レバノンからミサイル19発・ガザからも攻撃:イランの方針転換か 2021.8.9

南北国境からの攻撃:イランの方針に変化か

5日、北のレバノンからヒズボラが19発ものミサイルを発射。アイアンドーム迎撃ミサイルが10発撃墜したが、6発は空き地に着弾した。3発は、レバノン領内に着弾した。

イスラエルに被害はなかったものの、2006年の第二次レバノン戦争以来となるヒズボラからの本格的な攻撃で、イスラエル北部での緊張が高まっている。

続いて7日、南、ガザのハマスが火炎風船を発射したため、イスラエルは、ガザのハマス拠点やミサイル発射地などへの攻撃を行なった。イスラエルは、この週末、南北国境で、同時に緊張した状況を迎えたのであった。

時期が同じであることと、ヒズボラもハマスもイランの傀儡であることから、これらの攻撃がたんに、ヒズボラや、ハマスによるものではなく、その背後にいるイランの意図であったことは間違いないとみられている。

イランとイスラエルは、これまで違いに攻撃されたらやり返す、しかし、攻撃はどちらも表明しないという、水面下では、事実上の戦闘状態にあった。しかし、これまでのところ、イランは、国際社会との核合意と、厳しい経済制裁の解除を優先しなければならなかったことから、大きな反撃は避けていた様子であった。

しかし、先週、イランがシリアで大規模にイラン関係施設を攻撃した後、オマーン湾でイスラエルが船主のタンカーがイランのドローンによる攻撃を受けて死者が出るという事件が発生した。イランが、反撃のレベルをあげたのではないかとの懸念がでていた。

その直後でのヒズボラ(北)とハマス(南)からイスラエルへの攻撃である。どちらもイランの傀儡であることから、この南北の軍事衝突の背後に、イランの存在があることは容易に推測できる。

イランでは、3日、穏健派のロウハニ政権から、強硬派のライシ新政権になったこともあり、イランが、イスラエルに対する攻撃をレベルアップした可能性が懸念されている。

www.timesofisrael.com/sensing-a-shift-in-power-dynamic-iran-steps-up-shadow-war-with-israel/

北:ヒズボラからミサイル19発:ナスララ党首が攻撃を認める

経過は先週4日に始まる。4日、レバノンからロケット弾が2発、北部国境の町キリアット・シモナに着弾。1発は、レバノン領内に着弾した。

この時、キリアット・シモナでは、サイレンがなり、公の防空シェルターが解放されたが、ロケット弾は、空き地に着弾し、被害はなかった。この攻撃は、レバノンにいるパレスチナ人によるものであった。

これに対し、5日早朝、イスラエルは、発射地点付近への空爆を実施した。すると、同日11時前、レバノンとシリアとの国境にあるシェバ農場からミサイル19発が、イスラエルに向けて発射された。このうち10発は、アイアンドームが10発を迎撃し、6発は空き地に着弾した。イスラエル側に被害はなかった。

イスラエルはこれに対し、シェバ農場方面へ、戦車からの砲撃を行なっている。

この直後、ミサイルを発射した車を、付近のレバノン人ドルーズ族たちが発見。中にいたヒズボラのアリ・カジャックに対し、「こんなところから発射するから、今、イスラエルが村を攻撃するではないか」と激怒して、車からひきづり出そうとした。

しかし、最終的に、この車とカジャックは、レバノン軍が保護し、無事帰宅している。この後、ヒズボラのナスララ党首は、この攻撃は、4日のイスラエルの攻撃に対する反撃だったとの声明を出した。ナスララ党首は、先の4日の攻撃がパレスチナ人のものであったことを認めた上で、ヒズボラは、この地域の支配者として反撃したのだと述べた。

ナスララ党首は、ヒズボラは、国境での治安悪化のエスカレートは望まないとしながらも、イスラエルからの反撃には、それ相応の攻撃をやり返すとの警告を発した。

www.ynetnews.com/article/6QU38VNPG

南:ガザからの火炎風船にハマス拠点を攻撃

レバノンから19発のミサイルが発射されたことに続いて7日、南部ガザから、火炎風船が飛来。4箇所で広範囲な野火が発生した。これを受けて、イスラエルは、7日夜、ハマスのロケット発射地への攻撃を行なった。

ハマスは、イスラエルが攻撃したレバノンを支持するための攻撃だと発表した。

www.timesofisrael.com/idf-denies-palestinian-claims-it-struck-gaza-in-response-to-incendiary-balloons/

イスラエルの分析と反応

ガンツ防衛相と軍関係者
GPO

今回、2006年の第二次レバノン戦争以来となる大規模なミサイル攻撃にイスラエルがどう出るかで、第3次レバノン戦争になる可能性は十分にあった。すると、ハマスも便乗して南北国境での戦闘になっていた可能性が高い。

しかし、イスラエルは、ヒズボラの攻撃に対し、戦車砲で反撃しただけで、それ以上の反撃には出ていない。

実質の被害がなかったことと、今回の攻撃が、ヒズボラの新しいベネット政権へのお試しではないかとの見方もあるためである。どんな政権下を見極めるということである。

北部国境を視察するベネット首相
GPO

同時に、イスラエルも今、ヒズボラとの全面戦争はしたくない。ベネット首相は後に、攻撃がパレスチナ人であろうがなんであろうが、レバノン政府が責任を持って、地域を取り締まるべきだと表明。いずれにしても、イスラエルは、国内への攻撃に甘んじることはないとの警告を出している。

しかしレバノンは今、無政府状態で、経済も崩壊しており、実質的には何もできないとみられる。この発言はあまり意味がないかもしれない。今のところ、レバノンからの攻撃後、すでに4日になるが、北部の様子は、とりあえず大きな戦闘にはなっていない。

ベネット政権が冷静に対応したということかもしれない。

www.timesofisrael.com/with-first-rocket-attack-in-15-years-hezbollah-risks-war-to-test-israel/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。