全国各地でアラブ人暴徒とユダヤ人暴徒が暴動:バットヤムとエルサレムでアラブ人重症 2021.5.13

バットヤムでの衝突 スクリーンショット

戒厳令下のロッド・アッコでもアラブ人暴徒

ロッド市で未だなかったようなアラブ人による暴動が発生し、市内が無政府状態になっていることはお伝えした通り。ネタニヤフ首相は、ロッド市に赴いて、市民に落ち着くよう呼びかけ、西岸地区の国境警備隊をロッド市に増強配備して、治安回復を目指した。しかし、不穏な空気が続いていたことから、午後8時から朝4時までの間、ロッド市に戒厳令を発動したのであった。

さらに、全国に同じ火が燃え広がることを懸念したネタニヤフ首相は12日、ロッド訪問の後、ユダヤ人とアラブ人が共存する北部アッコにも赴いて、警察とともに現地のアセスメントを聞き、対策を話し合った。また市民には、「法がないところには何も残らない」として落ち着くよう、呼びかけたのであった。

以下は、放火されたロッドのシナゴーグから運び出されるトーラーの巻物

ところが、戒厳令が発令されていたロッドでは、アラブ人暴徒たちはこれを守らず、あちこちに集まって警察と衝突。2人が銃撃されたとのことだが詳細は不明。タムラでは、アラブ人暴徒にユダヤ人男性が車内で刺された。駆けつけた救急隊員(アラブ人)によると、暴徒は、男性を車内で焼き殺そうとしていたという。

ロッド以外でもアッコや、ハイファ、やっフォなど各地で、暴動が発生。アッコでは、ユダヤ人男性(30)がアラブ人暴徒にリンチされ、重症になっている。

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アッコでは、ユダヤ人がアラブ人と共に経営して、美味しいと人気のレストランウリ・ブリ・レストランが放火され焼け落ちた。

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ところが、12日夜の問題は、アラブ人暴徒だけでなく、ユダヤ人の暴徒であった。

ユダヤ人暴徒の暴行でアラブ人2人が重症に:バットヤム・エルサレムも

12日夜、「アラブ人に死を」と叫びながら歩き回るユダヤ人暴徒は、アッコ、ハイファ、ティベリア、エルサレムはじめ、各地で負傷者が出る衝突となった。

バットヤムでは、SNSで集結が呼び出されたユダヤ人の暴徒数百人が、怒りに燃えてマーチし、そのまま、アラブ人の住居や店舗を襲撃して破壊したり、アラブ人男性を車から引きずり出して暴行を加えた。その後集団でリンチする様子のSNSにあげられ、テレビでも流された。男性は重症。

エルサレムではオープンマーケットのマハネイ・ヤフダで、ユダヤ人暴徒らが、アラブ人を刺し、アラブ人は重症となった。アラブ人かユダヤ人かは不明だが、エルサレムでは、51人が負傷して病院に搬送されているもようである。ヘブロンやナブルスなど、西岸地区各地でも衝突が発生していたので、その関係の人も含まれている可能性もある。

この他、各地でも負傷者がでていた。メディアに出ていた分だけでも以下の通りである。①ティベリア:ユダヤ人暴徒らがアラブ人の車を襲撃。アラブ人は軽症。駆けつけた警察官が負傷。。4人が逮捕、②テルアビブ:ユダヤ人暴徒らがアラブ人男性(30)を襲い、男性が重症③ロッド:ユダヤ人暴徒らが中央モスクを襲撃。警察が止めようとしたが、その後暴徒らはアラブ人住宅を襲撃。

この日だけで400人が逮捕されている。(アラブ人かユダヤ人かは不明)

西岸地区でも衝突:パレスチナ人2人死亡

ガザとの戦闘が続く中、西岸地区でも険しい状況が続いている。12日、紛争が頻発しやすいタプアハ検問所で、イスラエル軍兵士の銃撃でパレスチナ人2人が死亡した。兵士は、ゆっくり近づいてきた車両が窓を開けると銃が見えたとして、突発的に銃撃したのだが、車に乗っていたパレスチナ人は、テロリストではなかった可能性がある。

車に乗っていたナブルス在住のアフマド・ダラクメさんはその場で死亡。同僚のモハンマド・アル・ヌバニさんは病院に搬送されたが重症である。

ダラクメさんの遺体は、家族に引き渡され、数百人での葬儀が行われた。イスラム教徒にとっては今日は、ラマダンの最終日となる例祭である。家族にとっては大きな悲しみとなった。ナブルス市長は、「これがイスラエルだ。占領の現実なのだ。」と語っている。

www.timesofisrael.com/pa-2-palestinians-shot-by-idf-were-security-officers-not-terrorists/

同じく12日、ヘブロンの検問所では、パレスチナ人が、イスラエル兵をナイフで刺そうとしたため、重症を伝えられているが、おそらくは死亡していると見られている。

注*西岸地区の件については、任務についている兵士がその任務の中で起こったことである。国内暴動とは違う位置付けになるが、ユダヤ人とパレスチナ人の間の憎しみを悪化させる原因になると考えられるため、このセクションであげた。

ネタニヤフ首相が怒り:チーフラビからの声明

ユダヤ人暴徒の姿にネタニタフ首相は、全く受け入れられないと怒りを表し、「血が燃えたぎっているかどうかはどうでもいい。やっていることは間違いだ。法を自分の手に取るのは間違いだ。ユダヤ人にアラブ人がリンチしてはならないように、アラブ人にユダヤ人がリンチすることも許されない。」と怒鳴りつけた。右派ナフタリ・ベネット氏は、ユダヤ人の暴徒は「ユダヤ人でない」と言った。

スファラディ系のチーフラビ・イツハク・ヨセフは、次のような声明を出した。

“テロ組織に市民が攻撃され、私たちの心は怒りに満ちている。現場は見るに忍びない。しかし、私たちは、挑発に乗って、他人を傷つけてはならない。トーラーは、法を自分のものにして、暴行を働いてはならないと言っている。治安の回復は警察に任せなさい。我々は、諸国の光にならなければならない。諸国に反することは、決してしてはない。”

www.timesofisrael.com/jewish-arab-violence-rolls-through-cities-like-wildfire-with-police-overwhelmed/

アラブ政党ラアム党マンソール・アッバス氏からの声明

アラブ・イスラム政党ラアム党のマンソール・アッバス氏は、イスラエルのアラブ人がパレスチナ人のために立ち上がっていることから、ラピード氏、ベネット氏との連立政権に関する交渉を一時中断している。

イスラエルのアラブ系住民を代表すると主張するアッバス氏は、アラブ系住民に向かって、「賢く行動してほしい。法と社会の秩序を守り、自分と地域の人々の命を守ってもらいたい。」との声明を出した。

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石のひとりごと:イスラエルは、それでも主の支配下にあるのか?

今回急速に悪化しているガザ情勢だが、政権交代で混乱している中、ハマスがここまでの攻撃をしてくるということを見落としたのではないかとの分析が出ている。イスラエルにしては“予想外”に準備ができていなかったというのである。

さらには、内戦のごとくになっている国内情勢は、今この時に政府にとっては、まさに予想外であったと思われる。今、イスラエル政府はまさにミッション・インポッシブルに直面している。

しかし、思えば、この衝突が発生する前、イスラエル政府は打倒ネタニヤフで結束した、ラピード・ベネット組の政府が、アラブのラアム党の協力を得て、12日にも発足するのではとの見通しであった。

それがわずか数日の間にしてひっくり返ってしまったのである。今、ラアム党は、国内のアラブ系住民とイスラエル人との衝突を受けて、新政権との協力交渉を保留にすると発表し、ラピード・ベネットのチームが過半数と確保することはできなくなった。

結局、この難局はネタニヤフ首相のままで乗り切るしかない。まるでネタニヤフ首相を残すために、このような流れになったかのようでもある。

確かにネタニヤフ首相からは、イスラエルを守るという本気度が見え隠れする。主が、この時のリーダーとして、ネタニヤフ首相を残したのかもしれない。いずれにしても、ネタニヤフ首相とガンツ国防相、暫定政権の閣僚たちが、この難局を打開できるよう、逆に前よりも良い状態にできるようにと願ってやまない。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。