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イスラエルでは3月23日に4回目総選挙が行われる。これに向けて、2月4日が、選挙名簿の提出期限であった。提出したのは39党。最終的に国会に議席を持ち得るのと考えられるのは、このうちの13党である。これから、選挙まで、激しいチェスのような選挙戦の火蓋が切られたといえる。
ネタニヤフ首相は、在職12年だが、今回も降りるつもりはない。さらに国会で議席数を増やして、安定した政権をめざしている。この12年、特に最近ではアブラハム合意や、ワクチン最速で実施など、様々な功績もあり、汚職裁判中はあっても、ネタニヤフ首相以上の政治家はみあたらないというのが現状である。
このため、現時点でのリクード(ネタニヤフ首相)の予想獲得議席は、相変わらず30議席と最大数をさしている。しかし、そろそろ交代をと望む政治家や市民も少なくなく、まだ確実な予想はできない。
チャンネル12の主任政治アナリスト、ダナ・ウエイス氏は、今回の総選挙は、これまでの選挙と違い、パレスチナ問題や、イランとの防衛などといった政策の違いがポイントではなく、右派も左派も関係なく、ネタニヤフ首相をどうするのか、という点が焦点になっていると解説する。
再選ねらうネタニヤフ首相の逆風
ネタニヤフ首相は無論、今回も引き下がる意思はまったくない。しかし、チャレンジは今回も大きい。ネタニヤフ首相を取り囲む課題は、自身の汚職裁判を別にすると以下の通りである。
1)ホワイトハウスに友人がいない
ネタニヤフ首相は、トランプ前大統領と蜜月であった。トランプ大統領が、失脚した後、バイデン大統領は、ネタニヤフ首相にはまだ電話もしておらず、その背景がいろいろ憶測されている。いずれにしても、ネタニヤフ首相に、これまでのような友人はホワイトハウスにはいないということである。
2)規制緩和開始後、コロナ情勢がどう出るかがまだ定まっていない
新型コロナパンデミックは、世界を揺るがし、それぞれの国の首脳たちの力量を浮き上がらせている。トランプ前大統領は、コロナ前までは、経済の回復もあり、絶好調であった。しかし、新型コロナ対策で築き上げた全てが壊されて、最終的には2期目に残ることができなかった。
ネタニヤフ首相は、世界に先がげてワクチンの重要性を察知して、昨年中に確保、接種を速やかに開始している。しかし、ネタニヤフ首相の支持基盤である超正統派が、感染予防に非協力的であるのを厳しくとりしまってこなかったことから、感染はまだ収束までは見通せない。
こうした中、経済、心理的打撃が大きすぎるとして、ワクチン接種もすすんでいるとしてガンツ氏は、制限緩和を主張。ネタニヤフ首相とぶつかった。最終的に、2月下旬から、徐々に制限を緩和していくことになっているが、イスラエルには様々な変異種も確認されており、第4波に発展していく可能性は否定できない。
もし、3月23日の選挙までに、コロナ情勢が悪化すれば、ネタニヤフ首相に逆風となる。しかし、ウェイス氏は、今回は、ガンツ氏の主張で、制限緩和をしているので、ネタニヤフ首相は、第4波に発展しても、ガンツ氏のせいにするのではないかと指摘していた。
3)野党・世俗派中道左派勢力からの逆風:未来がある党ヤイル・ラピード氏:予想18議席
これまで世俗派左派たちは、青白党ガンツ氏を支援していた。しかし、支持者たちは、ガンツ氏が、左派でありながら、右派のネタニヤフ首相に兜を脱いで、連立政権を組んだことに幻滅させられた。その後もネタニヤフ首相に頭が上がらない様子に、ガンツ氏への支持は急落している。次回の選挙で、ガンツ氏が、最適議席数をとれずに、国会にも入らない可能性もある。
一方、ガンツ氏とともに青白党を立ち上げたヤイル・ラピード氏は、ガンツ氏のネタニヤフ首相との連立参入に反対し、青白党を離脱した。世俗派の支持は、その後も左派信念を貫いたラピード氏に移行しつつある。今、ネタニヤフ首相にとっては、ライバルとなっている。
ラピード氏は、バイデン米大統領が、就任後3週間たってもまだネタニヤフ首相に電話してこないのは、ネタニヤフ首相があまりにもトランプ前大統領と近かったせいではないかとし、バイデン大統領にためにも、イスラエルの政府を一新しなければならないと主張している。
*その他の左派政党:労働党(かつてイスラエルを建国した党だが、今は没落して極左となっている)、メレツ、青白党、これらはいずれも、最低得票を取れるかどうかわからないと言われている。
4)右派からの打倒ネタニヤフ首相勢力が2つ
①ギドン・サル氏(ニューホープ党):予想14議席
ネタニヤフ首相は、リクード党の中に強固な支持基盤があるので、12年も首相を続けているのであるが、これに反発する若手が出始めている。その中で最大は、リクードでナンバー2と目されていたギドン・サル氏。ギドン氏は、昨年、リクード投手選挙に出馬して、ネタにタフ首相の首相からの失脚を試みたが、失敗に終わった。その後、自らが党首を務めるニューホープ党と立ち上げた。
選挙後、仮にネタニヤフ首相から連立への誘いがあっても入らないことを断言している。
②ナフタリ・ベネット氏(ヤミナ・右派党)予想11議席:今回のキングメーカー
ナフタリ・ベネット氏は、かつてユダヤの家党党首であったが、今は、そこから出て新たな右派党を立ち上げた。主に宗教右派勢力の政治家を率いるというのがベネット氏である。
ベネット氏は、あくまでも国政に関わること、やがては、首相になることをめざしている。このため、打倒ネタニヤフ首相をめざしつつも、もし、ネタニヤフ首相が、連立を組むことになった際には、それを断るかどうかは明確にしていない。
したがって、総選挙のあと、ベネット氏がネタニヤフ首相につくのか、ラピード氏につくのかで、どちらが首相になるか、いわゆる「キングメーカー(王がだれかを決める)」立場にあるとみられている。以下の通りである。
*その他の宗教右派政党
右派政党は、サル氏のニューホープ党、ベネット氏のヤミナ党のほかに、右派政党は、極右カハナ派のオツマ・ヤフディ党と手を組むことを発表したスモトリッチ氏の宗教シオニスト党、ラフィ・ペレツィ氏のユダヤの家党がある。ニューホープ、ヤミナ以外は、最低議席とれるかとれないかと言われている。
www.jpost.com/israel-elections/poll-finds-yamina-will-decide-wholl-be-pm-658202
ネタニヤフ首相あり・なし:どちらの可能性もあり:予想される連立政権の例
①ネタニヤフ首相が首相
リクード(ネタニヤフ首相)を筆頭に、シャス・ユダヤ教政党、宗教シオニスト党、統一トーラー党で49議席。これにヤミナ右派党(11)が加わればぎりぎり60議席である。
②ネタニヤフ首相は失脚
未来がある党(ラピード氏)、もしくはニューホープ(ギドン・サル氏)を筆頭に、イスラエル我が家党(リーバーマン氏)、労働党、メレツ、青白党が加わるもので52議席、これにヤミナ党(11)が入ると余裕で過半数となる。
ネタニヤフ首相の動き
ネタニヤフ首相は、12年も首相を続けている超ベテランの政治家である。そしてまだ引き下がる様子はない。これまでの様子を見ると、どんな逆風が来ても、ネタニヤフ首相はひるむことなく、時に、はしたないほどに明らかな対策を講じる。ウェイス氏は、ネタニヤフ首相は”蛇”のように賢く、先を読み、作戦を遂行する政治家だと語っている。
ネタニヤフ首相が、30−31議席を取ったとして、どの党と連立を組むことができるのかで、国会120議席の過半数60議席を余裕でとれるのか、ぎりぎりなのか、それとも取れないのかが決まってくる。メディアは、その予想に忙しいのだが、あまりにも将棋のチェスかなにかのようで、理解するだけでも難しい。
今回の総選挙にあたって、ネタニヤフ首相はいろいろな動きを始めている。その一つで注目されたのが、極右カハナ派(オツマ・ヤフディ党)ベン・ギブール氏を選挙名簿に入れ、閣僚の椅子を少なくとも一つ与えると約束した件である。
オツマ・ヤフディ党をネタニヤフ首相の側につくとする宗教シオニスト党と手を組ませることで、わずかな票ではあるが、連立に加わる党の票となり、議席につながるかもしれないとうことである。しかし、この党が、極右のカハナ派であるため、問題と指摘されている。ネタニヤフ首相は、オツマ・ヤフディ党は、連立政権に加わるのではなく、閣僚に加わるということだとネタニヤフ首相は説明している。
このほか、ダナ・ウェイス氏は、ネタニヤフ政権が、同じ右派でありながら、自分を倒そうとするベネット氏、サル氏とは交渉せず、左派のラピード氏に目を置き、前のガンツ氏のようにとりこもうとする動きもあると言っていた。
メディアは、こうした水面下の動きを伝えているが、全部を理解することは難しい。3月23日、いったいどのような形になるのか、イスラエルの王はだれになるのか、まだまだ見えないというところである。
石のひとりごと
ネタニヤフ首相がなぜ、ここまで首相でい続けるのかとウェイス氏も聞かれていたが、これまでの功績などと答えていたように記憶している。ネタニヤフ首相が、ここまでやるのは、執念のごとくにイスラエルを愛しているからではないかと思う。決して自分の自己実現で、首相でいたいということではない。それだけなら、とうにやめていると思えるほど、叩かれている。
ネタニヤフ首相に、悪がないわけではない。しかし、イスラエルを守る、守りきる、そのためにはなんでもする、自分が恥かいてもよい、という執念だけは、だれにも負けないように感じる。
あまり関係ないかもしれないが、来年、大河ドラマは渋沢栄一とのこと。江戸末期から明治にかけて、まさに近代日本を立ち上げた代表する実業家である。今まであまり知らなかったが、学ぶことが多そうで楽しみである。その渋沢栄一が以下のように言っている。
夢なき者は理想なし 理想なき者は信念なし 信念なき者は計画なし 計画なき者は実行なし 実行なき者は成果なし 成果なき者は幸福なし ゆえに幸福を求むる者は夢なかるべからず
よく言いすぎかもしれないが、ネタニヤフ首相が、様々な成果を上げてきたということは、祖国イスラエルの安全と発展を常に最優先にしてきたのではないかと思う。こうした政治家がイスラエルの歴史の中には多くいる。ベン・グリオン、イツハク・ラビン、シモン・ペレス、そして、アリエル・シャロンなど。
アリエル・シャロン氏も執念のごとくにイスラエルを敵から守ろうとしていたと思う。時期首相はだれになるのか。こうした執念を持つリーダーが立ち上がるように。