緊急統一政権合意成立:ネタニヤフ首相18ヶ月先行在任へ 2020.4.21

ガンツ氏(左)とネタニヤフ首相 出展:GPO/Times of Israel https://www.timesofisrael.com/annexation-rotation-et-al-key-elements-of-the-netanyahu-gantz-coalition-deal/

ネタニヤフ首相18ヶ月在任へ

20日夜、ネタニヤフ首相とガンツ氏が、最長36ヶ月を期限とする緊急統一政権をたちあげることで、ついに合意、署名したと発表された。

まず、ネタニヤフ首相が引き続き、最大18ヶ月留任し、その間、ガンツ氏が副首相を務める。18ヶ月後、首相はガンツ氏に交代。その際は、ネタニヤフ首相が副首相となる。閣僚は32人で、ネタニヤフ首相右派ブロックとガンツ氏中道左派ブロックで2分する。

この緊急統一政権が国会に占める議席は、ネタニヤフ首相右派ブロックからは、リクード(36)、シャス(9)、、統一トーラー党(7)、オーリー・レビー・アベカシス中道左派(1)の計53議席。

ヤミナ(強硬右派党)は、中道左派ガンツ氏が副首相となる統一政権に加わるかどうか、まだ検討している。もし、加わることが決まれば、右派ブロックは6議席増えて、計59議席となる。

ガンツ氏左派ブロックからは、青白党(15)労働党など左派諸党(4)で計19議席。アラブ政党と、リーバーマン氏のイスラエル我が家党は、加わらない。これにより、緊急統一政権の議席は、120議席中、計72議席で過半数となる。

とりあえずの緊急統一政権ということで、これから先6ヶ月は、新型コロナ対策に集中し、この問題以外の大きな法案には取り組まないとしている。また、この間は、司法長官、警察長官など、重要な役職を新たに任命はしないとされた。

ネタニヤフ首相・ガンツ氏:確実な交代で合意

これまで、統一政権にむけた交渉に時間がかかっていた理由の一つは、ネタニヤフ首相の在職期限を、確実に定めるということの難しさであった。

ネタニヤフ首相は、自らの立場がやばくなると、すぐに国会を解散し、選挙でぎりぎりとどまるということを、何度も繰り返してきた。ネタニヤフ首相が、汚職で起訴されている今こそ、ネタニヤフ首相を退陣させなければならないとして、立ち上がったのがガンツ氏であった。

ところが、コロナ危機という、予想外の国の緊急事態になったため、ガンツ氏が大きく折れて、統一政権に合意したわけである。ネタニヤフ首相からガンツ氏への交代が、確実に行われるようにとの取り決めが、合意の中にもりこまれなければならず、ぎりぎりになって、まとめ上げたという感じである。それによると以下の通りである。

まず、今のままネタニヤフ首相が18ヶ月(1年半)首相を続ける。18ヶ月後は、自動的にガンツ氏に交代するということで合意した。

ただし、もし、半年後に予定されているネタニヤフ首相の起訴・聴取により、司法長官が、もはや首相継続は不可と判断した場合、18ヶ月前でもガンツ氏に交代となる。この際、古い国会は解散、選挙を行って、ガンツ氏を首相に、新しい政府・国会をスタートさせる。

加えて、この流れを変えるべく、ネタニヤフ首相が、まだ首相の地位にあるうちに、単独の判断で、先に国会を解散することはできないとした。

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テルアビブ5000人規模のデモ:ネタニヤフ首相に合意したガンツ氏を批判

ガンツ氏が、ネタニヤフ首相を退陣させるということで、青白党ガンツ氏に投票した人々にとっては、いくら緊急事態とはいえ、ガンツ氏がネタニヤフ首相の下に入ることは、裏切りともいえる動きである。これについては、外出規制が緩和された直後の16日、テルアビブで、2000人規模の反対デモが行われた。

また、デモは、合意成立に先立つ19日夜にも、再度テルアビブで行われた。ネタニヤフ首相と、ガンツ氏の合意に反対するデモに参加した人は、5000人に上った。市民たちはマスクを着用し、互いに2メートルの間隔を開けて集会に参加した。加えて、数千人が、バーチャルにこのデモに参加していたとのことである。

”ブラック・フラッグ”と称するこのデモでは、今回、初めて政治家が、ステージに立った。群衆に向かってスピーチしたのは、青白党ヤイル・ラピード氏、モシェ・ヤアロン氏、アラブ統一政党のアイマン・オデー氏など、中道左派の政治家である。

ラピード氏、ヤアロン氏は、「起訴されている犯罪者は、司法長官や警察長官にはなれないのに、首相にはなれるというのはおかしい。ネタニヤフ首相は、イスラエルの民主主義を破壊しようとしている。」と、ネタニヤフ首相を批判した。

また、「これは、緊急統一政権などではない。たんに5期目ネタニヤフ政権にガンツ氏が加わっただけのことだ。」とガンツ氏も批判した。

はたして、これで政治運営ができるのか。緊急統一政権は、気が遠くなるほど前途多難な様相である。

www.timesofisrael.com/thousands-rally-in-tel-aviv-2-meters-apart-accusing-pm-of-destroying-democracy/

西岸地区入植地の合併については、7月1日に審議開始予定

緊急統一政権は、ここ6ヶ月は、新型コロナ問題に集中するとのことだが、一つだけ、例外がある、西岸地区の一部を合併する法案については、予定通り、7月1日から国会での審議を開始する。

非常に複雑だが、説明を試みるとすれば次のようになる。もうすぐ立ち上がる新閣僚の顔ぶれは、右派(合併推進)と左派(合併反対)と50/50になる。したがって、閣議では、西岸地区入植地合併が通らない可能性もある。しかし、もしこれを国会に持ち込めば、右派の議席数の方が多いので、通る可能性が高い。

ネタニヤフ首相は、この問題について、6月29日までには、アメリカと完全な合意に漕ぎ付けると主張。その際は、時を待たずに、合併を早期に実施するべきだと言っている。つまり、今の緊急統一政権の形は、ネタニヤフ首相にとって、念願の西岸地区入植地合併への道を開いたとも言われている。

このため、西岸地区入植地指導者たちは、「イスラエルにとって、今、最も重要なコロナ問題と西岸地区の問題だ。その解決への道筋がみえてきた。」と、ネタニヤフ首相と、ガンツ氏にも祝いを述べたとのこと。

なお、トランプ大統領から、提案として出された中東和平案は、西岸地区入植地の30%をイスラエルとして合併を認める代わりに、70%は、非武装のパレスチナ国家とするというものである。イスラエルは前者は当然合意するが、後者については合意しておらず、アメリカとの交渉を続けている。

パレスチナ自治政府は警戒

パレスチナ自治政府のシャタイヤ首相は、”(西岸地区)合併政府”が成立したとして、警戒を表明している。「もし、このまま、西岸地区でイスラエルの支配地が宣言されるなら、パレスチナ人が国を立ち上げ、2つの国が共存するという夢が終わる。そうなれば、アッバス議長と我々はあらたな道に進まざるをえない。」と述べた。

このように、一気に西岸地区入植地をイスラエルが合併するとなるとパレスチナ人らの反発は避けられず、中東和平は、あっという間に頓挫してしまう。アメリカとしては、右派の声だけが強すぎても困る。しかし、新しい政権は、右派だけでなく、左派を含む統一政権である。

右派案が無理なら左派案、またはその中間でというように、立場を両方維持しているので、面目は維持される。統一政権の成立は、ネタニヤフ首相だけでなく、トランプ政権にとっても、中東和平を棚あげせずに、別の道を模索というように、継続していく道を開いたとも言われている。

www.timesofisrael.com/unity-deal-allows-netanyahu-to-begin-advancing-annexation-from-july-1/

イスラエルとパレスチナ、アメリカ、ハマス、イラン・・・・これらの国々の問題は、まさにチェスかパズルのようで、なかなかわかりにくい。海千山千の政治家たちが、コロナ危機にあっても、先の先までを見据えて、コマを動かしているようである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。