アメリカと対立する中国:イランと25年契約・中東へ進出 2021.4.1

中国の王毅外相とイランのザリフ外相 スクリーンショット

民主主義の限界が意識され始めた世界では、社会主義、専制主義の中国の進出が目立ってきている。中国の香港、台湾、尖閣諸島、東シナ海への明らかな進出が懸念される中、1月には海警法を成立させて、対抗する勢力への武力行使を認めるまでになった。

国内では、中国の無宗教主義と合致しない、イスラム教徒が多く在住するウイグル自治区への圧力を強化している。具体的には、ウイグル文化を禁止して中国教育に強制するなど、民族浄化とも受け取れる政策を実施している。中国は、今年7月に中国共産党設立100周年を迎える。この時に、国の統一、繁栄や達成を誇示するためにも今、国内外でその仕上げに入っているとみられる。

アメリカの対中包囲網構築の動き

このため、アメリカは、3月18日、アメリカの呼びかけにより、ブリンケン国務長官とサリバン大統領補佐官(安全保障担当)、中国の楊共産党政治局員と王毅外相が初会見を実施した。アメリカのブリンケン国務長官が、東南アジア地域への明らかな中国の進出にとどまらず、アメリカへのサイバー攻撃や、経済紛争に関して、中国を直接的に非難すると、中国もアメリカに反発。互いを直接罵るような衝突となった。

www.bbc.com/japanese/56452629

一方、これに先立ち、アメリカは、3月15-17日、日本を訪問し、日本と2プラス2(外相と国防相)での会談後、韓国を訪問。中国との会談後の18日にはクワッド(アメリカ、オーストラリア、インド、日本)でオンラインで会談を開き、太平洋での対中包囲網を確認している。

その後、22日から25日まではEUを訪問して、NATO(北大西洋条約機構)外相理事会に出席。中国に対しての結束を呼びかけた。今、世界は、これまで以上に、欧米民主主義陣営と、中露を中心とする共産、社会主義陣営という2大勢力に分離して、睨み合うという形になり始めているようである。

www.nikkei.com/article/DGXZQOGN24DGQ0U1A320C2000000/

こうした中、中国と新しいアメリカ、バイデン政権の動きを見据えていたとみられる北朝鮮が、弾道ミサイルを発射させ、アメリカではなく中国陣営に着くとみられるような動きを見せた。国連の報告によると、北朝鮮はすでに弾道ミサイルに核弾頭を装着する技術と持っているという。

www.nikkei.com/article/DGXZQOGN31DTR0R30C21A3000000/

余談になるが、アメリカと中国の対立、中国陣営側に回るとみられる北朝鮮の間に挟まれ、今後日本が巻き添えになっていく可能性が高い。こうした中、日本が明らかに迫りつつある危機になんの対処もしていないと、日経新聞は、懸念を表明する記事を出している。

中国の中東進出:王毅外相の中東6カ国歴訪

こうした中、中国の王毅外相が、3月24日から、6日間、中東を歴訪し、いよいよ中東への本格的な介入を始めた。アメリカがコロナ対策とアジア対策で手一杯で中東政策が遅れている中、先手をとられた形である。王毅外相が訪問したのは、トルコ、イラン、サウジアラビア、バーレーン、UAE、オマーンである。特に、アメリカと対立するイランとの強力な同盟関係(25年で4000億ドル支援)を締結した他、アブラハム合意に署名した国々も訪問し、中東での中国の存在感を急速に拡大している。

1)イランと25年協定を締結:イランの強行姿勢を後押し

この話は以前から準備されていたものだが、中国はイランに、今後25年の間に計4000億ドル(約44兆円)もの投資を約束し、経済、安全保障の分野で、協力していく契約を締結した。これにより、イランはもはやアメリカや国際社会の経済制裁を懸念する必要がなくなったとも言える。今後、イランは、アメリカに対し、さらに強い態度に出てくる可能性がある。ただし、中国がどこまで約束を守るかではあるが。。。イスラエルは、中国の動きに強い懸念を表明している。

*イランの態度の変化について

トランプ前政権は、イランとの核合意から離脱し、経済制裁を強化した。結果、国内から現政権が打倒され、民主的な国になることを望んでいたのであった。同時にアメリカ(おそらくはイスラエルも関与?)は、スレイマニ革命軍参謀総長暗殺、核開発の先頭に立つファクリザデ博士暗殺を実施。イスラエルもシリアのイラン軍関係施設への攻撃を数え切れないほど実施して、イランの軍事力を削ぐことに力を注いで来たのであった。

イラン国内では、今の政権を打倒する動きは、何度かあったが、政権を揺るがすものにはならなかった。20年近く、神戸に在住するイラン系ユダヤ人のAさんによると、イランの現政権は、内側で相当な弾圧を行っているとのこと。また、国際的には、イランは、いくらアメリカとイスラエルの攻撃を受けても、水面下でのサイバー攻撃などにとどめ、大きな反撃を控えている様子であった。おそらくは、トランプ政権が終わるかもしれないという点を見据えようとしていたとみられている。

こうした中、本当にトランプ政権が倒れ、バイデン政権になった。就任してから2ヶ月、バイデン政権は、今のところ、中東に速攻で介入する様子がないことが明らかになりつつある。代わりに、国際的にもイランへの経済制裁が行われる中も、イランとの交易を続けてきた中国が、中東への先手を打った形になった。このため、イランは、バイデン大統領が、核合意に戻る事を示唆しても、まずは、アメリカが先に経済制裁を全面的に解除すべきであると、これを一蹴する態度を取り続けている。それでもバイデン大統領は、イランとの話し合いに戻る呼びかけとそのための経済制裁緩和を続ける動きにある。

なお、現時点で、イランはすでに、ウランの濃縮を、平和利用には不要な20%にまで上げている。これは、2015年の核合意にすでに大きく違反していることを意味する。イスラエルは、アメリカのイランへの歩み寄り姿勢に懸念を表明し、イランの核開発については、水面下ではアメリカと連絡を取り合っていると伝えられている。

2)サウジアラビアなど湾岸諸国訪問

王毅外相は特に、イスラエルが次なるアブラハム合意締結の国として、アプローチを続けてきたサウジアラビアを訪問し、モハンマド・ビン・サルマン皇太子と面談。王毅外相は、イエメンで戦うサウジアラビアの立場を理解すると確認した。(その後、サウジと戦うイランと25年協定を結ぶのだが)。

サウジアラビアについては、バイデン大統領が、次期国王であるモハンマド皇太子を、ジャーナリストのカショギ氏暗殺を支持したとする問題を持ち出し、これまでのアメリカとの良い関係を一転させたという状況にある。イスラエルとの関係も微妙になってくる可能性もあり、アブラハム合意にサウジアラビアが加わらなければ、他の湾岸諸国も合意をどこまで継続させるかは、不透明ということになってくる。

王毅外相は、この他、湾岸諸国では、バーレーン、UAE、オマーンも訪問している。

3)トルコ訪問:ウイグル自治区弾圧問題

中国が弾圧しているとされるウイグル人は、民族的にトルコ人に近いという。このため、多くのウイグル人が難民となってトルコに非難している。中国はトルコにこの人々の返還を求めて、トルコへのワクチン輸出を遅らせているのではないかとの疑惑もある。このため、トルコがワクチンのために、ウイグル人を中国へ返還させているとの疑惑も上がっている。

会談の内容は不明だが、この会談の後、トルコは中国からワクチン1000万回分を受け取ったとのことである。

イスラエルの反応

イスラエルでは、選挙問題やコロナのニュースがほとんどで、中国の動きについては、まだ今のところ、危機感をもった記事はあまり出ていない。中国とイランとの強力な同盟関係については、これまでからも情報はあったのか、その締結が完了したということも、すでに想定内であったと考えられる。

また、イスラエルは、アメリカと一番の同盟国ではあるが、経済や技術面でも中国との関係を維持する立場にある。今後、中国とどのように関わっていくか、知恵の使い所になるだろう

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。