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JCPOA(2015年核合意)再合意への道のり
4月6日からウイーンで行われているイランと関係諸国との核合意、JCPOA延長に関する会議について。
2015年にJCPOAで米英仏独中露とイランに対する全ての合意は、2023年10月には、移行の年を迎え、202510月には、JCPOAに関する安保理決議が終了する。今のままであれば、この日以降、イランは事実上、大手を振って核開発ができてしまうことになる。
この期限を前に今、ウイーンで、合意の新しい形とその延長を目指した会議が、イランを含む関係国の間で行われている。
JCPOAの合意については期限つきの合意であったため、イスラエルは最初から強い懸念を表明していた。その後アメリカで登場したトランプ政権は、イスラエルの懸念を共有し、2018年に合意から離脱。イランの核開発能力を実質的に削ぐため、厳しい経済制裁を再開したのであった。
するとイランは、その報復として、ウランの濃縮をその上限とされていた3.67%を遥かに超えた20%まで上げ、JCPOA合意は事実上、崩壊したような形になってしまった。このままでは、イランは本当に核兵器保有国になってしまうかもしれない。
アメリカ以外の合意国(英仏独中露)は、今年4月6日より、ウイーンで次官級の会議を開き、イランを招いて、合意の継続を試みているということである。
バイデン政権はこうした英仏独中露の動きに同調し、なんとか、アメリカもこの合意に加わり、前より強く、長い契約を結ぼうとしている。ウイーンでは、EUを挟んで、イランとの間接交渉を行った。
しかし、これまでのところ、イランは、「アメリカが経済制裁を全て解除するなら、合意に戻らせてもよい。」と強気姿勢を崩しておらず、厳しい状況が続いている。これは、言い換えれば、アメリカはまだ、JCPOAの会議で、直接発言できないという状況にあるということである。
ナタンツ核施設攻撃が生み出したマイナス効果
こうした中11日、イランの中心的な核施設ナタンツで、爆発が発生し、数千基の遠心分離機が破壊されたのであった。当然、イランは激怒し、アメリカの同盟国であるイスラエルによるものだと断定。JCPOAに戻ろうとするアメリカの努力に大いに水を刺すことになった。
アメリカは、イスラエルに、今、イランにちょっかいを出さないよう伝えたようだが、時すでに遅しである。
イランは、報復として、ナタンツの遠心分離機をIR1からIR6に格上げし、ウランの濃縮を60%にまで上げると宣言。そのわずか数日後の16日には、まだ少量ながら、実際に60%にしたことをIAEA(国際原子力機関)に報告し、IAEAもこれを確認したとのこと。報告によると、今やイランは、ナタンツの地上施設で堂々と高濃度のウラン濃縮を行っているという。
昨年7月と今回の2回の爆発被害後に、これほど早く、地上で堂々と核兵器一歩手前の高濃度ウランの精製を行うなど、イスラエルのこれまでの予想が大きく外れただけでなく、本当にイスラエルが今回も攻撃していたとしたとしたら、大きな誤算ということになる。
ウラン濃縮は90%で核兵器レベルになるが、IAEAは、イランは今や数週間で90%にまで濃縮できるようになると警告する。イランは、今のところ、交渉を続けるとして、高濃度ウランも平和的利用に限るとし、IAEAの査察も受け入れるとは言っている。しかし、今、国際社会は、イランの様子に慌てているようである。
この波に乗り、イランは、5月中旬までには、イランの核開発行動と、経済制裁解除を盛り込んだ核合意の再建への合意プランを提出する流れとなっている。
当然ながら、これは、イランに有意な計画であり、欧米諸国がのぞむところではない。やはりアメリカが戻らなければ、イランの背後に中露がいるだけに、ヨーロッパだけでは太刀打ちできないのである。何としてもアメリカが合意に入らなければならない。
今、イスラエルでは、アメリカが、不利な条件下でもとにかく合意に戻るのではないかとの懸念が高まっている。同時に、アメリカの復帰を妨害する結果になったナタンツ攻撃について、逆効果をもたらしたのではないかと、イスラエル国内でも論議になっている。
www.reuters.com/article/idJP2021041701002139?edition-redirect=in
*イランがナタンツ核施設“核テロ”犯指名手配
イランは、ナタンツへの“テロ”を実行した犯人レーザ・カリミ(43)を指名手配し、インターポール(国際刑事機構)に逮捕の支援を依頼した。この人物に関する情報はほとんどない。
しかし、イランは、昨年7月にナタンツ核施設が攻撃された際にも、エルシャド・カリミという人物を指名手配していた。
昨年手配されたカリミは、ナタンツ施設の建設にあたっていた業者で、ウランの濃縮工程に関わっていた人物であった。この時は、結局逮捕にまでは至らなかった。
なお、昨年の破壊でナタンツでの核開発がかなり遅れることになったとイスラエルは推察していたが、今となっては、その判断が正しかったかどうかは不明ということでなる。
www.timesofisrael.com/iran-names-alleged-perpetrator-of-blast-at-natanz-nuclear-site-report/
中国とロシア、イランの反応
現在、アメリカと中国の対立が深刻になっている中、ロシアも活発な動きを始めている。こうした動きに懸念する欧米勢力に対し、中露とイランがチームアップするという形になりつつあるのだが、これらの国が今、一同に介してウイーンでの会議に臨んでいる形である。
中国は、イランが、5月には、再合意のまとめに向かっているとの見通しを述べていることについて、進展であるとの見解を述べている。
www.reuters.com/world/middle-east/china-says-iran-nuclear-talks-continue-pick-up-pace-2021-04-17/
ロシア代表は、2週間にわたるJCPOAに関する会議について、今ようやく、合意内容をまとめる段階に入ったとして、「実際的なことではまだまだ合意に至らないが、それでも、概念だけでなく、目標に向かっての具体的なステップにおいての合意をまとめる段階に入った。」とTwitterに書き込んだ。
イラン代表は、新しい合意に向かっているとしながらも、まだまだ深刻な不一致が将来に残されていると述べた。
どんな合意になるかは、まもなく明らかになると思われるが、イスラエルと湾岸諸国も、自国の治安に関わる問題であるので、かなり注視していると思われる。
www.timesofisrael.com/russia-says-iran-nuclear-talks-advancing-but-some-issues-will-take-time/