3年ぶり:改革案含む予算案(2021-2022)が閣議を通過 2021.8.2

挙手で予算案に合意するベネット内閣 Amos Ben-Gershom (GPO)

2021-2022予算案:徹夜の審議

ベネット政権閣僚は、1日朝、共にドルゴピャト選手のオリンピック金メダル獲得を祝ったあと、リーバーマン経済相が先週提出した予算案(2021-2022)に関する審議に入った。

この予算案が通らなければ、この政府は終わる。ベネット首相は、閣議の始まりにあたり、「この会議で、政府がどうなるかが決まる。今回の予算案は、各省庁に益になることではなく、イスラエル国家全体の益になることを考えて決めてもらいたい。」と述べた。

1日、審議がはじまった後、午後8時になっても合意には至らなかった。深夜を過ぎて、徹夜での審議となったが、2日早朝、閣議はついに全員が挙手をし、合意に至ることができた。閣議で予算案が通過するのは、実に3年ぶりである。

予算は2021年度が1870億ドル、2022年度は1730億ドル(約20兆円*日本は107兆円レベル)。2022年度は、イランとの対立を考慮してか、防衛費が21億ドル(2400億円)増やされてて、178億ドル(1兆8000億円)となっている。

この案は、今後11月までに、国会で審議され、過半数を3回獲得しなければならない。国会ではアラブ政党の合意も得なければならない。たった1人が反対するだけで、もうこの案は終わりとなる。その結果は、自動的に今の政府が解散となり、5階目総選挙に向かうことを意味する。

これまでの政権の予算案は閣議すら通らなかったのであり、3年ぶりに閣議を通ったことは、非常に喜ばしいことではあるが、戦いはまだ始まったばかりということである。

しかし、5回目の総選挙はだれもが避けたいので、無理矢理にでも予算案は通るのではないかとリーバーマン経済相は語っているとのこと。

www.timesofisrael.com/after-overnight-talks-to-resolve-rifts-cabinet-meets-to-vote-on-state-budget/

大きな改革を含む予算案のハードル

1)各省庁のおもわく

この予算案では、様々な改革案が含まれているという。ポイントは、物価を下げること。方策として、①インフラ整備、公共交通、不動産への投資、②役所手続きの簡素化をあげている。イスラエルでは、新しく事業を立ち上げる際、とにかく役所での手続きが煩雑で、かなりの時間とエネルギーを費やす必要があった。

改革をすすめるには、様々なハードルがつきものである。まずは、市場の海外への解放。保健省は、コロナ禍でもあり、20億シェケル(600億円以上)を要求するとともに化粧品に市場解放に反対。農産省も、果物野菜の市場開放に反対し、それぞれ聞き入れられない場合は、予算案に合意しないと主張した。

移民省は、エチオピア移民を受け入れるための予算をもらえないなら、予算案には合意しないと言った。

2)ユダヤ教超正統派への締め付け

最大のポイントとも考えられるのが、超正統派への公的支援の改正である。①コシェル認定(食品そのもの、またその工場やレストランがユダヤ教の食物規定にあっているかどうかを認定すること)をイスラエルのチーフラビ局だけの専業を廃止するという案、

②社会で働いていないイシバ(ユダヤ教神学校)生徒は、子供が3歳になるまで子育て支援の受給資格がないとする案を挙げている。この対象になるのは2万家族にのぼっている。

リーバーマン経済相は、このユダヤ教超正統派の税制優遇や、従軍免除を不公平とみており、この是正をずっと主張してきたのであった。いうまでもなく、超正統派からは、リーバーマン経済相に対する怒りと反発が出た。

多くのイシバ学生の家庭では、通常、妻が働いて生計を立てている。夫が勉強している間、子供をデイケア(国の支援)に送って、妻が働いているのである。リーバーマン経済相は、このデイケア支援を切ることで、イシバに通う男性たちが、社会に出て働くことを目標にしたわけである。

もしくは、実際には、陰で働いている男性もいるので、そういう人たちに支援を出さないと言っているのだとリーバーマン陣営は説明している。

しかし、超正統派からは、この支援打ち切りが実施されたら、女性が働けなくなるので、国は、生活保護を出さなければならなくなり、前より予算を圧迫するようになるとの意見を返してきたのであった。

一方で、これは、超正統派と敵対しているようではあるが、いわば交渉しているという見方もある。

ユダヤ教政党は、どの政権であっても、結局自分たちに有利な政府には、右派であろうが左派であろうが、かまわず合流するという性質がある。ベネット政権は、あらゆる機会をさぐりながら、このユダヤ教正統派が、今の政府に加わることもまた可能性としてみているともいえる。

いずれにしても、超正統派を敵に回すことは、現政権にとって得策ではない。ベネット首相は、ユダヤ教超正統派の利益は守ると宣言している。

www.timesofisrael.com/could-avigdor-libermans-moves-against-ultra-orthodox-sink-the-coalition/

今日、合意に至った予算案が、この点でどう変化したのは不明だが、ともかくも、閣議での合意には至ったということである。

石のひとりごと

ベネット政権。ベネット首相自身のヤミナ党は国会で6議席しかないというのが、逆に有利になっているのか、内閣は、5回目総選挙を避けるというだけでなく、イスラエルという国のために、なんとかともに頑張っているようにもみえる。

たんなる個人的な見方ではあるが、ベネット首相の言動からは、自分の立場よりも、とにかくイスラエルを守るという意気込みを感じる。この立場に立つと同時に、投資で大成功していることもあり、今波に乗っている人物とみてよいだろうか。

ともかくも、この非常にあやういベネット政権とその閣僚、続けて主が確実に導いてくださるよう、とりなされたし。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。