アブラハム合意から1年:これまでの成果とこれからの課題 2021.9.18

アブラハム合意 2020.9.15 wikipedia

9月15日は、昨年トランプ前大統領の仲介で、イスラエルと湾岸アラブ諸国など4カ国(UAE、バーレン、スーダン、モロッコ)との間に、国交正常化、いわゆるアブラハム合意が成立してから1年を記念する日であった。早いものである。

合意後1年で動いたこと

もっとも大きな動きがあったのは、UAEである。UAEは、最も早くからイスラエルとの貿易、技術協力、互いの国に旅行者の受け入れを開始した。テルアビブに、UAEの大使館、アブダビにはイスラエルの大使館が開設され、すでに互いの大使が着任している。

バーレーンのジャラフマ大使とヘルツォグ大統領 Amos Ben-Gershom (GPO)

これに続くのがバーレーン。イスラエルは、今月初頭、エイタン・ナア氏をイスラエルの大使としてバーレーンへ派遣。

バーレーンは、この15日、アルジャフマ氏をバーレーンの大使としてイスラエルへ派遣し、ヘルツォグ大統領に正式に迎えられた。今月末までに、ラピード外相が、バーレーンを、イスラエル高官として、初めてバーレーンを訪問することになっている。

www.timesofisrael.com/lapid-announces-he-will-visit-bahrain-later-this-month/

スーダンは、アブラハム合意に署名したが、その後国内からの反発が強く、国交正常化へのあゆみは頓挫している。1周年の式典にもすべて出席を見送った。

モロッコは、イスラエルと国交を正常化することで合意。オマーンは、水面下ではすでにイスラエルとの関係はあるが、今の時点では、パレスチナ問題がハードルとなっており、国交正常化までには至っていない。

セルビアは昨年9月にトランプ前大統領仲介で、イスラエルとの国交に乗り出し、大使館をエルサレムに移動すると宣言した。この時、2008年にセルビアから独立したコソボ(イスラム教徒過半数国)も、イスラエルとの外交関係設立に合意すると言っていた。

今後どう動くのか:バイデン政権、ベネット政権もようやく乗り気へ

アブラハム合意については、ここに至るまで、バイデン政権もベネット政権も、具体的な行動や、意思表示もしていなかった。特にバイデン政権は前トランプ政権の政策の多くを覆してきたことから、アブラハム合意の維持を危惧する記事も出始めていた。

こうした中、9月13日、イスラエルと、UAE、バーレーンの国連代表たちは、ニューヨークのマンハッタン・ユダヤ伝統ミュージアムに集まって、アブラハム合意1周年の記念式典を行った。式典には、オマーンの副代表含め、複数の代表たちも出席していた。オマーンは、この4カ国に続いてアブラハム合意に加わるとみられていたが、まだ実現していない国として注目されている国である。

続いて14日、ワシントンでは、前トランプ政権大統領顧問としてアブラハム合意の成立に奔走したジェレッド・クシュナー氏が、イスラエル、UAE,バーレーンとエジプトの大使を招いて記念式典を行った。この時、クシュナー氏は、特にバイデン政権を指さなかったものの、アブラハム合意は、このまま何もしなかったら、無駄になるとの懸念を表明した。

www.timesofisrael.com/kushner-warns-against-neglecting-abraham-accords-at-one-year-anniversary-event/

しかし、17日には、アメリカのブリンケン国務長官が、イスラエルとUAE、バーレーン、モロッコの外相や外交関係者を招いて、オンラインによるカンファレンスを開催した。(以下録画30分ぐらいから開始)

ブリンケン国務長官は、この会議において、アメリカがアブラハム合意をさらに拡大していくことを支援する考えであることを表明。3つの指標を提示した。

それによると、①すでに、合意への参加を決めたか表明している、UAE ,バーレーン、モロッコ、スーダンとコソボとイスラエルの関係を促進する。②イスラエルとエジプト、ヨルダンの関係を深めていく、③アブラハム合意に加わる国を促進していく。

www.timesofisrael.com/serbia-to-move-embassy-to-jerusalem-mostly-muslim-kosovo-to-recognize-israel/

ベネット首相も、今日18日に至るまで、アブラハム合意に関するコメントは出していなかったが、ブリンケン国務長官のカンファレンスで、イスラエルと地域アラブ諸国との関係の突破口になる合意を仲介したアメリカに深い謝意を表明し、これに合意、促進してく考えであることを表明した。

課題はパレスチナ問題

アラブ諸国にとって、イスラエルとの国交を正常化するにあたっての大きなハードルが、パレスチナ問題である。アブラハム合意が実現するまで、アラブ諸国は、パレスチナを“占領”しているイスラエルとは、対話すら避ける立場をとってきたのであった。しかし、時代と経済の流れの変化が、ついに、アラブ諸国がイスラエルと手を結ぶ方向へ進ませたといえる。

しかし、今後、さらにアブラハム合意に加わる国を増やすには、この問題をどう取り扱っていくのかが重要になってくる。ブリンケン国務長官は、このイスラエルとアラブ諸国の合意をもとに、パレスチナ人の生活に、実質的な改善をもたらさなければならないと語った。

また長らく頓挫しているイスラエルとパレスチナの和平交渉を前にすすめなければならないと述べた。その上で、パレスチナ人とイスラエルは、どちらもが等しく、自由と安全を必要としていると語り、アラブハム合意が、中東の敵意を緩和し、テロ活動を減らすことにもつながっていくとの期待も述べた。

イスラエルでは、この時にブリンケン国務長官が、パレスチナ国家を設立する「2国家解決案」を名言しなかったことが注目されていた。ベネット首相は、基本的には、パレスチナ国家を認めない立場だからである。しかし、パレスチナ人の生活の改善には、合意できるということである。

ラピード外相は、先週、ガザ地区への長期インフラ整備計画を発表していたように、イスラエルと、アブラハム合意署名諸国は、パレスチナ人の経済を改善することで治安の維持をめざす、「治安のための経済政策」を目指すことでは一致できるということである。このほか、ブリンケン国務長官と外相たちは、コロナ問題、地球温暖化にむけた協力などについても話し合った。

しかし、モロッコの外相は、「話し合いはできても、実質的に何ができるかが問題だ。」と、シビアな味方を語っている。また、エルサレムをどうするかを考えると、パレスチナが東エルサレムをパレスチナ国家の首都と主張することに、湾岸諸国は合意する立場であり、イスラエルとは合意できない点である。

いわば、深く考えれば、合意できない点は山のようにあるが、そこは今は語らず、とりあえず、協力できるところだけで協力していこうというのが今現在の流れということのようである。

www.timesofisrael.com/blinken-pledges-us-backing-to-expand-abraham-accords-between-israel-arab-states/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。