24時間感染者7527人・死者53人:ロックダウン強化も官民混乱状態 2020.9.25

i24 スクリーンショットhttps://www.youtube.com/watch?v=YLdIQ1eX1bU

24時間新規感染者7500人突破

保健省によると、24時間の新規感染者数は、ここ数日7000人に近い数字が毎日続いていたが、24日7527人を記録した。23日に行われた検査5万6307件に対する陽性率は13,6%にのぼった。感染者総数は、このひと月の間に10万人以上増えて、21万4458人となった。市中感染が急速に拡大し、次のステージに入ったとみられる。

新規感染増加の割に抑えられていると言われていた死者数だが、23日、24時間の死者数が53人(メディアによっては59人、61人)とこれまでの2倍近くを記録した。死者の合計は1378人。

最新データによる現時点での陽性者は6万786人。重症者は669人、このうち人工呼吸器依存者は167人。まだまだ戦いは終わりそうにない。

www.timesofisrael.com/over-7500-virus-cases-diagnosed-in-day-as-israel-set-to-enter-full-lockdown/

政治と科学の不一致:混乱する政府・国会

この状況を受けて、政府コロナ閣議は、今の中途半端なロックダウンを、第1波の時よりもさらに厳しい100%ロックダウンに強化し、25日午後2時より開始することで合意したと発表した。新規制は2週間の予定とされている。

それによると、前は許可されていた職場も出勤が禁止となり、学校、幼稚園もさらに厳しく閉鎖される。運行するバスもほとんどなくなるとのこと。しかし、まだ指示はかなり複雑だ。政府から出ている指示は、日常生活、来週初頭のヨム・キプールの過ごし方など、4ページに及んでおり、非常にわかりにくい。

問題は、このロックダウンが、専門家の意見ではなく、政府が政治的な理由ですすめていると考えられる点である。決定は、コロナ担当ガムズ教授の推奨ではなかったことが明らかになっている。

また、この強化ロックダウンともなう損失は100億ドル(1兆円)になるとも推測されている。イスラエルではすでにこの1週間で11万人が失業保険に登録しており、このロックダウンへの打撃は計り知れない。カッツ経財相は先週のロックダウンから、今回も反対を表明している。

当然、野党は、ラピード氏などが、非常に厳しくこれに反対し、国に対する犯罪に値するとも言っている。今回の100%ロックダウンは、ネタニヤフ首相が、自身の辞任を求め続けるデモを差し止めるというのが、最大の目的だったという報道まで出てきた。(これについては、ネタニヤフ首相は、フェイクニュースだと反論している。)

こうした紛糾の中、閣議が出したこの案は、国会の審議を3回通過したら実施となる。24日の緊急国会審議で、一回目は可決したが、2回目3回目の決議に向けて一晩中論議したとのこと。あと数時間でロックダウン突入時間となる金曜朝、まだ可決できていないと伝えられている。おそらくロックダウンが始まる午後2時ぎりぎりになって決断を出すと思われる。

通常、目に見える敵との戦いにおいては、官・軍・民が一致して非常に優秀な動きをみせるイスラエルだが、今、コロナという、目に見えない敵に対しては、まったく手立てができないまま、右往左往しているようである。

専門家の指摘:100%ロックダウンの何が問題か

ネタニヤフ首相は、コロナ閣議で可決された100%のロックダウンについて、「これは戦争と同じだ。人々の命を守るためには、この方法しかない。落ち着き次第、前の信号システムに戻すので理解してほしい。」と人々に訴えた。しかし、専門家たちからは、この方策は、専門家の意見を尊重した科学的なものではないと指摘している。何が問題なのか。

1)疫学者ではなく政府主導のロックダウン

コロナ担当ガムズ教授は、信号システムを推奨しており、あくまでも危険地域のみのロックダウンを推奨している。しかし、今回、政府は、ガムズ教授の案ではなく、政府独自の判断によるもっときびしい全国いっせいロックダウンを決めた。ガムズ教授は、人々がもっと危機感をもつ結果につながればとして、これに反対するつもりはないと言っている。

ハダッサ医療センターのゼエブ・ロツテイン教授は、このロックダウンは、「国の経済にとっての大災難だ」と述べ、社会全体のロックダウンは、本当に警戒しなければならない、超正統派やアラブ人社会の家庭内感染拡大を予防することにはつながらないと批判した。

2)人の行動ではなく集会の制限が必要

ヘブライ大学とハダッサ医療センターの疫学者ハガイ・レビン教授(ガムズ教授のチーム構成員)は、政府は、100%ロックダウンといいながら、ヨム・キプールの時の集会は容認方向であることから、実際にロックダウンが始まるのは、29日からになると指摘。

ヨム・キプールは、国民の90%近くが、嘆きの壁やシナゴーグに行って祈ると言われている日である。レビン教授は、コロナ感染対策で最も重要な点は、人々の行動範囲ではなく、集会の制限だと述べ、ヨム・キプール中の集会制限をしないことへの大きな疑問と怒りを投げかけた。

また、免疫学者のシリル・コーヘン教授は、空港を閉鎖することについては、出国する人はみな検査を受けてから出国する。もし陽性であれば、帰宅して隔離する。この分野で感染が拡大するとは考え難いとし、空港を閉鎖することへの疑問も投げかけた。

全国に大きな負担と犠牲を強いながら、肝心なところは取り締まっていないというのが、論理的でないというのが、専門家たちの意見ということになる。

www.jpost.com/health-science/coronavirus-do-health-experts-think-the-lockdown-will-work-643495

3)国民の信頼と一致がないので効果は期待薄

100%ロックダウンといいながら、様々な矛盾があることは素人目にも明らかである。また政府の指示がジグザグであることからも人々が、指示に素直に従えない点でもある。テレビ取材だけでなく、イスラエル人友人たちからも、「おかしい」との不満の声が聞こえている。

指示が複雑であればあるほど、人々は理解しにくく、自ら協力しなくなる。疫学者のレビン教授は、「疫病との戦いは、人々が政府を信頼し、人々がすすんで、継続的に感染予防対策を行うことにある。」と主張する。

「今の政府は、感染者数やその分析などの明確な数値を国民に開示していない。ロックダウンはしても、2週間後にそこからどう出てくるのかの明確なビジョンもない。」として、国民の理解と協力が得られる状態にないと指摘する。

第一波の時は、戦争と同様、官・軍・民一致であったので、イスラエルは、感染を抑え込む世界でも最も優秀な国の一つであった。しかし、今は、この一致が崩れているので、国を100%ロックダウンしてもまだ効果は期待薄だとラビン教授。

イスラエルは、世界の中でも進んだ医療・保険のシステムがあるにもかかわらず、このような状態になるのは残念きわまりないとの様子であった。

ではどうしたらいいかだが、レビン教授は、前回5月に規制解除を行うにあたり、ネタニヤフ首相が、「これからはアコーディオン方式で、感染が拡大したら国を閉め、おちついたら解放することの繰り返しだ。」と言っていたことについて、疫学的に言えば、大間違いだと指摘する。

伝染病は感染者数が減ったからというこを基準に同行を見てはならないとし、継続した感染予防対策が必要であると述べた。

結局のところ、市民たちは、政府の指示に依存せず、それぞれ自分の命を守るために、どうしたらよいかを考えて行動すること。すなわち、マスクの着用であり、手洗い、パーソナルディスタンスの維持、人が集まる機会をできるだけ避けるということだと語った。

Prof. Hagai Levine 24.9.20.mp4

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。