため、焦点は、アクレさんの体内に残っていた銃弾が、はたしてイスラエル軍の銃によるものかどうかを判定する必要があるということになった。しかし、パレスチナ自治政府は、イスラエルが悪用するかもしれないとして、その銃弾を出さないまま時がすぎていた。
これについて、アメリカはかなり自治政府に圧力をかけたもようで、2日、自治政府は、銃弾を、USSC(アメリカのセキュリティ・コーディネーション)に引き渡すことに同意した。(アクレさんは、アメリカ国籍のパレスチナ人であるため)
USSCは、アメリカ大使館内で、いわば科捜研的な調査を行い、4日、銃弾があまりにも損傷しているので、発射した銃の断定は難しいと発表した。しかし、また、それが故意であったかどうかは知りようがないが、イスラエル軍側からの銃撃が原因であった可能性は高いと、なんとなく、ややこしい発表になった。
イスラエルもパレスチナも不満
イスラエルは、銃弾が判定不能であるのに、イスラエル軍によるものと名前を出して非難したことに反論している。
実際、イスラエル軍は、コハビ参謀総長の指示で、かなり詳細な現場検証と、科捜研、独自に兵士たちの立ち位置からも、可能性のある兵士たちへの検証を行っていた。その結果、故意ではなかったことは確かだが、イスラエル軍によるものである可能性は否定しないという結果を出していた。
さらには、もしイスラエルによると明らかになれば、その責任を負うとも言っていたのである。しかし、確たる証拠なしには、責任を負うわけにはいかない。
一方、パレスチナ自治政府には、イスラエルほどの詳細な現場検証を行う能力はない。特にパレスチナ自治政府が、ジェニンで、そうした捜査をする権威は、もはやないのである。にもかかわらず、イスラエルが故意に撃ったと主張しているわけである。
IDF報道官オリビエ・ラフォビッツ氏は、ズーム記者会見において、まずは、銃撃の責任を銃弾のみで判断することに無理があると反論する。現場検証に加えて、死因解明のための遺体解剖の前のレントゲンで、手が入る前に、銃弾がどこにどのようにあったのかを知る必要もある。
実際にところ、アクレさんは、壁の前に立っていたので、銃弾が体を突き抜けて壁にあたって外へ落ちていた可能性も否定できない。そうなると、その銃弾自体が本当に、アクレさんを死に追いやったものなのか、そうでないのかを確実に知ることも難しいのである。
では、このUSCCの解答にパレスチナ自治政府が満足かといえば、そうでもない。イスラエル軍による故意の銃撃であったと断定していないからである。国際法廷に訴える勢いである。アクレさんも、これでこの件が決着してしまうことに不満を訴えている。
この件が、来週、イスラエルを訪問するバイデン大統領とアッバス議長の会談になんらかの影を落とすともいわれているが、実際のところ、アッバス議長、またパレスチナ自治政府の立場が、国際的にもかなり弱体化しているので、アメリカに何かを要求するということは、ほとんど期待できないとみられている。