これまでで最大:全国で反ネタニヤフ首相デモ 2020.7.27

スクリーンショット i24 News

連日、また土曜安息日開けに続いている反ネタニヤフ首相デモ。この土曜日もエルサレムでは、同じ首相官邸前パリ広場で、6000人以上が集まり、ネタニヤフ首相に辞任を求めるデモを行った。

こうしたデモは、テルアビブと、ネタニヤフ首相の私邸があるカイザリヤ、また全国の主要道路の交差点でもデモ活動が行われた。これまでで最大と報じられている。

おおむね平和的で、報道やツイッターで流れる映像を見ていると、デモでは、バンドが音楽を奏でていたり、なにか怪しげな人々が座り込んでいたりと、デモ隊の中に祭りのような動きもみられた。

しかし、警察が許可したデモの時間が、全国では夜8時から11時までのところ、エルサレムでは、夜中1時まで延長され、最終的には、深夜1時半ぐらいから、この日も放水車が2台動員されて、デモ隊を蹴散らした形となった。この日だけで12人が逮捕された。

この時、顔に強力な放水の直撃を受けて、後ろに打ち倒される男性の映像が出回り、警察への批判が高まっている。警察の報道官は、「人々はデモを行う権利がある。しかし、警察との協力の元でやってほしい。感染予防の条件を遵守することも大切だ。この日も警察は、200人にマスクを手渡した。」と、述べた。

こうしたデモは大きいとはいえ、夜のみで、参加者は全国合わせても数万人。全国が大混乱になっているというわけではない。エルサレムでは、デモが行われている周辺地域住民からの苦情も出ているという。

しかし、参加する人々の数が増えてきていることから、市民の政府への不信が高まっているのではと指摘されている。

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<デモ隊が求めているもの:ネタニヤフ首相辞任>

デモ隊が訴えているのは、ネタニヤフ首相の辞職だが、その理由として考えられるのが以下の点である。

1)コロナ対策の失敗(明日食べる者がない)

新型コロナ対策は、3−5月の最初の波の時は、首尾よく短期間に感染をおさえこむことができたのだが、経済活動再開を急ぎすぎたために、再び感染拡大が始まってしまった。この失敗については、ネタニヤフ首相も認めている。

しかし、今では、感染者数だけでなく、重症者、死者数が拡大。経済では、失業率21%から今も回復せず、家賃の支払いだけでなく、食事代もまかなえない市民が出始めている。(家を失い、小さな子供を連れてキャンプ場に滞在する家族の記事もあった)

さらに、感染と経済の両立という難しい政策が求められる中、前波の時にシンボルのごとくに活躍した保健省のバル・シモン・トーブ長官のような司令官が不在で、てきぱきした指示が政府から出てこないことも市民の不満と不信を呼び起こしている。

ネタニヤフ首相は、在職14年目となり、イスラエル史上最長の首相である。そろそろ交代すべきとの世論も大きい中、ベテランの特権や根回しで、ぎりぎりながらも、他にネタニヤフ首相に変わる政治家がいないということで、なんとか、首相の座にとどまっているという状態であった。このために、いったん反発が出始めると、一気に反発が広がるという流れである。

2)23日に法律となったコロナ法は民主主義を危うくする

政府がてきぱきした指示を出せない背景には、国会委員会の存在があるとネタニヤフ首相は考えたようである。23日、ネタニヤフ首相は、新型コロナ対策をタイムリーに実施するため、政府の権限を強化する大コロナ法案を提出。国会がこれを可決して、実施されることになった。

これに伴い、ネタニヤフ首相は、国会委員会*を4部門に集約し、国会コロナ委員会はなくなった。政府は、緊急事態宣言を最長60日まで延長できる他、コロナ閣議で決めた内容をすぐにも実施できるようになる。ネタニヤフ首相は、コロナ閣議の人数も15人から10人に減らすと発表した。

デモ隊は、この法律が、イスラエルの民主主義の原則を大きく損なうとして、ネタニヤフ首相に反発している。

*国会委員会

政府というものは、政策を考案し、それが実施できるよう、法案を国会に提出し、国会で可決されたら、法律となり、政府はその政策を実行に移せるという流れである。しかし、与党は、もともと国会で過半数を維持しているので、国会に出された法案は、だいたいそのまま可決されるというのが通例である。

いいかえれば、たとえ民主国家でも、政府が暴走することもありうるということである。

これを防止するため、イスラエルには、様々な分野に分かれての国会委員会が設置されている。この委員会は、政府の出してきた法案を、国会に提出される前に審議し、問題があれば、政府に差戻すことができるという委員会である。

新型コロナの対策を監視する委員会も立ち上げられていたが、この委員会が、先週から政府の出してきた対策案を、立て続けに2回突き返したとのことであった。週末だけの経済活動の縮小に関する内容であったが、不公平な点、疫学上理論的でないなどとの指摘が上がっていた。

3)刑事裁判の出廷する者が首相であるべきではない

上記以外に、やはり、刑事裁判に出廷する人物が、首相であってはならないと訴える人々である。ブラック・フラッグと呼ばれる組織も混じって反ネタニヤフ首相デモを展開している。

また左派勢が、パレスチナの旗を振りかざすなどして、警察に連行された。

www.timesofisrael.com/thousands-protest-against-netanyahu-government-across-country/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。